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「話が脱線してしまったけれど、つまり、この白紙の魔方陣はこれで正解なの。これが、意味するところは、ひとつよ」
カウンターでの俺とラテュレとのやり取りは、イフやマーシャルには聞こえていないようだった。
ただ、イフが心配そうにこちらを見ているのはわかった。
「魔方陣が真っ白なのは、そこに描かれるものがなかったから。ただし、あなたの六芒星は確かに存在している。それは、なぜ?」
俺は、ラテュレの言葉の続きを待った。
「マーキングが、すべて魔方陣の大円の枠外だということ。羊皮紙の魔方陣の外にあなたの六芒星は、存在している。だから、この羊皮紙には、点も線も存在しない。つまり、すべての資質が規格外、オール・オーバーと呼ぶのが適切よ」
ラテュレは、真摯な調子で言った。
オール・オーバー、中二ライクに響く言葉である。
(オール・オーバー。通り名とか異名の話でもなく、事実を表す意味での言葉ならば……)
俺の思考を補完するように、ラテュレは、
「物理攻撃力・物理防御力・敏捷性などの身体的な能力の資質は規格外、魔力攻撃力・魔法防御力・精神力などの魔術的な能力の資質も規格外、全て規格外ということよ」
と、言って、
「あなたは、何なの……?」
「俺は……」
「A級……いいえ、その枠を飛び越して、S級だと思うわ。英雄級と言っていい」
何と言いのだろうか、俺は言葉に詰まった。
「さっきのはほんのお遊びだったけれど、あなたとは本気でやりあいたいぐらいよ」
ラテュレは、ジュースの入ったグラスを傾けた。
逡巡している俺に対して、ラテュレは、ため息をついた。
「まあいいわ。言いたくないことや言えないことの一つや二つ、誰にだってあるもの」





