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血液検査は、俺にとっては、罰ゲーム以上のイベントだった。
何かの宣告や判決に等しいほどに悲劇だ。
注射器のちくりとした鋭い痛みも苦手だが、何よりも血の色が大の苦手なのである。
血液検査で、注射器に溜まっていく自分の血の色を見て、気分が悪くなってしまったこともある。
血管迷走神経反射と呼ばれる症状だ。
注射を打たれた後に、じわじわと吐き気・耳鳴り・冷や汗に襲われるのである。
緊張が強ければ強いほど、症状がひどく出るようだ。
対処法は、寝て注射を打つことである。
俺自身、看護師の人に、寝ながらの注射をお願いしていた。
(それに、血の色がどうにも受け付けないんだよな……)
と、俺は、心中うなだれていた。
血液は、生体内で細胞が生きてゆくうえで必要不可欠な媒質だ。
人の血液量は体重のおよそ8パーセント前後だったはずである。
血の色は赤と形容されがちだが、正確には、動脈血は鮮紅色で静脈血は暗赤色だ。
二つの色の違いは、ヘモグロビンが酸素を運んでいるかどうかで決まる。
血液中には酸素を運ぶ細胞いわゆるヘモグロビンが大量に含まれているのだが、ヘモグロビンは、酸素を運んでいる時と運んでいないときで色が異なる。
酸素を運んでいる時は鮮紅色で、酸素を運んでいない時は暗赤色となる。
肺から酸素を取り入れて末梢へ向かうヘモグロビンが多い動脈血は、鮮紅色である。
一方、酸素を運んでいないヘモグロビンが多い静脈血は、暗赤色である。
俺は、どす黒い暗赤色が苦手だった。





