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「九重さんは、有期契約に基づいて、この世界の住人となります」


 妙な違和感の正体は、すぐに、わかった。


 エストが、口にした、有期契約という言葉だ。

 

 俺は、まだ学生だから、詳しくは知らないが、テレビのニュースなどで得た知識ぐらいは、持ち合わせている。


 有期雇用契約とか、そういうふうに、使われていた気がする。


 この場合は、要するに、有期、すなわち、期間を定めて雇用の契約を結ぶということで、メリットもあり同時にデメリットもあって、功罪相半(こうざいあいなか)ばすると、評論家の男性が、言っていた。


(でも、それは、サラリーマンの仕事の話だろう……)


 エストの言葉と、俺の知識とが、うまくマッチングしない。


「有期存在契約について、お伝えしましょう」


 有期存在契約なんて、有期雇用契約に、語呂が似ていると思い、同時に、根拠もないのに、嫌な予感がした。


「厳密に言えば、あなたが、この世界に留まり存在するための、有期存在契約です。契約期間は、百日間です。契約期間の満了日が設定された存在契約で、これに基づき、あなたは、この世界の契約住人となります。契約住人とは、この世界と、期間の定めのある存在契約を結んで、この世界に留まり存在する者のことをです」


 と、エストが、丁寧に、言った。


「……君が、言ってくれたことは、何となくわかるよ。有期契約という言葉は、多分、スマートフォンで検索すれば、出てくると思う」


「エスト、で構いませんよ。九重さん。あなたがいた世界の、有期雇用契約で、考えてくれれば、理解していただけると思います」


 と、エストは、にっこりと微笑んで、言った。


「有期契約の説明は、ここまでとしましょう。有期契約の百日間を、どう過ごすのかは、あなた次第です。のんびりと日々を、送るのもよいでしょうし、仕事に励むのもよいでしょう。ちょっとした冒険に出てみるというのも、素敵ですね」


 こんな美少女と話をしているのに、妙な心のざらつきを、感じた。


 この会話の先行きに、俺は、不安をおぼえているのだろうか。


 全然先が見えない、五里霧中(ごりむちゅう)状態である。


 麻雀で言えば、全然流れがきていない、というやつだ。

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