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葉川喫茶  作者: 百川歩
8/13

客⑦陽気なオヤジ


窓からぽかぽかとした日差しが差し込んでくると、なんだか暖かくなって眠くなる。

こんな日はゆったりと一日を過ごしたいものだ。

…いつもそうしているようにも思うが。

ふと見ると、手元のカップはいつの間にか空になっていた。僕は頼む気も起きず、呆然とカップの底の黒い水滴を見つめていた。



ガチャ


ドアが開く音がして、その音がどこかに向かっていた僕の意識をこの世に引き戻した。

見ると、僕の傍らには短髪で腹巻き、そしてその上に青い羽織りを着た褐色の男性…いや、いかにもオヤジらしいオヤジが立っていた。


「マスター!久しぶりっ!」


そうオヤジが言うとマスターが厨房からひょこっと顔を出した。


「テツさん!お久し振りですね〜」


「ほんとに久しぶりだなぁ!どうだぃ、最近は?」


「話し相手がいなくて退屈で…、テツさんは?」


「マスターにゃ悪いが、うちは大忙しよ!ここに来る暇もありゃしねぇ!」


オヤジはガハガハと笑うと、ここいいか?と言い、乱雑に椅子を引いてカウンター席に座った。

僕は来てんじゃん、と思ったが口には出さなかった。


「商店街の方もなにやら忙しそうですね」


マスターはそう言いながらオヤジにコーヒーを出した。オヤジはコーヒーを受け取ると鼻をフンと鳴らし、


「商店街は七夕祭りの準備でぃ!俺も今年は龍の準備やなにやらで大変なのよ!」


得意げにそう言った。


あぁ、もうそんな時期か…

僕はそんな事を思いながら、頬杖をついて二人を見た。


「おぉ、テツさん龍踊りするんですか、二年ぶりですね」


「てやんでぃ!俺の踊りを目にしっかり焼き目がつくまで焼き付けろよっ!」


オヤジはガハガハと笑う。


「すみません。今年は見れないです…、その日もお店があるので」


マスターは申し訳なさそうに再度すみません、と続けた。


「客なんかほとんど来てないんだからよぅ、店なんか一日ぐらい閉めちゃっても誰も困らねぇよ!」


「僕は困ります」


僕はきっぱりと言い切った。

マスターも困った顔をしている。


「…七夕の日、マスターの店はなんかやるのかい?」


「そうですね、誕生日パーティーですかね……山田くんの」


「マスター…!覚えてくれてたんですか…!」


僕は頬を緩ませてマスターを見た。


「……そうだったか」


「分かってましたけどね、テツさんが僕の誕生日覚えていないことなんて!」


僕は言った後に、まぁテツさんが普通なんだけどね…、と心の中でそう自嘲した。


「それに大林さんと8時からドラマを見る予定もあるんですよ」


あ、そうだった…。あのオバサンくるんだった…。

正直、ちょっとガクッときた自分がいた。


「あぁ、それはキャンセルできねぇなぁ!仕方ねぇ、あのオバチャン、怒ると恐いからなぁ!」


「何でそれで納得するんですか!僕の誕生日より大林さんとのドラマの方が重要なんですか!?」


「そうですね」


そう言ってマスターは僕にとてもいい笑顔を見せてくれた。


「えぇ…!マスターだけは僕の味方だと思ってましたよ!僕は悲しいです!」


「山田少年もオバチャンが来てくれると嬉しいんじゃないか?」


オヤジは今までで1番愉快そうにガハガハと笑った。


「えっちょっと…あんまりあのオバサン好きじゃないんですが…」


「そうですね、山田くんは嬉しがりますね」


「いや、ちょっと…マスター!!?」


オヤジがまたガハガハと笑った。

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