客⑦陽気なオヤジ
窓からぽかぽかとした日差しが差し込んでくると、なんだか暖かくなって眠くなる。
こんな日はゆったりと一日を過ごしたいものだ。
…いつもそうしているようにも思うが。
ふと見ると、手元のカップはいつの間にか空になっていた。僕は頼む気も起きず、呆然とカップの底の黒い水滴を見つめていた。
ガチャ
ドアが開く音がして、その音がどこかに向かっていた僕の意識をこの世に引き戻した。
見ると、僕の傍らには短髪で腹巻き、そしてその上に青い羽織りを着た褐色の男性…いや、いかにもオヤジらしいオヤジが立っていた。
「マスター!久しぶりっ!」
そうオヤジが言うとマスターが厨房からひょこっと顔を出した。
「テツさん!お久し振りですね〜」
「ほんとに久しぶりだなぁ!どうだぃ、最近は?」
「話し相手がいなくて退屈で…、テツさんは?」
「マスターにゃ悪いが、うちは大忙しよ!ここに来る暇もありゃしねぇ!」
オヤジはガハガハと笑うと、ここいいか?と言い、乱雑に椅子を引いてカウンター席に座った。
僕は来てんじゃん、と思ったが口には出さなかった。
「商店街の方もなにやら忙しそうですね」
マスターはそう言いながらオヤジにコーヒーを出した。オヤジはコーヒーを受け取ると鼻をフンと鳴らし、
「商店街は七夕祭りの準備でぃ!俺も今年は龍の準備やなにやらで大変なのよ!」
得意げにそう言った。
あぁ、もうそんな時期か…
僕はそんな事を思いながら、頬杖をついて二人を見た。
「おぉ、テツさん龍踊りするんですか、二年ぶりですね」
「てやんでぃ!俺の踊りを目にしっかり焼き目がつくまで焼き付けろよっ!」
オヤジはガハガハと笑う。
「すみません。今年は見れないです…、その日もお店があるので」
マスターは申し訳なさそうに再度すみません、と続けた。
「客なんかほとんど来てないんだからよぅ、店なんか一日ぐらい閉めちゃっても誰も困らねぇよ!」
「僕は困ります」
僕はきっぱりと言い切った。
マスターも困った顔をしている。
「…七夕の日、マスターの店はなんかやるのかい?」
「そうですね、誕生日パーティーですかね……山田くんの」
「マスター…!覚えてくれてたんですか…!」
僕は頬を緩ませてマスターを見た。
「……そうだったか」
「分かってましたけどね、テツさんが僕の誕生日覚えていないことなんて!」
僕は言った後に、まぁテツさんが普通なんだけどね…、と心の中でそう自嘲した。
「それに大林さんと8時からドラマを見る予定もあるんですよ」
あ、そうだった…。あのオバサンくるんだった…。
正直、ちょっとガクッときた自分がいた。
「あぁ、それはキャンセルできねぇなぁ!仕方ねぇ、あのオバチャン、怒ると恐いからなぁ!」
「何でそれで納得するんですか!僕の誕生日より大林さんとのドラマの方が重要なんですか!?」
「そうですね」
そう言ってマスターは僕にとてもいい笑顔を見せてくれた。
「えぇ…!マスターだけは僕の味方だと思ってましたよ!僕は悲しいです!」
「山田少年もオバチャンが来てくれると嬉しいんじゃないか?」
オヤジは今までで1番愉快そうにガハガハと笑った。
「えっちょっと…あんまりあのオバサン好きじゃないんですが…」
「そうですね、山田くんは嬉しがりますね」
「いや、ちょっと…マスター!!?」
オヤジがまたガハガハと笑った。




