客④噂好きな女性-1
雨が降っている。
どうも梅雨に入ったらしく、今日も朝から強い雨が降り続けている。
僕はまた窓際の席で外をぼーっと見ていた。
すると、バシャバシャと水しぶきを上げながら、人影が近づいてくるのが見えた。
「うわ、あの人、苦手なんだよなぁ…」
僕はそうボヤくと、見えてしまったその人に気付かれないように奥の席に移った。
「あー濡れた濡れたわー」
肩を濡らし、派手な黄色と黒の服を着た40代ぐらいだろうか、そのぐらいの年齢の女性が傘を折りたたみながらドアを乱雑に開け、入ってきた。
「いらっしゃいませ、お好きな席に…」
マスターがそう言っている途中に、女性は入口近くの窓際の席にどかっと腰を下ろした。
「アイスコーヒーにガムシロップ入れてちょうだい」
「かしこまりました」
マスターがアイスコーヒーをもってくると、待ってましたとばかりに女性は喋り出した。
「マスターまたタケちゃんの名前間違えたんだってェ?いい加減覚えてあげなよ、いじけてたよォ〜!」
マスター…名前間違えてるの僕だけじゃなかったのか…
「え、そうでしたっけ…」
「ヒロさんって呼ばれたって商店街をトボトボ歩いてたよ、タケちゃんの寿命、縮めてるのマスターなんじゃないィ?」
女性は笑いながらそう言い、
マスターは「ははは…」と笑いながら頭をかいた。
「にしても…」
女性は周りをキョロキョロと見渡し、(僕はサッとテーブルの下に身を縮めた)
「この前の事件から、ただでさえ少ない客がより少なくなったんじゃないのォ?」
「……」
「あの子、普通の顔してとんでもないもの抱え込んでたのねェ…」
「あの子は、イイコでしたよ」
「……」
二人の間に沈黙が流れる、あの女性が静かなところを見るのがはじめてで、僕は少しうろたえた、が、
「あらァ〜!この本!私知ってるわよォ〜!」
杞憂だったようだ…
彼女はすぐに元気を取り戻し、店内に飾られている一冊の文庫本を手に取った。
「この作品、ドラマ化決定したやつでしょ?主演が●●くんの♡」
「ほう、そうなんですか、知りませんでした。でもその本、面白いですよね」
「マスターわかる男ねェ!ドラマは来週の月曜日の8時からよ!一緒に見ましょ!」
「良いですね、ここで観ますか」
「あらァやだマスター!商売が上手いのねェ!私をここに来させる気でしょ!仕方ないからノってあげるわよォ!」
どうやら月曜日はこの人が来ることは確定したらしい、最悪だ…
「そういえば、今日は…」
「あの家の娘さんが…」
「一昨日近くのスーパーに…」
その後も女性主導のマシンガントークが繰り返され、気がつくと実に四時間近くが経過していた。
女性は喋る度に元気になり、それに比例するようにマスターは目に見えて疲れていった…まるで栄養を吸い取ってるようだ。
「あぁ、じゃあそろそろ帰ろうかしらねェ、夕飯の準備もしなくちゃだから…」
「そうですか、色んな話を聞かせていただいてありがとうございました。また来てくださいね」
「そうねェ…じゃあまた来るわァ
あ!もう一つ話したいことがあったんだった!聞いてよマスター!」
「あぁ…はい…」
あ、これ知ってる、終わらないやつだ
マスター、ご愁傷様です
マスターに手を合わせ、あのオバサンは話に夢中で僕には絶対気づかないんだろうな、なんて思いながら僕はテーブルに頬杖をつき、目をつぶった。




