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葉川喫茶  作者: 百川歩
3/13

客③小さな女の子


「雨ですね、山田くん」


「そうですね、僕の名前は山田ではないですけどね」


「お客さん来ないですね山田くん」


「そうですね、僕も客ですけどね」


雨が降っているのを窓際の席でぼーっと見ながら会話をかわす。雨の日はただでさえ少ない客がより少なく、マスターも暇なのだ。


「なにかかけますか」


そう言ってマスターは黒っぽいCDコンポを開き、CDを入れた。すると、いつも通りの、よくわからない英語のバラードが流れ始めた。


「またそれですか…あんま好きじゃないんだよなぁ…他の曲かけてくださいよ」


「山田くんはこれ好きでしたよね」


「ちょっと、聞いてます?」


マスターの傍若無人っぷりに流石に僕もいらいらして、マスターの方を向き、声をあげた。

マスターは僕の方を向いておらず、入口の方を見ていた。

そこには、雨に濡れた小さな女の子がいた。


「いらっしゃいませ、寒いでしょう、中へどうぞ」


そう言うとマスターは少女を中へ招き入れ、自分は厨房の方へと行ってしまった。

僕は「ちぇっ仕方ないな」と小声で言い、にっこりと少女に笑いかけた。


「どこから来たの?お嬢ちゃん一人?お母さんは?」


「………」


何も返答はない。僕はじれったく思いながら、少女をまじまじと見た。

少女は紺色の布地に赤い花の模様がついたワンピースを着ており、黄色い小さなかばんを肩にかけていて、そのどちらもびしょびしょにぬれている。

幼女性癖を持っている人ならとても喜びそうだ…


そんなことを考えていたら、奥からマスターがバスタオルとマグカップを持ってきた。マグカップからは湯気が出ていて、なんとなくあまーい香りがする。


「さぁさ、これで拭きなさい。温かいココアもあるから、これも飲みなさい」


マスターはそう言ってバスタオルを差し出し、ココアを窓際のテーブルに置いた。


少女はバスタオルを受け取るとぐじゃぐしゃに丸めて自分の顔を拭き始め、少し経つと、ある程度拭き終えたと思ったのか、少女はマスターに「ん」と言ってぐしゃぐしゃのままバスタオルを差し出した。


「まだ全然濡れてるじゃないか…」


マスターはそれを受け取ると、少女の体を拭き始めた。


「君はどこから来たのですかな?お母さんはいないのです?」


マスターがそう質問すると、


「ママとかいものしててね、あめふってきてね、ママがどっかいっちゃったの」


おいおい…マスターの質問なら答えるのかよ…

僕はそう思ったが口には出さなかった。

それよりも、この少女は…


「迷子…ですかな」


マスターが拭き終え、先ほどココアを置いたテーブルと少女を交互に見て、


「あの席に座ってココアでも飲んでいてください、すぐに戻りますから」


と言って再度厨房の方へ入っていった。





二人きりになり、何か喋らきゃと思う僕を横目に、少女はココアを自らの息で冷ましながら飲んでいる。


「美味しいかい?ココア」


「……」


無言である。

えぇ…こっちがせっかく勇気出して話しかけてんのに…

そう思ってしばらく見つめていたら、


「うう…うう……」


「え」


「ママぁ、どこぉ…」


少女は堪えていたものが解けたように泣きだしてしまった…

………落ち着いているように見えて、母がいなくて泣いてしまうほど、子どもなのだな

僕は先ほど思ったことを反省し、少女の正面に座り自分なりに優しく、元気づけられるよう、喋り出した。


「あー、その、うん…。

大丈夫!お母さんはすぐ来るよ!

それにここにはマスターもいるし、僕もいるから…。

うん、ここにいる間は僕をお兄さんと思ってくれていいから……」


バタン!


突然ドアが開き、所々濡れた、茶色のコートを着た女性が入ってきた。


「ママーー!!」


少女が女性に飛びつき、歓喜の声を上げる。

女性もその場に座り込み、少女をぎゅっと抱きしめて、「よかった、よかった…」とつぶやいている。


僕はそれをただ呆然と見ながら、


「ママ、来るの早すぎだよ…せめて最後まで言わせてくれよ…僕の勇気を返してくれよ…」


誰にも聞かれないよう、小さくそう呟いた。



まだ抱きしめ合ってている二人を見て、…まぁなにはともあれよかったか、と思い、笑った。


「あぁ、早かったんですね、橘さん」


マスターがひょこっと出てきて、僕の隣へ立った。

女性はマスターに気づくと、立ち上がり、


「ありがとうございます、本当にありがとうございます…ほら、チーちゃんもお礼を!」


チーちゃんと呼ばれた少女は、モジモジとしながら、母親に寄り添って、小さな声でこう言った。


「ありがとう………


「はい。今度は二人でいらしてくださいね」


「あぁ、今度は迷子になるなよ」


「………おじいちゃん」


「ちょっ!僕はァ!?」


少女はニッコリと笑い、店内には悲痛な叫びが、こだました。

今回、ちょっと長くなってしまいました、すみません。

これでも短くまとめたつもりなのですが、長くor短くしてほしいなどの意見がありましたら、気軽に書き込んでください、よろしくお願いします。

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