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第二章:モンスター娘でハーレムパーティー③

 広大な平原を終えて場面フィールドは鬱蒼とした森へと移り変わる。

 木々の隙間から差し込む陽光が木漏れ日となって道を示し、その枝で羽を休めている小鳥達の囀りと川のせせらぎによる自然の協奏曲を奏でられ、優しい微風が森の中を吹き抜けていく。そんな穏やかな時と自然に囲まれている中で、ハルカは小さく溜息を吐く。その顔色は悪く、明らかに不調を訴えている事が手に取るようにわかる。

 実際、ハルカは軽い胃痛に襲われていた。転生してから今日に至るまで、風邪や大怪我を一度も負ったことなく五体満足健康優良に過ごしてきた。胃痛の原因は主にストレスから発症する。そのストレスと言うのが――

「ハルカ、アタシの背中の乗り心地は大丈夫? 辛くない?」

「私のハルカを寝取った寝取った寝取ったネトッタネトッタユルサナイユルサナイユルサナイ……」

 新たに仲間として加わったケンタウロスのリリーと、決闘した事によって仲間になったリザードマンのフレイア、彼女達二人にあった。

 リリーが仲間に加わってからと言うものの、彼女は何かと背中に乗るように誘ってきた。ハルカとしては別に疲れてもいなければケンタウロスとは言え女性の背中に乗って自分だけが楽をする、と言う事に抵抗があった。何より特に急ぎも出ずのんびりと歩いている以上、自由に休憩を挟める為乗り物に乗ると言う必要性はなかった。

 だが、そうして断り続けていたある日、遂にリリーは弓矢を構えて半場脅してくるようになった。本人曰く射撃の練習で指が滑った、怪しい人影が見えたと口にするが放たれた一矢には確かな負の感情が篭っていた。フレイアも当然リリーを咎めるが本人は全く反省する様子を見せない。

 このままいけば大惨事になる。そう判断しリリーが訴えてきた時は極力彼女の背中に乗ることをハルカは心がけるようにした。

「……もう少ししたら例の谷だ。お願いだから危ない行動だけは絶対にしないでくれよ。後仲間になった以上連携力が決め手となってくる。戦闘時にはお互い足りない部分をきっちりフォローしあってだな――」

「わかってる。大丈夫、アタシとハルカならフレイアがいなくても問題ない!」

「私の方が妻として優れている事をこの駄馬の前で見せつけてやります!」

「そう言うのをやめろって言ってるんだよ俺は! 頼むから喧嘩しないでくれ!」

 ハルカの心中に不安がよぎった。

 数日前に立ち寄ったノノの村の居酒屋で得た情報で、戦士の谷と呼ばれる場所にドラゴンが住み着いたと言う情報を得た。戦士の谷は今は絶滅したノトラ族と呼ばれる少数民族が暮らしていた場所。その名の通り魔物であろうと大軍であろうと決して後退せず少数でありながらたった一本の槍を武器に撃退した彼らは武神に愛された戦士として呼ばれ、同時に恐れられた。尤もその存在を危険視した『黒キ王』によって滅ぼされてしまい、今ではただの遺跡と化している。

 そんな場所にドラゴンが住み着いたと言う情報に加え、つい先日そこに一匹のハーピーが向かったと言う情報も得た。このハーピーを今回仲間としてスカウトする為にハルカはドラゴンがいると噂される戦士の谷へと向かった。

 ハーピーは美しい人間の女性の身体に猛禽の足と身の丈程ある大きな翼を持った亜人。空を自由に翔け“風と共にある者”などと言う異名で呼ばれてもいる。そんな彼女達の武器は猛禽の足による爪、その切れ味は鋼鉄すらも容易く切り裂く程の鋭利さを誇る。普段空を翔ける為に用いる双翼は、彼女達が敵意を以て羽ばたくと竜巻を起こし敵を吹き飛ばす。

 遠距離からによる援護射撃及び狙撃担当のリリー。

 近接戦闘を担当する戦闘要員のフレイア。

 となれば次に求めるのは空。上空からの偵察及び奇襲を担う仲間をハルカは求めた。つまり戦士の谷へと向かったハーピーは正に欲しい人材なのである。

 ただ、気になる点もあった。

「単独で行動するハーピー、か……」

 ハーピーは縄張り意識が強く繁殖期である春が訪れない限り自ら人間がいる村などに赴く事はまずない。それなのに単独で行動するとは余程の理由があるのか、それともただの変わり者なのか。いずれにせよ現場へ行かない限り真相を知る術はない。

 緑に覆われていた平原が、ゴツゴツとした岩山がそびえ立つ無機質な世界へと移りゆく。乾いた風が吹き荒れ、砂煙が舞い上がり、水を得る事すらもままならない、そんな環境に適応できず朽ち果て骨となって背景の一部と化した禍々しい魔物の亡骸が無造作に転がっている荒野を抜けた先――戦士の谷がハルカ達の前に姿を表した。

 ノトラ族は周囲にある環境を最大限に利用した。それが自然防備壁の役割も担っている断崖絶壁の中をくり抜いた居住区。その奥にある神殿を思わせる外観の場所は主に戦士としての儀式を行う為の闘技場だと記録には残されている。『黒キ王』が襲撃し絶滅されて以来、その闘技場は余興として捉えてきた人間と魔物を戦わせる為に使われ、その地下はその中は何年にも渡る拡張や改修によってさながら蟻の巣のように複雑に張り巡らせ捕虜を幽閉し、有事の際には避難場所として使っていたとも。禍々しい石像や装飾が残されているのはその為だ。

 その内部へとハルカは単身で足を踏み入れた。リリーは既に肉眼では捉えられない一より狙撃体制に入りフレイアはその護衛として付かせている。万が一緊急事態に陥った場合でもリリーの視力ならばそれをいち早く察知し、切り立ち足場が不安定な急斜面の壁でも難なく移動する事が可能である。二人が喧嘩しないように充分言い聞かせてあるとは言え、多少の不安を今も尚抱えながらハルカは闘技場の方へと足を運ぶ。

「あれは……!」

 闘技場に入って直ぐに、視界にある光景が飛び込んできた。

 中央、死闘が繰り広げられる舞台の上に立つ二人の対戦者と横たわる一人の亜人。

 一人は漆黒の鎧で全身を包む騎士かと思わせるかの如く禍々しい肉体をした悪魔。対するは赤い鱗に覆われ見上げる程の巨体に長い首を持ち背中には身の丈と同等の巨大な双翼を携え、金色に不気味に輝く瞳で黒騎士を捉えて離さないドラゴン。

 その傍らに横たわっているのは、白銀に輝く美しい双翼を持った亜人――ハーピー。ノノの村で入手した通りドラゴンとハーピーの存在は確認する事が出来た。となればドラゴンと対峙している黒騎士は何者か。ハルカは警戒しつつ、物音と気配を殺しながらゆっくりと近付く。

「貴様がこの戦士の谷の長か――ここは今日より我が主の所有物となる。命が惜しくば即刻に出て行け。さもなくば……ここで無様に朽ち果てるがいい」

 黒騎士が右手を伸ばし、その手が青白い炎に包まれる。炎は左右に燃え広がりやがてそれは光を発さない一振りの長剣と姿を変えた。その切先をドラゴンへと向けながら黒騎士は挑発する。

 それを理解したかどうかはさておき。切先を向けられた、即ち戦いを挑まれていると察したドラゴンは鋭い牙が並ぶ口を大きく開きけたたましい咆哮を上げた。

 ドラゴンの爪が黒騎士へと襲い掛かる。

 金属を打ち合わせる音が闘技場に反響する。黒騎士はドラゴンの爪撃をたった一本の剣だけで受け止めその場に踏み留まっていた。その衝突によって発生した余波によってハーピーが地面を転がされる。幸いな事にそれはハルカが身を潜めている場所へと転がってきた。

「……酷い傷だ」

 回収したハーピーの右肩から左脇腹に掛けて刀傷が残され、そこから赤い血が流れ出ていた。辛うじて息をしているがこのままでは命が危ない。ハルカはカバンの中からポーションを取り出しそれを服用させる。傷が完治するまでに時間は掛かるが一先ず命を助ける事は出来た。乱れていた呼吸も少しずつ落ち着きを取り戻していく姿に安堵の息を漏らし――けたたましい咆哮にハルカは再び闘技場舞台へと視線を向けた。

 片腕を失ったドラゴンが吼え、それを黒騎士は静かに見据えている。その足元にはドラゴンの左腕が転がっていた。

「この程度かドラゴン。最強の魔物と呼ばれているお前達ドラゴンとはこの程度なのか? 失望させられたぞ」

 挑発する黒騎士。ドラゴンが大きく大きく酸素を肺に取り入れ始めた。

 ドラゴンは凄まじい魔力を保有し、その力は吐息によって発現し鱗の色によって異なる。戦士の谷に住まうドラゴンの鱗の色は赤、故に鋭い牙が並ぶ口腔内で、高熱の吐息によって燃焼した酸素が火炎となって燃え上がり始め――それを一気に放った。

 轟々と燃え上がり全てを焼き尽くす炎が黒騎士を包み込む。だが、黒騎士はその炎に全身を包まれているにも関わらず全く取り乱す様子を見せない。あろうことか手にした漆黒の剣を逆風に振るい炎を両断してしまった。

「遊びは……もういいだろう」

 黒騎士が地を蹴り跳躍。ドラゴンの首に目掛け横一文字に漆黒の剣を薙ぎ払った。斬、と言う音と共に胴体より切り離されたドラゴンの首が地面に転がった。巨体が糸が切れた人形のように力なく崩れ落ち、砂煙が派手に舞い上がる。

 その振動でハーピーが意識を取り戻した。

「こ、ここは……」

「気が付いたか」

「に、人間……ツッ!!」

「無茶するな。お前は重傷を負っていたんだぞ。ポーションを飲んだから一命は取り留めたもののまだ動けるような状態じゃない」

「だ、駄目……! ボクが……ボクがアイツを、殺さないと……。仲間の仇を、討たないと……!」

「仇?」

「さて……そこで先程から此方をコソコソと覗いている輩よ。そろそろ出てくるがいい」

「…………」

 黒騎士に指摘され、ハルカはその場から姿をゆっくりと現す。

「貴様何者だ? この私が――」

「人に名前を尋ねる時は自分から名乗るもんだろう?」

「……違いないな――我が名はソロム。魔王イリュデリテ様に仕えし者」

「魔王イリュデリテの部下か……」

 イリュデリテ――またの名を炎帝。強力な魔力により放たれる光を発しない漆黒の炎は全てを燃やし尽くす。他の魔王とも抗争を繰り返し略奪、侵略と残虐非道の行いを平然とする正に魔王らしい魔王。ランクもオーファンより上のSランク、即ち最高危険度として認定されている。誰もが危険視しているだけあり現魔王の中で最強と謳われ、或いは第二の『黒キ王』とまで呼ばれている。

 かつて、アルトロスがまだ一人であった頃。イリュデリデに戦いを挑み敗北した過去を持っている。圧倒的な力の前に成す術なく敗れ命からがら逃げ出した先でキルトと出会い、命を救われ仕える事を決めたと、かつて彼が懐かしむように思い出話を語ってくれた。

 そのイリュデリテの部下ソロムと出会うとは予想外であった。

「お前……! よくもボクの里を、仲間を……お母さんとお父さんを……!」

「お前達が領域としていたあの場所は我らの拠点を設けるに最適な場所であった。だからこそ奪った……その事に何か問題があるとでも? 独り残されては色々と辛いだろう、責任を以て我が剣にて同胞達の元へと送ってやろう」

「このっ……!」

「やめておけ、お前じゃ無理だ」

 ソロムへ立ち向かおうとするハーピーをハルカは制止した。

 里や親を奪われた復讐心により彼女はソロムへと単身で挑んだ。だが実力は及ばす返り討ちに遭い重傷を負った。一度戦い敗北している以上例え彼女が百人いたとしても目の前の黒騎士には届かない。それが完治していない状態なら尚更の事。

「……俺は基本他人のやり方にとやかくケチを付けるつもりはない。だがな、だからと言ってそれを見て見ぬフリをする事もしない」

「ほぉ……ではどうすると言うのだ」

「……お前の首でも持って帰れば、アルトロスも少しは機嫌良くしてくれるかもな」

「何?」

「そう言えばこっちの紹介がまだだったな。俺はハルカ、魔王キルトの息子だ」

 フードを取り払い、ハルカは腰の太刀を抜き放った。

「ほぉ、貴様があの最弱と謳われる魔王キルトの息子か――最弱の血族が我に挑み勝てると思っているのか? 身の程を知れ小僧が!!」

「井の中の蛙って諺を知ってるか? 本当に強い奴と戦ってきた事がないお前じゃ俺には勝てない」

「……面白い。ならばその実力、我の前に示してみせろ!」

 爆発的に殺気を放出させたソロムが地を蹴り上げる。

 振り下ろされる漆黒の長剣。それをハルカは太刀で迎え撃つ。

「ぐっ……!」

 金属音が村全体に響き渡り、刃と刃が衝突し合い生じた剣風が轟と唸りを上げて辺りを激しく揺さぶる。

「ふんっ!」

「ちっ!」

 斬撃を受け止める度に骨にまで響く衝撃が刃を通し伝わり、目の前で火花が激しく飛び散る。

 洗練された剣術。それは決して魔力を用いていない、純粋な身体能力と幾度と戦場で積み重ね培ってきた技量だけで闘っている。ここまで純粋な剣術だけで強い相手と剣を交えたのは、多分初めてになるだろう。アミルトやアルトロスですらもここまで重く、速い斬撃を純粋な身体能力だけで出す事は出来ない。

「喰らえぃッ!!」

「ッ!!」

 力強い横薙を受け止める。その衝撃にハルカは身体ごと後ろに引き摺られる様に弾き飛ばされる。

「この……!」

 太刀を地に突き刺ことでブレーキの代わりとし勢いを失速させる。三メートル程の地点でようやく身体をその場で固定させる事が出来た。

「はぁ……はぁ……」

「どうした? まさかこれで終い、と言う訳ではあるまい」

 剣を中段に構え直すソロム。これ程の腕前ならば体制が立て直される前に次の攻撃を打ち込める事も可能の筈だった。それをしないのは剣士として、あくまでフェアな闘いを望んでいるからなのだろう。魔王イリュデリテの部下でありながら闘争に関する精神だけは悪魔とは思えない程気高い。

(イリュデリテの部下だけあって強いな……今まで出会ってきたどんな相手よりも)

 ハルカは太刀を構え直し、僅かに乱れた呼吸を整える。

 全く反撃出来る隙を与えてくれない。鋭い斬撃から逃れるだけで精一杯だ。並大抵の得物ならソロムの一撃に耐え切れず折れてしまうだろう。それに耐えられているのはこの太刀だからこそ。つくづく城で待っている鍛冶師に感謝させられる。

 不意に、上空から複数の矢がソロムへと向かって飛来する。待機させていたリリーの援護射撃だ。異変に気付き指示した通り援護を行ったのだろう。草原の狙撃手と言われるだけあり彼女の放った矢は全てソロムの四肢と眉間を正確に捉え、尚且つほぼ同時に放たれている。さながら機関銃の如く連続して矢を放った。

 それすらも、ソロムは長剣を振るい全て迎撃した。

「奇襲か。姿が見えないのを見る限りかなり遠くから離れた距離にいるな、にも関わらず正確無比な射撃能力……ケンタウロスか」

「ご明察。でも手は出させないから安心しろ」

 太刀を掲げて振るい、第二援護射撃を行おうとしているであろうリリーに待機の合図を伝える。今頃出した指示に困惑に目を見開き戸惑っている彼女達の表情が脳裏に浮かび、ハルカは小さく口元を緩めた後直ぐに闘気に満ちた目を目の前の敵へと向けた。

 この戦いは此方から仕掛けたもの。その戦いに仲間の力を借りて勝利するのは気が引ける。何より相手も一人、仲間を連れているならばリリーが援護射撃を行った時点で現れても可笑しくないが、そんな様子も周囲に潜んでいる気配も感じられない。

 ソロムはイリュデリテの部下ではあるが一人の剣士としての誇りがある、そしてそれは此方も同じ事。故に今この場に限っては仲間の手を借りて敵を倒す様な真似だけはしたくなかった。

「仕方ない……一つ、とっておきの技を披露とするか」

「技だと?」

 ハルカは小さく息を吐くと腰の悪食に左手を伸ばす。

「……貴様それは何の真似だ?」

 不可解そうに尋ねてくるソロム。その理由はハルカの構えにあった。右手の太刀の切先を相手に向けるように上段に、そして左手の悪食は逆手に握り腕を前に伸ばし水平になる様に構える。

「……さぁ、それじゃいっちょやってみるか!」

 ハルカが先の先を仕掛ける。右手の太刀を唐竹に振るい、ソロムがそれを避けた動作に合わせて左手の悪食で刺突を繰り出した。

「何!?」

 長剣で刺突を弾くソロム。しかしそれと同時にハルカの太刀が袈裟に振り下ろされる。

「速いッ!」

 ソロムは後方に飛びそれを回避する。

 ハルカは更に足を前へと踏み込む。相手に体制を整える隙を与えんと左右の得物を振るい続ける。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「ぬぅぅ……!!」

 三本の刃が何度も空で交差する。その中で二本の白銀の刃が黒き刃を圧倒する。

「宮本武蔵……とまではいかなくても、ある程度二刀流は出来るんだぜ?」

 二刀流――文字通り左右の手に刀を持つ戦法スタイルである。

 そんな二刀流のメリットは“左右による連続攻撃が可能となる”事と“片方で防御をしもう片方で攻撃が出来ると言う攻防一体戦術が可能”と言う事にある。

 そんな二刀を用いて敵を倒す剣術と言う姿にロマン溢れる、格好良いと言う理由により二次元でも双剣使いのキャラが登場する事は今では珍しい事ではない。

 しかし二刀流とは、実際にはデメリットが多く実戦向きではない術技でもあった。

 まず左右に武器を持つと言う事から既にその者はデメリットを課せられる。

 太刀の重量は凡そ900gから1.5kg、両手で使う事を想定された野太刀ともなると重量は更に跳ね上がる。それを片手ずつ保持し、片手で両手で振るった時と同じ威力を出せる腕力がどうしても必要となってしまう。

 片手で敵の攻撃を受け止め、もう片方で攻撃する攻防一体戦術を実行するにしても、やはり腕力は必要だ。

 では比較的に軽い小太刀や脇差と言った得物を振るえばいいか、と言う訳でもない。

 左右で剣を振るうと言う事は、どちらとも利き手と同じ様に扱えなければならない事を意味している。大抵がどちらかの手が利き腕としているが、両手が利き腕と言う人間はそういない。それ故に両方の剣を意識するあまり中途半端になってしまう。

 つまり以上からして二刀流は実戦では不向き、両手で剣を持って振るって闘った方が効率が良い――これが結論である。

 しかし、世界にはその結論を根本から崩す者が存在する。

 剣術であれ何であれ、人間誰しも利き腕がある。だが希に両方の腕を利き腕として自在に使える人間がいる。それこそが、かの二天一流の創始者で日本最強と謳われた有名な剣豪、宮本武蔵である。

 そんな宮本武蔵けんごうが振るう二天一流けんじゅつに憧れて二刀流を振るった時期が悠にもあった。

 しかし悠の利き腕は右。左で箸を持って豆を掴む事は出来ない――だが“ある条件”を満たした時だけ、両腕を利き腕の様に自由自在に使う事が出来た。

 その条件とは、刀を握った時。

 最初は遊びでしかなかった。一人自主修練をしている最中、何気に二刀流をしてみようと思い脇差を左手にした。そしていざ振るってみたところ、これが驚く程自分でも剣が振れたのだ。

 左腕は利き腕でないのにも関わらず、何の違和感もなく、身体が思う様に動く。まるで失われていた身体の一部が戻ってきたかの如く。

 この時の体験から、悠は二刀流を自主修練の中に取り入れる様にした。祓剣流兵法は基本一刀流である為、二刀を用いた技は存在しない。故に祓剣流兵法をベースとした我流を長年掛けて研究し、創造し、己を鍛え、修練に励んだ。

 当然左右の動きを違和感なく、そして極めるまでに数年を費やし、遂に我が物へとする事に成功する。にも関わらず悠は実戦で二刀流を振るう事は一生ないと判断し封印した。

 “対人”戦においては、確かに実用可能にまで成長したと言えよう。実際源一郎ちちとの模造刀を用いた擬似実戦で勝利を収めている。またヴェルフッド大陸には二刀流と言う戦術はない。初めてこの二刀流を皆の前で披露した時は、キルトからは術技ではなく魅せる為の剣舞と言われ、アルトロスからは大道芸で実用性がないと言われた――その後に行った模擬試合で使用すると二刀流に防戦一方へと持ち込ませたもののアルトロスに魔法を行使され、結果として試合には負けたものの勝負には勝っている。

 左右の武器から繰り出される途切れる事のない連続攻撃。それに対する知識、経験を持たず初見であった事が一番大きい。

 だが夜斗守の剣士が振るうは人非ざる者をも斬る剣。従って人外を相手にするのにはまだ不十分として封印し一刀流による剣術を極める事にした。

 その封印し長年振るってこなかった術技にとうりゅうを、この異世界にて、実戦で振るう事になるとは夢にも思っていなかった。もし二刀流の修練に励んでいた自分に将来本物の怪物と戦う事になるとしれば、更なる高みへと昇れたのかもしれない。

(宮本武蔵を超える大剣豪になれてた……か?)

 ハルカは自嘲気味に小さく笑い、悪食で牽制しソロムが防御した瞬間を狙って太刀を振るう。

「はぁぁぁぁぁっ!!」

「ぐぅぅっ……!!」

 右の太刀を、左の悪食を振るう、振るう、振るう、振るう。

 二刀流のメリットである絶えない連撃をソロムに繰り出し続ける。後退はしない。ただ前に、ひたすら前に進み、体力がある限り、腕力が悲鳴を上げ刀を振るえなくなるその時が訪れるまで、二本の刀を振るい続ける。

 ハルカが振るう二刀による剣撃。その剣速は失速する様子を見せず、更に加速に加速を重ねていく。

「ぬぅぅ……まさかこの様な剣術が存在していようとは!!」

 戦局を覆そうとソロムが唐竹に長剣を振り下ろしてくる。それを左右の太刀で挟み様にして受け止め、そのまま押し切る。

 ソロムの体制が崩れる。

 ここぞとばかりに、ハルカは攻めた。

「うぉぉぉぉぉっ!!」

 前進し、回転を加えながら跳躍。遠心力を加えた太刀による斬撃をソロムの胴体に打ち込んだ。

「ぐぉぉぉっ!!!」

 切り口から紫色の血が噴き出る。

 浅い。ダメージこそ与えたが致命傷ではない。

「み、見事だ……まさかあの魔王キルトの息子が、ここまでこの我を追い詰める程の実力を持っていたとはな」

 ソロムが不敵に笑う。血を流し、されどその身から発せられる闘気は衰えるどころか更に増している。

「二刀流……か。まさかその様な剣術を操る者がいるとは思いもしなかった。これだから闘いは止められない!」

 刹那、ソロムの肉体に異変が起こり始める。身体を小刻みに震わせ、枝を踏み折る様な音と共に肉体が変化していく。やがて身体の震えと音が収まった時、そこにあったのは魔物としての顔。ドラゴンを思わせる様な漆黒の光沢を持つ顔に紫色の瞳。

「それが本当のお前の素顔か?」

「この姿を見せるのは、我が本気で殺すと誓った者のみだ。光栄に思うがいいぞ小僧、貴様は本気の我の力によって名誉ある死を迎えるのだからな」

「そりゃ嬉しいね」

 平常心を装いながら太刀と悪食を構える。

 この先どう攻めてくるか全く読めない。今は純粋な剣と剣の勝負だが、魔法を使われたりでもされればそれこそ圧倒的不利になる。

 最悪、“必殺技”を使う必要があるのかもしれない。個人的にはもっと後の方、それこそ絶体絶命のピンチに追いやられた時に使い一発逆転と言うシチュエーションを希望だが、そんな余裕を抱ける相手ではない事は明白。

(やるしかないかもな)

 悪食を腰に収め再び一刀流へと闘法スタイルへと戻したハルカは太刀を正眼に構えた。

「さぁ……もっとだ。もっとこの私と闘え!」

 ソロムが地を蹴る。

(迅い!)

 ハルカは咄嗟に背後に飛び退いた。ほぼ同時に振るわれた長剣の剣先が鼻先を掠る。

 先程とは比べ物にならない速度。辛うじて視認し対応する事が出来たが、殆どは直感が助けてくれた。後一瞬でも反応が遅れていれば、今頃は頭蓋骨だけでなく身体ごと両断されていた。

 そしてソロムは休まる暇を与えてくれない。次々と漆黒の剣閃が襲い掛かる。悪魔としての本性を表したが為か、先程の剣とは違い猛々しい、まるで荒れ狂う暴風の様な剣撃。その剣をハルカは紙一重で躱し続ける。

 悪魔としての力を解放した今、下手にソロムの剣を受ければ幾らこの太刀でも折れてしまいかねない。

(これがこいつの……ソロムの実力かよ!)

「オォォォォォォォォォッ!!!」

 猛獣の様な咆哮を上げ繰り出されるソロムの一撃。それをハルカが視認した時には既に、その刃は眼前まで迫ってきていた。

「くッ!」

 回避は間に合わない。そう結論を下した瞬間身体が反射的に動き自動防衛行動を取った。

 一際大きな金属音が戦士の谷に鳴り響く。

 ソロムの斬撃を間一髪のところで防ぎハルカは直撃を免れた。しかしその衝撃によってその身体は大きく上空へと持ち上がり、数メートル先まで吹き飛ばされた。そのまま地面に強く叩き付けられ地面を何度も転がる。

「どうした小僧。もう終わりか?」

「ちっ……」

 身体のあちこちに痛みを感じながら、改めて対峙する敵にハルカは視線を向ける。

 絶望を感じさせる程の実力の差。血の滲む努力をも一笑に伏し踏み潰される様な感覚に胸が締め付けられる。

 だからこそ、勝ち甲斐あると言うもの。打ち身による痛みこそあるが肉体は無事、戦闘に支障なし。太刀も折られる事なくソロムの斬撃に耐え切った。だからまだ戦える。

「ハルカ!」

「ここからは私達も加勢させてもらいます!」

 待機していた筈のリリーと、その背中に跨ったフレイアが持ち場を離れてやってきた。リリーが狙撃手が対象の前に姿を現す行為と、指示を無視して独断専行して加勢に来た事は後で注意するとして。

「フレイア、リリー、お前達は下がっていろ」

 ハルカはフレイアとリリーに命令した。

「ですがハルカ! 相手は悪魔、幾ら貴方が魔人とは言え一人で戦うのは無謀です! それに私は貴方の剣と盾となると誓った筈! ならば今が正にその時!」

「アタシだってハルカを守るんだから!」

「大丈夫だ! 俺をもう少し信用してくれよフレイア、リリー」

「ですが……」

「ハルカ……」

 納得いかない顔を浮かべる二人を安心させるように、ハルカは口元を優しく緩めサムズアップし、渋々と言いたげに二人が引き下がったのを確認してから改めてソロムへと顔を向ける。

「勝負を中断して悪かったなソロム。二人は絶対に手を出させないから安心してくれ」

「いいのか? 貴様の無様な死に顔をあの者達の前に晒す事になるぞ」

「それはお前の方だソロム――来いよ。俺の切り札、特別に見せてやる」

「ほぅ、まだ何か隠し持っていたとは……。面白い、ならば見せてもらうとしよう」

「あぁ、いいぜ。但しこの技を受けた感想文は……あの世に行ってからじっくりと書いてくれ」 

 ハルカは太刀を鞘に納める。そして少し腰を落とし、太刀の柄に右手を近付ける。

「……降参のつもりか?」

「まさか。俺の辞書に降参の二文字は登録されてないんだよ」

「ぬぅ……」

 全てはこの戦局を己が勝利へと変える為。ハルカは居合の構えを取った。

 居合、抜刀術と呼ばれる術技がある。適度な反りを持つ日本刀と鞘の構造と、腰に差すと言う携帯方法を利用する事によって成せる術技の事である。

 居合には様々な説があるが、その理念コンセプトは対強襲用。相手が自分よりも先に刀を抜き今にも斬り掛かろうとしているのに対し、此方はまだ抜いていない――この様な状況に陥った時、相手の先の先に対しそれよりも迅く殺す為に生み出された術技が居合である。

「…………」

 居合と言う未知の術技に直面したソロムの気が僅かにだが乱れたのを感じ取った。相手からすれば、納刀した状態で構えもせず棒立ち状態になられれば困惑もするだろう。

「どうした? 来ないのか? それとも全く知らない技を前にしてビビったか? お前こそ降参してとっとと大好きな主の元へ帰ってもいいんだぞ?」

「……面白い。その体制からどのような事が出来るのか、見せてもらうぞ小僧!」

 挑発に乗ったソロムが地を蹴り上げる。ハルカは不敵な笑みを浮かべ、鞘に収めた太刀を一気に抜き放った。

「なっ!?」

 驚愕に目を見開くソロムに、一筋の閃光が駆け抜ける。

 一閃。右側面下方、右脇腹から左肩に掛けて振り抜かれた刃は、ソロムの肉体を容赦なく両断した。

「ば、馬鹿な……これ程までに迅い剣が、存在すると言うの……か!?」

 大量の血を口から、傷口から流しながらゆっくりと地に倒れるソロムを見つめながらハルカは不敵な笑みを浮かべた。

――必殺技が欲しい。全てはここから始まった。

 ファンタジーと言う世界の住人として、天賦の魔力を持ち超越した異能を持った『魔人』として転生したにも関わらず、全く魔力が無いと言うイジメの様な非情過ぎる現実を突き付けられ、その現実と向き合い祓剣流兵法に更なる磨きをかけ、己を鍛えていた。

 だが、魔法を目にする度に羨ましいと思った事は数知れない。特に魔法を得物に付与指す事が出来ると言う魔技士と呼ばれる存在がいる事を聞かされてから更にその思いは更に強まった。剣に炎や雷の魔法を付与させた強力な一撃を相手に見舞う、予め魔力が付与された聖剣や魔剣とはまた異なる能力は男心をくすぐらせる。

 そんな力を自分も使ってみたい。その気持ちが日に日に強くなっていくある日、ハルカはある決意をする。それは魔技士のような能力を、魔法に退けを取らない技を習得すると言う事であった。この世界の住人では考えもつかない様な知識を総動員させ、ファンタジーと言う材料を元に自分だけの、この世界で一つしかない必殺技を創る計画を密かに実行した。

 魔導士が使うファイアーボールやサンダーショットの様な遠距離系統の魔法は性に合わない。剣士である以上その技も剣士らしくなくてはいけない――そのコンセプトを元に試行錯誤を重ね、やがて一つの答えへと導かれる。

 対強襲用である居合。これを一刀必殺の技として昇華させる事に決めた。創作物でも居合は必殺技として使われている事が多い。鞘走りによって剣速を更に加速させ神速の領域にまで達する、と言う描写は数多く使われている。

 この居合にハルカは着目した。

 術理は大砲。火薬を詰め、砲弾を押し込み、そして着火させて砲弾を撃ち出す。

 大砲の筒となるのは刀を納める為の鞘、火薬は太刀そのものに宿る魔力、砲弾は太刀にする事で必殺の斬撃を手にする事が出来た。

 太刀を収める為の鞘。その鞘にハルカは鍛冶師にある注文をした。中庸で刃物を傷めず、強度も適度にあり、材が均質で漆塗り等の表面仕上げにも適するなど、優秀な鞘材としての特質を持っている朴木に似たフェノメスと呼ばれる樹木を鞘材にし、出来上がった物にガイファスを用いコーティングする。そして鞘の両側面と鐺にルーン魔法を刻み込んだ。

 ルーン魔法とは遥か昔、稀代の魔導士と謳われたブラノヴェルベエが声を失い、詠唱ができないと言う魔導士として致命的なハンデを克服する為に己の生涯を賭して創造したと言う魔法である。ある特定の三十二個のルーン文字を単体或いは複数組み合わせ、文字を刻んだ物に魔力を貯蓄チャージする事でその効果を発揮する。

 実際には実用価値は低く、と言うのもブラノヴェルベエの優れた魔力があってこそ発揮出来たが並大抵の魔導士では効果を発揮させる為に十日以上にも及ぶ魔力の貯蓄チャージを必要とした。そんな不評からやがてその存在は過去の産物の一片として仕舞われてしまっていた。

 この忘れられてしまった魔法そんざいを採用した。アルトロスからはどうしてそんな古臭い不完全品とも言える魔法を使う必要があるのか、と呆れられたがハルカは気にせず三つの効果を鍛冶師に注文した。

 刻んだルーン文字は右に五、左に七、鞘鐺に三、合計十五個。その意味合いは『収束』、『炸裂』、『放出』。長年ルーンの研究を続け解明出来た意味合い。この二つが必殺技――大砲で言う筒の役割を果たす為に必要不可欠であった。

 大砲と砲弾が用意出来れば、次に用意する物は勢い良く飛ばす為の火薬だ。その火薬の役割となっているのが太刀に宿る魔力。玉鋼と言う本来の材料は一切用いられず、剣と魔法の異世界特有の鉱石と悪魔の技術によって生み出されたからこそ、ブラノヴェルベエに退けを取らない魔力が宿った。

 これで、全ての準備が整った。

 太刀の魔力を切先と鞘底との間に『収束』させ、それを『炸裂』させる。『炸裂』させた魔力を今度は『放出』のルーンによって鯉口へと導びかれ、鞘外へ出ようとする魔力は蓋となっている太刀を勢い良く外へと押し出す。後はその勢いを殺さず生かしたまま太刀を一気に振り抜く。

――蒐極抜刀チャージショット、神威。

 祓剣流兵法の技とアニメや漫画によって得た知識、そして魔法と言う文明が合わさる事で編み出した自分だけの必殺剣。

 人間では引き出せない神速の領域を、魔法と言う技術を用いる事で完成及び実現化させた絶対不可避の斬撃。常識を逸脱した技は魔剣と称される、従ってこの技は魔剣、魔剣に限りなく近い居合と言えよう。更に神速の領域へと到達させる為に放出された高密度の魔力は、抜刀する事によって鋭利な刃と化す。即ち飛ぶ斬撃として、遠く離れた相手にも届く飛び道具属性を持ち合わせるのだ。

 ハルカはこれを蒐極抜刀チャージショットと名付けた。

「初実戦投入だったけど、何とかなったな……」

 想像では腕が吹き飛ぶ程の衝撃が来るかもしれない、とそれなりの覚悟はしていた。しかし結果は、想像していたよりもあまり衝撃は感じなかった。若干上腕二頭筋の辺りが痺れるぐらいで、右腕は健在。この世界に転生してから夜斗守悠だった頃よりも身体能力も上がっている気はしていたが、あながち気のせいでないのかもしれない。

(それにしても、二秒はいるか……)

 ルーン魔法の創始者ブラノヴェルベエならば一瞬で貯蓄チャージ出来る程の魔力とまではいかないが、それでも太刀にはそれに勝るとも劣らずの魔力が込められている。しかし蒐極抜刀チャージショットを放つまでに二秒の時間を費やした。即ちこの間は完全な無防備状態となる。

 今後使用する際は勝機を見誤ってはならない。そう己に言い聞かせながらハルカは一息吐くと地に倒れたソロムへと歩み寄る。大量の出血に自身から流れ出た血溜りの中に横たわっている。だが流石はイリュデリテの部下と言うべきか、致命傷を負っているにも関わらずまだ息をしていた。

「まだ生きてるのかよアンタ……」

「がはっ……ま、まさか、この私が貴様のような小僧に、敗れるとはな……」

「……今楽にしてやる――と言いたいところだが、その役目は俺じゃない」

 言って、ハルカはハーピーに太刀を手渡す。その際に改めて見た彼女は、紐水着スリングショット風の極めて露出度の高い紫色の衣装を身に纏い、それ故にリリーやフレイアよりも胸が大きい事もわかった。ある種裸よりも卑猥かつ美しさを醸し出す彼女に自然と下半身の息子が反応し――背後より突き刺さるリリーとフレイアの殺気と嫉妬を秘めた視線にハルカは身震いを起こし、下半身の息子を落ち着かせた。

 太刀を受け取ったハーピーは、横たわり虫の息状態であるソロムの喉元へと切先を静かに向ける。

「家族と、仲間の仇……!!」

 打ち落とされる太刀。切先はソロムの喉を突き刺し、その命に終止符を打った。

 瞳から生命の輝きが失せ、完全に呼吸が停止した姿を確認して、手から太刀を力なく落とすとハーピーは大粒の涙を零しながらその場に座り込んだ。一先ず彼女の報復すると言う達成感は満たす事が出来た。それを見届けたハルカは落ちた太刀を拾い鞘へと収め、改めてハーピーに声を掛けようとして――

「す、凄いハルカ! 今のどうやったの!?」

「私が気付いた時には既に斬っていた程の剣速……今の技は何ですかハルカ!? 私にも是非教えて下さい!」

「ちょ、ちょっと待て二人共! 後でゆっくり教えてやるから一先ず落ち着け!」

 駆け寄ってきたフレイアとリリーを落ち着かせ、咳払いを一つ零し気を取り直しハーピーに声を掛けようと視線を向ける。

「ねぇ、どうして君はボクの事を助けてくれたの?」

 此方が口を開くよりも早く、ハーピーが尋ねた。

「……理由は二つ。一つは俺は今とある理由で仲間となってくれる亜人を探してる。そんな時偶然お前の話を居酒屋で聞いて戦士の谷ここまで来たって訳だ。まさかイリュデリテの部下がいるとは思わなかったけどな」

「ボクを……仲間に?」

「そうだ。因みにこの二人は俺の仲間でリザードマンのフレイアとケンタウロスのリリーだ」

「恋人以上夫婦目前のフレイアです」

「本当の恋人のリリーよ」

「えっ? えっ? 恋人? 夫婦?」

「……あんまり気にしないでくれ。そして二つ目の理由は、仮に仲間にしなくても目の前で死にそうな命があったら助けるのが普通だからだ。人間とか亜人とか関係ないしにな」

「……それだけの理由で、ボクを?」

「そんな訳で俺の仲間になってくれないか? 勿論強要もしないし強制もしない、選ぶのはお前の意思だ。もし俺の仲間になってくれるのなら……」

 ハルカは右手をそっと差し伸べる。その手を、ハーピーは迷うことなく掴んだ。

「家族も、仲間も、皆失ったボクには行く場所がない。だからボクは君についていく事にするよ! ボクはヒロって言うんだ、よろしくね!」

「有難うヒロ。改めて俺の名前はハルカだ、これからよろしくなヒロ」

 笑顔を浮かべるヒロにハルカも自然と笑みを浮かべ返す。

 これで必要としている戦力は一先ず集まったと見ていいだろう。ここからが本番だ。

「それじゃあ、そろそろ目的地へと行きますか……って」

「いいですかヒロ。ハルカは将来私の夫となる人です。仲間としてならば認めますが、狙った場合は容赦しませんので」

「ハルカはアタシの恋人なんだけど? 平然と嘘を吐かないでくれる?」

「う~……どっちの言い分を、ボクは信じたらいいの?」

「両方信じなくていいから。ったく人が意気込んでるのに何やってるんだよお前らは……」

 ヒロに偽りの情報を刷り込もうとしているフレイアとリリーに、ハルカは大きな溜息を吐いた。

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