終章
これにて第一部は終了です。
懐かしの我が家は大賑わいだった。
キリュベリア王国の姫君の誘拐。最初に与えられたこの任務を達成する事は出来なかった。だがその代わりとして炎帝イリュデリデを討伐した――その報せを受けたアルトロスは大いに喜び、同時に驚愕した。過去に自分を負かした魔王を魔力も持たない魔人もどきとも言うべき男が討った、となれば仕方がない事かもしれない。
ともあれ大偉業を成し遂げたとして魔王城は連日のようにお祭り騒ぎだった。城の前には『私の息子ハルカは炎帝イリュデリデを討ち取りました』と言う立札が置かれるようになり、その立札を作った張本人であるキルトはオーファンに自慢の手紙を今でも送り続け、甘やかせろと何度も部屋に引っ張り添い寝を強制してくる始末だ。
「……貴様があのイリュデリデを討つとはな今でも信じられん。だがこれで我らの事を周囲の者達は認識を改めるだろう。よくやったぞ小僧、予想以上の結果だ」
「俺としては滅茶苦茶疲れたけどな――でもいい仲間にも巡り会えたし、結果オーライって事で」
「上出来ですハルカ」
「有難うアミルト。後鼻血出てるし鼻息荒いけど大丈夫か?」
いつもの日常にハルカは口元を優しく緩めた。
その時、城周辺に張り巡らせている結界が反応した。
どうやらこの城に誰かが攻めに来たらしい。
「久し振りのお客さんだな」
「行ってこい小僧。貴様の恐ろしさを思い知らせてやれ」
「やるかよ。人間は絶対に殺さない……そう言ってる筈だぜアルトロス」
得物を腰に差しハルカは持ち場でもある中庭へと向かった。
イリュデリデを魔王キルトの息子が倒したと言う情報は既に大陸中に住んでいる人間、魔王達に知れ渡っている。そうと知りながらも挑みに来たのは余程の実力者か、それともその情報を知らずしてやってきた田舎者のどちらか。
そして中庭へと向かいやってきた侵入者を見て、ハルカは目を丸く見開いた。
「お前……どうしてここに?」
「遊びに来てやったわよハルカ」
侵入者の正体はキリュベリア王国にいる筈のレナス、そして純白の姫騎士アリッサだった。
何故彼女達がこの城へと来たのか。その疑問に答えるように頬を仄かに赤らめながらレナスが答える。
「えっとね、実はあれからお父様とお母様と色々と話し合って……まぁ早い話家出してきたの」
「い、家出!?」
「だって見ず知らずの他国の王子と婚約させようとするし。一応会ってみたら全然頼りないし私よりも弱いし……――アンタよりいい男じゃなかったし」
「え?」
「だ、だから我慢出来なくなって家出したの! それで行く宛がなかったから、その……ハ、ハルカの所なら匿ってもらえるかなぁって思って……」
「お、おいおい……そんな理由で来たのかよお前は」
「と、言う訳だから当分の間世話になるわ! 私の身の回りに世話をさせてあげるから感謝しなさい!」
「何その横暴。お前本当に姫様キャラじゃないよな。それでアリッサは?」
「私はその付き添い兼護衛だ。わかっていると思うがレナス様を傷付けようものなら即刻斬る、それだけは忘れるなハルカ」
「ははは……もう好きにしてくれ」
「つまりそれはハルカちゃんと結婚すると……そう捉えていいのかしら?」
「げぇっ! か、母さん!」
魔王としての禍々しい魔力を放ちながら現れたラスボスこと母。優しい笑みを浮かべているが目は一切笑っていない。
「べ、別に結婚したいなんて言ってないじゃない! で、でもハルカがどうしてもって言うなら……そ、そうね。考えてやってもいいわ」
「ハルカは私の夫です!」
「アタシの恋人だもん!」
「ねぇハルカァ、退屈だからボクと遊んでよぉ!」
何処で耳にしたのか。武装したフレイア達も中庭へと現れる。
「よろしい! ハルカちゃんと結婚したいと言うのならこの私を越えてみせなさい!」
一気に騒がしくなる中庭。
目の前で繰り広げられる一人除く未来の嫁候補対母親による激戦を見て、ハルカは静かに笑みを浮かべた。
「これから騒がしくなるな……」
何処までも続く青空を見上げ、ハルカは眩しそうに目を細めた。
◆◇◆◇◆◇◆
机に上に置かれたランプの灯りによって薄暗く照らし出された一室。膨大な数の本が収められた本棚で彩られたそこはアルトロスの私室だ。
その私室に集められたフレイア、リリー、ヒロ、そしてレナスとアリッサは何事かと言いたげな面持ちで椅子に腰を掛け羊皮紙に羽ペンを走らせているアルトロスの言葉を待った。
静寂の中に流れる羊皮紙の上を走る羽ペンの音。
それが止んだと同時にアルトロスは静かに口を開いた。
「あの小僧がイリュデリデを討った……その時にお前達、何かあの小僧に異変はなかったか?」
予想外とも言うべき質問に皆疑問に眉を顰め小首を傾げる。
そんな中、一人の少女が口を開いた。レナスである。
「えっと、上手く言えないかもしれないけど……ハルカがイリュデリデと戦っている時、なんて言えばいいか……凄く怖かったって言うのかしら。人間は殺さないって言ってるいつものハルカらしくないって言うか……」
「……そうか」
レナスの言葉にアルトロスは静かに目を伏せる。まるでその答えがくる事が最初からわかっていたかのような反応に、答えたレナスを含む誰もが更に疑問に顔を見合わせた。
「……お前達の事を思って警告しておく。もしあの小僧が戦いの中で自ら攻めに転じてから五分以上が経過した場合……直ぐにその場から逃げろ。それとこの事は絶対に小僧には言うな」
それは果たしてどう言う意味なのか。
手にした羽ペンを置き、椅子から立ち上がり疑問に答える様子を部屋を後にするアルトロスの背中を彼女達は見送った。
第二部は亀更新となりますが、頑張って執筆していきます!




