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第三章:双刀炎舞④

 夜風に吹かれ靡き月光を浴びて仄かに白く発光するその花はフルゲオニクスと呼ばれる。日中は雪の様に白い花だが夜になり月明かりを浴びる事で発光現象を起こす不可思議な性質を持っている。

 町の最南端。真っ直ぐと続くように設けられた花壇に植えられたフルゲオニクスによって足元が照らされた道。その先に待ち構えているのは立派な外観の建物。

「ここは?」

「蒼月の神殿――ここは私達王族のみが入る事が許された特別な場所よ」

「おいおい、そんな場所に一般人を入れてもいいのか? 一応俺魔人だぞ?」

「いいのよ。王族のみなんて言われてるけど別に変わった物なんか何もないし」

「……本当にお前お姫様って感じじゃないよな」

 “黒薔薇”のいい加減さに呆れつつハルカは蒼月の神殿へと足を踏み入れる。

「……凄いなこれは」

 足を踏み入れて直ぐにハルカは感動の声を漏らした。

 六角形状の広々とした空間。天井を支えている四本の石柱には黄金の大鷲の彫像がこの神殿に足を踏み入れる者が悪しき者か否か見定めているかの如く設けられている。その奥へと続く水路の通った道を進むと双翼を生やし剣と盾で武装した女性像が静かに待ち構えている。

 だが何よりも驚くべき事は、神殿全体が蒼く輝いている事にある。

 天井も床も、見渡す限り蒼く光り輝いている。視界に映し出される光景は幻想の美。

宝石の中にいるかのような錯覚すら与えるその輝きは神々しく、神聖さに満ち溢れていた。

 草月の名に相応しい神殿。そしてこの現象の正体は地上から天井へと伸びる細い蒼い光の筋にあった。

「天井に特殊な鉱石が仕込まれていてそれが月の光を吸収してるの。吸収された月の光は直線上に光線となって丁度真下にある鉱石に当たって反射してるって訳。蒼月なんて名前が付いているのはその為」

「なるほど。確かに一般人が足を踏み入れちゃ駄目な場所って感じではあるな」

「でも神殿なんて言ってる割にはコレだけよ? 成人の儀とか大切な行事が行われる以外だと月に一回の掃除ぐらいかしらね」

「神殿なのに扱いが結構適当すぎないか?」

「私に言われても知らないわよ――でもここだとピッタリな場所でしょ?」

「あぁ最適だ――神殿で一戦交えるなんてシチュエーション、そうないからな」

 改めてハルカは悪食を腰から抜いた。合わせて“黒薔薇”も剣を鞘から抜き放つ。

「結局こうなるんだな……後で文句を言うなよ?」

「それはこっちの台詞よ――そう言えばまだお互いにちゃんと名乗ってなかったわよね。私の名前はレナス……ロイ・キリュベリアの娘レナス・キリュベリアよ。勝負よ木刃の魔剣士!」

 意気揚々に剣を構える“黒薔薇”――レナス・キリュベリア。

「祓剣流兵法、魔王キルトの息子ハルカ……尋常に相手仕る」

 ハルカは悪食を正眼に構えた。

「行くわよ!」

 レナスが地を蹴った。

 間合いを素早く詰めて手にした剣による上段からの唐竹斬り。

 ハルカはそれに合わせて悪食を振るう。

――祓剣流兵法には本来柔の概念が存在していなかった。

 “人外をも斬る我の剣に防御の型は必要ない。死の恐怖をも我が物とし相手を圧し絶つ覚悟こそが真の剣術である”と唱えた葉桐叢雲の信念を具象化した剣術。それが祓剣流兵法の真髄でもあるのだ。

 その否定されてきた守りが重視されるようになったのは実はそう古くはない。

 時代と共に科学が進化した事で超常現象が妖怪や神の仕業であると信じられなくなった昭和。時の当主である夜斗守の剣士が人間同士が争う時代も終わる事を思い、相手の行動を抑制する為の技術を編み出した。

 非殺傷による暴力の抑制。活人の心得は現代にまで受け継がれ、平成に生まれた夜斗守悠もまたその教えに従い生きてきた。

 祓剣流兵法、双極之太刀――双極とは即ち陰と陽、プラスとマイナスの力を意味している。

 この技の性質は攻防一体。相手の攻撃に対して真価を発揮する所謂カウンター技だ。

 向かってくる攻撃プラスに対し防御マイナスを以て相殺し同時に一撃を相手に叩き込む。

 ただ受け流し攻撃すると言うだけならば他流派にも数多く存在する。しかし双極之太刀は全てを優しく飲み込みそして地に伏せる。

 無論これは簡単に出来る芸当ではない。

 度重なる修練によって培われてきた身体能力に合わせて瞬時に判断を下せる卓越した即応能力。そして祓剣流によるマイナスプラスの力の運用技術が揃う事で初めて可能となる技。

 その双極之太刀と相対した者は口を揃えてこう言う――『まるで風に包まれるような感じがした』、と。その言葉の通り相手は刃と刃が直撃した衝撃を感じる事なく、まるで霞を斬ったような錯覚に陥ってしまうのだ。故に双極之太刀は風、菩薩の太刀とも呼ばれている。

 先日の戦闘で“黒薔薇レナス”の攻撃の性質は陽を重視した戦法である事は既に理解している。従ってハルカは双極之太刀を以て応戦する。

「くっ! どうなってるのよコレ!」

 驚愕の表情を浮かべながらレナスが剣を振るい続ける。幾度の戦いにて敵を屠ってきた彼女からしてみれば、自身の剣が一撃も当たる事もなければ虚空を斬るかのような錯覚に違和感でしかないだろう。

 レナスが剣を振るい、ハルカがそれを受け流す。

「ちょっと! ちゃんと私の勝負しなさいよ!」

「いやしてるだろ充分」

「こんなの私が求めてる戦いじゃないわ! 戦いって言うのはもっとこうお互いに魂が燃え上がる程のワクワクするものなの!」

「それはお前の価値観だろ」

 あくまで正真正銘の斬り合いを、命の殺り取りをレナスは望んでいる。しかし人を斬らない事を己の信念ルールとしているハルカにその気は一切ない。従って使う得物も非殺傷武器である悪食。

 それが手加減されているとレナスに思わせている要因かもしれないが、ハルカとしても譲るつもりは毛頭なかった。

「悪いが終わらせてもらう」

「ッ!」

 横薙ぎに払われた一撃を相殺。レナスの体制が崩れたところにハルカは悪食を振るう。

 一閃。レナスの逆胴を捉えた悪食は容赦なく体力を吸収ドレインする。

「うっ……た、体力が……!」

「お前の負けだレナス。これがもし真剣だったら今頃どうなってたかわからない年でもないだろ?」

「ま、まだよ!」

 片膝を着いていたレナスが手にした剣を地に突き刺しそれを支えにしながら立ち上がる。

 ハルカは表情を変えずとも内心ではレナスの底知れぬ体力に感心していた。戦闘を続行出来ない状態まで体力を奪った。しかしレナスはしっかりと己の足で立ち剣を構えている。彼女から発せられる闘気も衰えるどころか逆に鋭さを増していた。

「私はまだ負けてなんかいないわ。私を魔王キルトの所へ連れていきたいのなら……私を完全に打倒してから行きなさい!」

 レナスが構えを変えた。その構えは彼女が持つ必殺技の構え。昨晩見張りと言う邪魔が入り明かされなかった。

 それが今、全貌を明らかにしようとされている。

 神殿内にまるで台風が発生したかのように彼女の魔力が吹き荒れ、それは直ぐに収まり全て切先へと収束されていく。

 突撃か。もしくは放出か。いずれにせよ彼女の構えからして次に考えられる動作は刺突。そして切先に収束されている高密度の魔力がどれ程の威力を秘めているか物語っている。紛れもなく次に繰り出される一撃は文字通り必殺技だ。

 直撃は絶対に許されない。突きが繰り出されるその瞬間を見切り回避する。ハルカは悪食を再び正眼に構えレナスを見据えた。


「悪しき者には灼焉の蒼を、正しき者には勝利の栄光を――」

「詠唱!? まさかお前、魔技士だったのか!?」

 今度はハルカが驚愕する。

 レナスは姫であると同時に魔技士でもある。魔導士と同じく魔法を発動する為の詠唱を唱える事で武器にその魔法の効果を付与させる事を可能としている。

 斬撃と言った物理による攻撃ではハルカに当てる事は出来ない。ならば物理による攻撃ではなく魔法による攻撃ならばどうか。そう考えたレナスは昨晩見せられなかった己が持つ中で最強である技を使う事を選択した。

 詠唱によって刀身に蒼い炎が燃え上がり始める。過去この技を受けて立ち上がれた者は一人としていない。

 ……この技すらも相殺するのか、と一瞬考え――レナスはその考えを脳裏から振り払う。

 自分自身を疑ってどうしてしまうのか。どんな相手にも屈しない精神と勝つ為の実力を戦いを通して身に付けてきた。その過去があったからこそ今の自分があり、更に強くなれる未来がある。

 私は絶対にこの技で勝つ。ハルカを視界に定め決してこの瞼は閉じまいと限界まで見開きながらレナスは詠唱を続けた。

「不浄を祓う聖なる炎よ、今こそ我が唄に応え翼を以て天空そらを翔けろ――喰らいなさい、セイグリッドフロウラス!」

 強烈な突きが繰り出される。その一撃に乗って刀身で燃え盛っていた蒼い炎が、火の鳥と姿を変えて飛び立った。


 巨大な蒼き鳳凰が双翼を広げながら真っ直ぐと飛翔してくる。通過する全てを焼き尽くさんとする巨大な蒼炎の塊を、ハルカは唖然とした。

 魔技士の中でかつてこれ程までの剣と魔法の使い手がいただろうか。

 否。記憶を何度整理しても該当者はいない。

 相手はキリュベリア王国の姫君。姫と言う役割であるにも関わらず並みの冒険者や騎士すらも足元にも及ばないその実力は果たしてどのように身に付けられたのか。王族の血を引くが故か、はたまた武の神に愛され戦いと言う宿命の元生まれた故か。

 天才を形にした人間、それがレナス・キリュベリアと言っていいだろう。

 ハルカは悪食を腰に差し、鞘に収めたまま太刀の柄を握り構える。

 居合の構え――蒐極抜刀チャージショットの構えである。

 悪食は物理攻撃によって対象者の体力を吸収ドレインする。その応用として魔力を、魔法を吸収する事も可能なのだ。材料の元となっているドレインアードも亜種であった為か魔導士が幾ら攻撃系統の魔法を発動するも全て吸収してしまった。従って悪食にも同等の効果があるが、ハルカはそれをする気になれなかった。

 吸収ドレインした魔力は当然所持者へと送られる。しかし魔力を持たないと言う特殊な体質が原因なのか。魔力を吸収した途端ハルカは強烈な目眩と嘔気に襲われてしまう。

 従ってレナスの放ったセイグリットフロウラスは吸収ドレイン出来ない。

 それ以前に彼女の放ったセイグリットフロウラスには膨大な魔力が込められているうえにその属性は相性の悪い火。通常の赤い炎と異なる蒼い炎は上級をも超えた、所謂一族特有の固有スキルであると考えていい。

 そんな魔法を悪食で吸収ドレインしきれる自信はない。

 迎え撃つしかない。ハルカは迫り来るセイグリットフロウラスを見据えた。

「――蒐極抜刀チャージショット、神威」

 鞘内で収束されていく魔力。そして最大限にまで収束された魔力を炸裂させその奔流を放出によって鞘外へと導き、勢いに逆らわずそのまま一気に太刀を振り抜いた。

 神速の抜刀が燃え盛る蒼い鳳凰を迎え撃つ。

 結果は――。


「なっ……!」

 驚愕の声を先に漏らしたのはレナスだった。

 セイグリットフロウラスに対しハルカが取った行動は腰に差している剣をただ鞘から抜き放った。一見すれば視認速度を超える迅さで剣を抜き放っただけに過ぎない。しかしその動作一つで自身の必殺技がいとも容易く打ち破られた。

 果たしてハルカが何をしたのか。レナスはそれを理解し得ない。状況からその動作そのものが所謂必殺技の類であったのだろうと考察出来る。

 しかしレナスの経験上、剣を鞘に収めている状態からただ抜き放っただけで魔法を相殺するだけの威力を秘めた斬撃を繰り出す輩は一人として出会った事がない。

 ランクFとは思えない程の実力者。その断片を垣間見た気がした。


 一方でハルカもまたレナスのセイグリットフロウラスを賞賛していた。

 魔技士に憧れ、魔法に対抗する手段として編み出した魔剣。炎帝イリュデリデの配下の悪魔ソロムを一撃で倒す事の出来た必殺剣。その必殺剣と同等の力を宿した魔法を扱える人間と短期間の間に出会うとは、ハルカ自身思ってもいなかった。

 長期戦になる。ハルカは太刀を鞘へ収め再び悪食を手にする。

 しかし、ここで想定外の事態が発生した。

「えっ……!?」

「あっ」

 レナスが驚愕に目を見開き顔を赤らめ、ハルカが間の抜けた声を漏らす。

 ハルカの蒐極抜刀チャージショットとレナスのセイグリッドフロウラスは――互角ではなかった。

 神速の抜刀術にて射出された不可視の魔力刃。その威力はレナスのセイグリットフロウラスを切り裂いただけに留まらず。彼女の纏っている鎧や衣服をも切り裂いていった。

 身体には一切刀傷はない。ただ纏っている物だけを斬り、その下に隠されていた女性を象徴する二つの大山と綺麗な白い肌を曝け出した。

「な、何すんのよこの変態!」

「悪気はない。でも反省はしない」

 胸を腕で、秘部を身体の向きを変える事で隠しながら剣の切先を向けるレナス。

 どれだけ強くとも彼女もまた一人の女性。今まで誰にも負ける事のなかった彼女からすれば当然異性の前で裸体を曝け出すとは夢にも思っていなかったに違いない。

 異性に裸体を見られると言う羞恥心から一気に戦意を喪失していくレナス。

 これはもう戦う必要はないだろう。ハルカは静かに溜息を吐き悪食を腰に差すと――

「ドンマイ」

 親指を立ててサムズアップした。




◆◇◆◇◆◇◆




 気まずい空気が神殿内を包み込んでいる。

「うぅ……もう、お嫁にいけないよぉ」

「あ~……その、なんだ……マジですまんかった」

 静寂の中に時折混じるはレナスの啜り泣き。異性に自分の裸を見られた……その出来事に羞恥心を抱いてしまってから彼女は完全に戦意を放棄し現在進行形で泣き続けている。

「どう責任取ってくれんのよ!?」

「え~と……じゃあ俺の裸を見せるからそれで相殺って事には」

「出来る訳ないでしょこの馬鹿!!」

「あ、やっぱり?」

「もう……本当最悪……」

「って言われてもなぁ……」

 真剣勝負をしている以上纏っている鎧や衣服が破損する事は珍しくない、寧ろあって当然だと思うべきである。肝心の肉体にダメージを追わなかっただけ幸運だ。その事を最初から想定して戦わなかったレナスが悪い――と、正論を言えばそうなるのだが、目の前で泣かれている相手に対しそのような事を言える気は起きなかった。

 その時、閉じていた筈の扉がゆっくりと開かれた。王族しか足を踏み入れてはならないと言われているこの蒼月の神殿に姿を見せた新たな来訪者は三つ編み状にした栗色のツインテールの女性。レナスとは対極である白を強調したドレスアーマーを身に纏い手には月光を浴びて銀に美しく輝く槍が携えられていた。

「あ、貴女は……!」

「レナス様、このような時間に……それも城を抜け出し何をしておられたのですか?」

「ひっ!」

 鋭く睨み付ける女騎士にレナスは短い悲鳴を上げる。“黒薔薇”として戦ってきた彼女でも、女騎士には逆らえない絶対的恐怖を抱いているらしい。降参と言わんばかりに片手を上げて小刻みに身体を震わせ今にも泣き出しそうになっていた。

「こ、これにはね? ちょっとした訳があるのよ……」

「訳? それは“黒薔薇”として夜な夜な犯罪者を取り締まっている事ですか?」

「ど、どうして知ってるの!?」

「……城を抜け出すのならもう少し隠密行動を学ばれるべきですね――そしてハルカ、まさか貴様があの城を抜けてこのキリュベリア王国に来ているとは思ってもいなかったぞ」

「……懐かしい顔だな――久し振りアリッサ」

 呆れ顔を浮かべる女騎士――アリッサ・セグウェス、人呼んで純白の戦乙女。

 佇めば荒野に咲く一輪の白百合の如く美しく、槍を手に戦場へと駆れば華麗な槍捌きを以て敵を殲滅する勇猛な武将として誰からも尊敬されている。その実力はキリュベリア王国で最強と言われている程の実力者だ。

 そんなアリッサとハルカは一度刃を交えた事があった。

 彼女が城へと乗り込んできたのは腕試しと称して挑んできた。ハルカはいつもの冒険者のように相手を務め――アルトロス達三魔将が助太刀に現れるまで刃を交え続けた。

 夜刀神に勝るとも劣らずの気迫。荒々しさと華麗さを兼ね備えた剛柔の槍技の連撃。

 初めて出会った真の強者。そんなアリッサと刃を交え、柄にもなく戦う事を楽しいと

思わせられた程の実力者だったと魂に深く記憶している。

「どうしてお前がこの国にいるのか……そしてレナス様と共にいるのかは知らないが」

「……俺をここで殺すか?」

 ハルカは悪食の柄に右手を添える。

 いつか必ず再戦し今度こそ勝つ……。そう言い残し手渡したポーションを服用し撤退していったアリッサ。

 あの時の言葉を今ここで実行に移す事は充分出来る。魔王の息子が……魔人がキリュベリア王国に侵入している。これだけで理由は充分だ。王族以外足を踏み入れてはならないこの蒼月の神殿ならば、邪魔が入る事も恐らくないだろう。

 だがそんな考えとは逆にアリッサは静かに首を横に振った。

「他の魔王や悪魔ならばそうしていたが……貴様は変人だからな。だから私は今日ここで起きた事は何も見なかった事にしておこう。それであの時の借りを返させてもらうぞ」

「……随分と優しいな。後変人言うな」

「それを貴様が言うか――まぁいい。どのような目的で訪れたかは知らんが早急にこの国から立ち去る事だ。他の者に知られれば流石に庇いきれん」

「……あぁ、そうさせてもらう」

「いいかハルカ。貴様を倒すのはこの私の役目だ。私以外の者に敗れる事は絶対に許さんからな――それではレナス様、城へ戻りますよ」

「えっ!?」

「えっ、ではありません。貴女には命を救ってくれた恩があります。だから今まで城を抜け出していた事を多目に見ていましたが……今回の一件で見過ごす事が出来なくなりました。今後は一切“黒薔薇”として城へと出る事を許可しません」

「そ、そんな! 私の楽しみに奪うつもりなの!?」

「貴女の事を思えばです。さぁ戻りますよレナス様」

「ちょ、待ってよアリッサ! 降ろしてってば!」

 身動きが取れないように縄でレナスの手足を縛り動きを封じた後、彼女を抱えアリッサは神殿から出て行く。

「……これは予定通りSMN作戦を発動するしかないな」

 一人残されたハルカは呟いた後、遅れて蒼月の神殿を後にした。

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