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落ちぶれ絵師の正しい異世界報復記  作者: 馬面
第3章 苦心惨憺の背景
32/68

0301

 今日もまた、生産性のない一日だった。

 現在に付随した苦痛を凍結させた代償。

 傷は疼かないけど、決して治りもしない。

 下書きを描いては消しての繰り返し――――例えるなら、そんな毎日。


 俺はなんでこの道を選んだんだろう?

 そう思いながらも、これしかないんだよなと自問自答し、机の上のノートパソコンの画面を眺める。

 そこにあるのは、今し方完成させた絵。

 需要もなければネット上で発表する意欲もない、無価値な絵だ。


 ペンタブとスタイラスペン、マンガ制作ソフトを使ったイラストの描画は、芯もインクも減らないし、消しゴムの消しカスすら生み出さない。

 だけど心が磨り減っていくのは、もう潮時なんじゃないかっていう自分の悲鳴に思えた。


 俺の絵はもうダメなんだろうか?

 この世界では毎月、数多くのマンガやラノベ、ゲームが生まれているのに、俺は誰からも必要とされていない。

 わかってる。

 わかってるのに、抜け出せない。

 やっぱり俺には、これしかないから。

 イラストを描く以外に、社会の中に入っていける能力はない。


 完璧にして完全なる袋小路。

 閉塞感漂う四畳一間の安アパートの一室で、羽虫が蛍光灯とパソコンの光を行ったり来たり。

 その姿に自分を重ね、俺は嗚咽しそうになる自分を必死に抑えながら、仕上げた絵を保存してペンを置いた。


 やり直したい。


 日課のような希望を心で呟いた俺は、そのまま閉じたノートパソコンの上に突っ伏す。


 刹那――――奇妙な浮遊感に襲われた。


 睡魔とも目眩とも違う、明らかな違和感。

 全てが反転し、そのまま自分が溶けてなくなってしまうような、そんな感覚。

 直後、俺はノートパソコンの冷たい感謝が消えている事に気付く間もなく、床に転げ落ちた。

 

 いや……床じゃない。

 やたら固い感触と激痛、妙に鼻を突く石の匂いが、俺の瞼を強引にこじ開けた。

 

 そこは外だった。

 いや、外とかそういう次元の話じゃない。

 

 見覚えのない場所。

 見た事のない建築物。



 そこは――――異なる世界だった。





「……マジかよ」


 あの、未だ原因不明の転移から一年半とちょっと。

 俺は再び、当時と同じ第一声を口にしていた。


 ただし、驚愕という感情は同種でも、その中身はまるで違う。

 一年半前は、全く知らない景色が突然現れた事への混乱が主だった。

 今回は――――差異への混乱だ。


 大陸鉄道を利用して二日でハイドランジアに戻った俺を待っていたのは、半年前とはまるで違う光景だった。


 住所は間違ってない。

 周囲の景色も記憶のままだ。

 ここは確かに、俺の第二の故郷のあの冒険者ギルド……の筈だった。


 だけど外装が全然違う。

 例えば壁。

 壁材は赤レンガのままだけど、薄汚れていた筈のそのレンガがやけに綺麗になっている。

 相当しっかり磨いたみたいだ。


 玄関もウェスタンドアから普通の両開きの扉になっているし、建物の周囲には花壇や石像が置かれている為、まるで違う施設に見える。


 そして何より変わったのは看板。


【総合ギルド〈ハイドランジア〉】


 ……メアリー姫の言った通り、冒険者ギルド〈ハイドランジア〉はもうそこにはなかった。


 総合ギルド――――市長の息子リチャードが建設を進めてた施設。

 俺がいない間に、ハイドランジアはあのいけ好かない金髪七光り野郎に乗っ取られてしまったらしい。


『先日、ゴットが公務の一環でウィステリアの市庁舎へ足を運んだ際に耳にしたそうですわ。冒険者ギルド〈ハイドランジア〉は消滅した、と』


 二日前、メアリー姫はそう言っていた。

 それを聞いた俺のとるべき行動は一つしかない。


 真偽を確かめるべく、ルピナスに戻る。


 その旨をアルテ姫に伝えた結果――――


『免許皆伝を受けた以上は留めておく理由はないわね。いいわ、一旦解放してあげる。帰りの交通費も出してあげる。ただし! 貴方は今後も姫の師匠なんだからね。師匠は弟子の成長を見守る義務があるの。心に留めておきなさい!』


 そんなツンデレっぽいセリフで許可を得、最短時間でこの地へ戻る事が出来た。


 でも……未だに信じられない。

 何が、一体何があったんだ?

 本当にここはあの冒険者ギルド〈ハイドランジア〉ではなくなったのか?


 とにかく、中へ入ってみよう。

 そうすれば、全てが判明する。


 俺は馴染みのない木製の扉を開け、ハイドランジアの中へと入った。

 すると――――


「総合ギルド〈ハイドランジア〉西部支店へようこそ! 初めてのご来店でしょうか?」


 そこにはジャンも、そしてエミリオちゃんもいなかった。

 代わりにいたのは、見知らぬ可愛い女性が数名。

 制服なのか、全員同じ清楚な格好で同じように柔和な表情を向けてくる。

 まるで銀行にでも入ったかのような感覚だ。


「……ええと、ここの関係者なんですけど」


「関係者……従業員の親戚か何かでしょうか?」


 俺の訴えに、ギルド員らしき女性が戸惑いの表情を浮かべる。

 狼狽したいのはこっちなんだが…… 


「確かここ、冒険者ギルドだった筈なんですけど」


「あぁ、当時の」


 当時……?

 っていうか、いきなり口調が変わったぞ。

 視線も冷ややかになったし。


「一月ほど前に、ここは冒険者ギルド〈ハイドランジア〉から総合ギルド〈ハイドランジア〉西部支店に生まれ変わったんですよ。もう冒険者ギルドなんて時代遅れの施設はありません。お引き取り下さい。早急に。ハリアッ!」


 シッシッ、と野良犬でも追い払うような仕草。

 なんちゅー露骨な……

 なお、最後の英語は俺のアドリブ通訳なんだが、我ながら感じ出てると思う。


「ええと……色々言いたい事はありますけど、そこはグッと飲み込んで一つだけ。冒険者ギルドの時に受付けをしていたジャンって男の所在はわかりませんか?」


「え? ジャン様のお知り合いだったんですか? そ、それはとんだ御無礼を……てっきり冒険者ギルド時代のクレームを付けにきた輩かと思いまして」


 また口調が変化したぞ。

 なんなんだこの二転三転の茶番劇は。


「失礼しました。ジャン=ファブリアーノは現在、〈ハイドランジア〉の副支配人として本部に勤めております」


「……はい?」


「ですから、本部に」


 今、俺は何を聞いた?

 ジャンが……総合ギルドの副支配人だと?

 名前を奪われ、建物を奪われ、実績を奪われ――――ジャンまでもが奪われたってのか?


「その情報、確かなんですか?」


「間違いありません。その移動に伴い、冒険者ギルド時代の資料や報告書も全て本部の方で保管する事になりましたので」


 ギルド員の女性は言い淀みなく断言した。

 報告書まで……?

 それはつまり、《絵ギルド》の続きを描く事が不可能になった事を示していた。


 だとしたら、ここにいても仕方がない。

 仕方がないじゃないか。


「……ありがとうございました」


 それだけを言い残し、俺は総合ギルド〈ハイドランジア〉西部支店とやらを出て、思わず天を仰いだ。

 空は今にも雨が降り出しそうな、濃厚な灰色の雲に覆われている。


 終わった……のか?


 俺は知らない間に、目的を失ってしまっていたのか?

 俺の帰る場所はなくなってしまったのか?


 いや、まだだ。

 ジャン本人から何も聞いていない以上、さっきのギルド員の言葉を鵜呑みには出来ない。

 実際、ジャンは昔、自分とは無関係の所で誤解を受け、没落したんだから。


 となると、とるべき次の行動は決まっている。

 総合ギルド〈ハイドランジア〉本部へ行こう。

 建設場所には以前、一度だけ行った事がある。

 当時はまだ建設予定地だったが――――


「……ここか」


 今は立派な建物がそこに建っていた。

 西部支店とは比べものにならない、ちょっとしたホームセンターってくらいの規模だ。

 材質もレンガなんかじゃなく、コンクリート。

 ウィステリアの中では最先端の建築物と言えそうだ。


 とはいえ、元いた世界の建築基準からしてみれば、この程度で驚くには値しない。

 俺をビビらせたかったら、あの王城くらいの建物じゃないとな!


 ……などという誰に対する虚勢なのかよくわからない内心を一旦鎮め、俺はその建物の中へと――――


「……ユーリ?」


 ――――入ろうとした刹那、扉へと伸びた俺の手が止まる。

 声のした街路の方に視線を向けると、今まさに会おうとしていた人物の困惑したような顔があった。


「ジャン!」


 半年ぶりの再会。

 見た事のない正装姿を除けば、半年前となんら変わりがない。

 とはいえ、懐かしんだり喜んだりする余裕はない。

 伸ばした手を引っ込め、俺はジャンの方へと歩み寄った。


「ジャン、一体――――」

「申し訳ありません。副支配人はこれから重要な会議があります。用件がありましたらギルドを通してからにして下さい」


 しかし、そこにいたのはジャン一人じゃなかった。 

 やたらガタイのいい黒服の男が、ジャンに詰め寄ろうとした俺を制するようにズイッと前に出て、睨みつけてくる。

 丁寧な口調だけど、殆ど脅しだ。


「いや、俺はジャンの……」


「副支配人、早く会議室へ。ここは私が対処致します」


 俺の主張を意図的に無視し、黒服はジャンをそう促す。

 ジャンは――――


「……わかった」


 そう答え、目を合わせずにそそくさと俺から離れていった。


「お、おいジャン。ちょっと待てよ、話はまだ……!」


 慌てて追おうとするが、それを再び黒服が制してくる。

 目の前に立たれると、まるで壁だ。

 完全に視界が塞がれるほど、体格に差がある。


「副支配人は大変忙しい身。アポイントメントなしに接触するなど無礼極まりない。とっとと立ち去るがいい」


 そして、この物言い。

 なんだよこれ……いかにもテンプレな展開じゃねーか。

 ここで俺が駆け出し、この男に押さえ付けられ地面に叩き付けられて

 ジャンの名前を叫びでもすれば、これ以上ないくらいの『よく見るシーン』。

 この上なく陳腐だ。


「ジャン! お前――――!」


 それでも、駆け出さずにはいられない。

 叫ばずにはいられない。


 この感情は何なんだろう。

 憤怒か?

 忸怩たる思いか?


 ……わからない。


「バカめ!」


 案の定、俺は黒服に押さえ付けられ、街路に胸から叩き付けられた。


「副支配人はようやく相応しい地位へと落ち着いたのだ。昔の知り合いか何かなのだろうが、みだりに過去を持ち出して足を引っ張る真似は許さん。私はいつでも副支配人を護衛している。私がいる限り、貴様のようなクズに出来る事など何もないと思い知るがいい」


 クズ呼ばわりされた挙げ句、吐かれた唾が肩に付く。

 拘束を解かれ、一人取り残された後も暫くその場から動けず、仰向けになって空を眺めていた。

 周囲の目が注がれるのを気にも留めず、灰色の空をただじっと見上げていた。


 昔から、曇りの日は嫌いじゃない。

 ハッキリしないその空模様が妙に落ち着く。

 ……よし、ほんの少しだけど、心に余裕が出てきた。


 状況だけを冷静に見れば、ジャンが総合ギルドの副支配人という地位を条件にハイドランジアを売った――――その可能性が高い。


 あのジャンが?

 何処の誰かも知らない俺を拾って、衣食住を提供しカメリア語まで教えたあのお人好しが?


「……はは」


 思わず笑いがこみ上げてくる。

 そんな打算的なキャラ、圧倒的に似合わない。

 寧ろ、そんな取引が出来るくらい図太いヤツなら落ちぶれはしなかっただろう。


 何かがあった。

 それは確かだ。

 ジャンがハイドランジアを手放し、総合ギルドに移籍せざるを得ない何かが。


 なら、それを突き止めるのが今の俺のすべき事。

 当面の目標だ。


「……うし! 切り替え切り替え!」


 自分の頬をパチンと叩き、立ち上がる。

 昔の俺だったら、とてもこんなに早く立ち直れなかっただろう。

 いや、ここまで明確に他人を信じる事すら出来なかった。

 これも、過去への報復の一つなのかもしれない。


 とにかく今は情報を集めよう。

 心当たりはある。

 ルカとエミリオちゃんだ。

 彼女達なら、何か事情を知ってる筈。


 エミリオちゃんは、さっきの西部支店に今も務めているんだろうか。

 ジャンがいなくなった事で辞めた可能性もあるよな。

 それを確かめに戻るくらいなら、ルカの印刷所を訪ねた方が早そうだ。


 そう結論付け、今度はランタナ印刷工房へと向かった。

 すると――――


「……移転?」


 印刷所はモノ抜けのカラになっていたんで、ご近所に聞き込みをしてみると、印刷機もそのままに一家揃って引っ越しをした事実が判明した。

 幸いにも移転先はそう遠くはなく、その日の内に移動を試みた結果――――


「デカっ!」


 驚くほど巨大な看板と巨大な印刷機のある、巨大な建築物へと辿り着く。

 以前《絵ギルド》の印刷をして貰う為の第一候補として足を運んだ、あのウィステリア印刷所よりも大きい。


 ランタナ印刷工房は、成り上がっていた。

 ムチャクチャ成り上がっていた。

 店内で声をかけるのにすら弱気になってしまうくらいの成り上がりっぷりだ。


「あ、あの……すいません」


 それでも恐る恐る呼びかけてみると、店の奥からズカズカと足音が聞こえてきた。

 やって来たのは、ルカ――――


「おう…なんだ客か? ウチの印刷所を選ぶたぁ…中々いい目をしてるじゃねーか」


 ――――ではなく、建築現場で親方とでも呼ばれてそうな風貌の中年男性だった。

 直感的に、ルカの父親だと認識。

 持病の癪で入院中との事だったけど、大分前の話だしな。


「すいません、ルカさんはいらっしゃいますか?」


「…テメェ…ルカのなんなんだコラ…」


 ルカの名前を出した途端目つきが変わった!

 直前まで気の良さそうなオヤジだったが、今はその筋の人にしか見えない。

 やっぱり父親で間違いなさそうだ。


「ええと、知り合いです。つい先日までウィステリアを離れてまして、挨拶がてら近況を聞きに来たんですけど……」


「うるせぇ…! ルカに男の知り合いなんざいるわけねぇ…! テメェ何者だ…!?」


 こっちの話を聞いているのかいないのか、ルカの父親(仮)は身体をビクビクと痙攣させ、怒りに打ち震えていた。

 間違いない。

 俺の事を"娘を狙う害虫"と見なしてやがるぞ。


「娘を誑かそうってんなら…このオレが容赦しねぇ…殺す…若しくは息の根を止める…」


「違いがわからないんですが」


「恨むならノコノコ現れたテメェの無謀さを恨むんだな…手動の印刷機で鍛えたこのオレの…ぶっといコレを食らいやがれぇぇぇぇぇぇ――――!」


 ギリギリと音を立て、巨大な拳が振りかざされる。

 あんなの頭に食らったら脳挫傷だ。

 仕方ない、気乗りはしないがこっちも切り札を使おう。


「自己紹介が遅れました。《絵だけで描いてみた冒険者ギルドの報告書》の作者、ユーリと申しま」

「失っ礼しやしたー…っ!」


 今にも殴りかかろうとしていたルカの父親(確)は、勢いそのままにスライディング土下座に移行し俺にヘコヘコ頭を下げてきた。

 ……土下座、この世界にもあったのか。


「い、いつもお世話になっとりやす…! 《絵ギルド》の利益のおかげでオレら…こんなでっかい店に移転出来やした…! 本当に、本当に感謝しとりやす…! ユーリ大先生は神様でやす…!」


「……いや、今更そんな卑屈になられても対応に困るだけなんで」


 だからなるべく切りたくなかったんだ、このカードは。

 それまで居丈高だった人が、売れた途端露骨にヨイショしたりヘコヘコしたりする。

 元いた世界でも、たった一度だけ経験したなあ……


 でも、その後売れなくなると、途端に見下ろしてくるんだよ。

 そんなのを味わったら、人間不信になるに決まってるだろ?

 打算は生きる上で必要かもしれないけど、出来れば露骨に見せて欲しくはない。


 ……まあ、いきなりヒット作が出て俺自身も調子に乗っちゃったし、非難出来る立場じゃないかもしれないけど。 


「とにかく、頭を上げて下さい。そもそもランタナ印刷工房さんが印刷を引き受けてくれたからこそ出来た商品なんで、こちらこそお世話になっていますし、感謝しています。だから対等という事で……」


「おおう…そう言ってくれるたぁ嬉しいねぇ。ははははははは」


 さっきまでの卑屈さはどこへやら、ルカ父はガバッと立ち上がり高笑いを始めた。


 な、なんて調子のいい人なんだ……

 でも、これくらい素直に感情を表に出す方が人付き合いする上ではいいのかもしれない。

 少なくとも、王城で出会った宮廷絵師の連中よりはよっぽどいい。


「それで、ルカさんは何処に――――」

「騒がしい……騒がしいの許せない……呪……呪……」


 今度は店の奥から暗いアニメ声が聞こえてきた。

 懐かしいこの感じ、間違いない。


「おお…ルカ…! ウチの店の救世主がお見えになったぞ…!」


 声の主はやはりルカだった。

 こっちを凝視するその顔は、相変わらず血色が良くないが……なんかエプロンがやたら豪華になっている気が。

 花柄の刺繍は芸術的なほど美しいし、生地も光沢を放っている。


「救世主……? 誰……誰……」


「救世主かどうかはともかく、久し振りです」


 俺が『よっ』って感じで手を挙げると、店の奥から幽鬼のようにフラフラと出て来たルカは、右にカクン、左にカクンと不気味に小首を傾げ続けていた。

 そして――――


「……誰」


「忘れたのかよ!」


 そりゃ確かに久々過ぎて、こっちも敬語で話してたかタメ口だったか忘れちゃったけどさ……


「ああ……思い出した。半年前に王都へ強制連行された……」 


「罪人みたいな覚え方しないでくれるか」


「なんにしても……ちょっと老けた……?」


「二〇歳の若者が半年で老けるか!」


 自分で言って気付く。

 そういや俺、もう二〇歳なんだよな。

 成人式も、二〇歳を祝う誕生日もなく、気付けば二〇代突入。

 なんだろう、この空しい感じ。


「その空虚な表情がフィットした感じ……もしやユーリ……?」


「今気付いたのかよ! さっきの会話はなんだったんだ!」


「テキトーに話を合わせただけ……」


 なんてこった。

 たった半年で俺の顔はルカの記憶から消されていたらしい。

 まあ、そんな長い付き合いじゃないから仕方ないかもしれないけどさ……なんか、元いた世界で売れなくなった途端あっという間に忘れ去られた過去の自分を思い出し、泣きそうになった。


「あのう、どなたかいらっしゃったですか?」


 また奥から人が出て来た。

 今度は――――また見覚えのある女の子。

 おお、ここにいたのか!


「エミリオちゃん! 久し振り! 俺だよ!」


 思わずテンションが上がってブンブン手を振る俺に対し、エミリオちゃんは――――


「そ、そのう……お、お久しぶりです」


 露骨に目を反らして気まずそうに顔を引きつらせた!

 明らかに覚えてなさそうだ!


 俺って、俺って一体……


「…ま、仕方ねぇよ…女ってやつぁ自分にとってどうでもいい男の事は直ぐ忘れやがるからな…あんま気にすんな」


 ポン、と肩に手を置かれルカ父に慰められた俺は、自分のステータスから女性苦手という項目が一生消えない事を確信した。

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