☆盗賊と義賊⑧☆
とある村の名主宅に押し入った時のことだった。
いつもの用に眠り玉を仕掛け、効き目が表れたころに静かに仕事を遂行する。
蔵の場所も完璧に調べがついていた。
蔵の中の小判、米俵をほぼ運び出した終えたころ、ワシは中庭の中央に床几に腰かけて報告を待っていた。
突然部屋から火縄銃を持った男が躍り出た。
完全に不意を突かれた。
ワシは死を覚悟した。
ドン!
火縄銃が火を吹く・・・
大きな塊に突き飛ばされた。
仁平だった。
仁平の足に弾は命中し、血が流れていた。
火縄銃を打ったあと、男は腰を抜かし倒れていた。
ワシはすかさ倒れた男に当て身を加え、気絶させた。
「仁平、大丈夫か!」
「ああ、心配するなかすり傷だ」
足で良かったとほっとした。
しかし、仁平の足は元のように素早く走れるまで回復しなかった・・・
仁平は引退を余儀なくし、団を去っていった。
ワシは片腕を失い、瞑想した。
とにかく、奪った。
奪って、奪って、奪って・・・
いつしか「毒蝮三太夫」名前は関東、東海、上方全域に知れ渡った。
殺生をしないという掟は貫き、弱い者の助けにもなっていたが何か満たされなかった。
ワシはかけがえの無いものを失っていた。
そして、つい先日仁平が病で他界したという知らせを聞いた・・・
いてもたってもいられなかった。
仁平が暮らした村へ出向き、供養をしようと思った。
そこで、仁平の忘れ形見門多に出会った。
清く真っ直ぐな目が仁平にそっくりだった。
血は繋がっていないそうだ。
みなしごだった門多を仁平は拾って育てたということだった。
ワシはこの小僧を育ててみたいと思った。
仁平には人生を変える経験を与えられた。
命も救われた。
仁平のために何かがしたかった。