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髪(-92)
髪は上に通じ、上は髪に通じると言う。
それを知ったからかどうかは知らないが、ある日、私の毛髪は厳かに語りだした。
「願いを一つ叶えてやろう」
その言葉を鵜呑みにするのも馬鹿らしくはあったが、髪が喋りだしたという不可思議は事実。私の願いは勿論決まっていたから、特に迷う事もなくそれを告げる。
けれど、髪の答えは「出来ない」であった。
私は抗議した。他の願いなら兎も角、これが出来ないと言うのは如何なものか、と。
それに対して、髪は答える。
「君の右足は万物を踏むが、右足自身を踏む事は出来ない。そういう事だ」
そう告げて、沈黙する髪。やがて、窓から吹き込んだ風が、枕の上の彼をどこかへ飛ばしてしまった。