山行こうぜ!!
続編でーす。読んだって下さい。
世界には三人、自分と全く同じ(というのは言い過ぎだが)容姿の人物が存在することをご存じだろうか。と言っても、実際にその人物と出会う可能性は低いだろうし、単にそう言われているだけなので、信じるか信じないかは個人の自由だが。
少なくとも私は、それは人のみ通用する概念だと思っていた。
「ナツ!ナツ!?」
「大丈夫!?死んじゃ嫌だよ!!」
「大丈夫…生きてるよ…」
「「「ナツ!!!」」」
猛烈なアタックに再び意識を手放しそうになるが、ナツはなんとか持ち直す。
「うち、どうなったんだっけ?」
「はぁ!?」
「覚えてないの!?」
「ナツ川に落ちたんだよ!流れが速かったから見失っちゃって…取り敢えず川下まで走ったらここで寝てて!」
「そうなの?」
「マジで何も覚えておらんの?」
「…うん」
嘘だ、本当は覚えている。手を伸ばしたらバランスを失って川に落ちて、もう駄目かと思ったら…
「はぁ…。ま、ナツが無事で良かったさね。さっ、もう川はこりごりだ!次は山行こうぜ、山!」
「え、まだ遊ぶの!?」
「うちは良いよ」
「マジで大丈夫なん?ちょっと休んだ方が良いんでね?」
「大丈夫、大丈夫。びっくりさせてごめんね」
「んじゃ決定!!」
もしも本当のことを言ったなら、仲間は信じてくれるのだろうか。
「本当に大丈夫?何ともない?」
心配そうに顔を覗きこんできた遙にナツは笑顔で一言
「何でもない!」
「それが貴方の答え?」
他でもない自分に、そう問われた気がした。
「ねぇ、なんかさっきからジロジロ見られてる気がするんだけど…」
「そりゃさ、こんな真夏に半袖短パンサンダル着用で山登る奴ら、そうそういないでしょ。しかも集団で」
「こりゃ廻来なくて正解だな」
「肌弱いもんねー、日焼けじゃ済まないよ」
登り切って何か有るのかと問われれば特に何も無いのだが、理由もなく疲れることをするのが青春である。
「ん?」
「なした?」
何かに気付いた様子の幸美。それに連られて三人も同じ方向を見る。
「え、なに?あの岩がどうかしたの?」
「いや、でっけーなぁと思って」
再び歩き出す三人とは対照に、ナツはいつまでもその岩から目を離せないでいた。いや、正確には岩に腰掛ける人(?)から。
「(皆見えてないの!?)」
ふと、人影が手を振ってくる。その姿にナツは息を飲んだ。
「は、羽が生えてる…」
「どうした?」
「あ、いや…」
いつの間にか、先に歩いていたはずの三人が戻って来ていた。歯切れの悪くなるナツに首を傾げる亜樹子と遥。
「あの岩に何かいたの?」
確信めいた亜樹子の問いにナツが反応を見せると、幸美が手を打った。
「だったらうちが見て来てあげるよ!」
「はぁ!?あんた反省してないでしょ!
「に危なくね?」
物凄い剣幕で遙が責め立て、亜樹子がそれに賛同すると、流石の幸美も折れるしかない。
「ちぇ…わかったよ」
「ちぇ、じゃないでしょ!」
「まぁまぁ、幸美だから…ね?」
「ナツ酷くね?」
「てかさぁ、いつまで喋ってんだよ」
頭上から降って来た人影。不機嫌そうな声とともに四人の前に現れたのは…
「幸美!?」
「え、なに」
どしんっ
鈍い音とともに幸美の姿が視界から消える。
「痛ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「痛ってぇ…」
急な展開にナツの思考は停止しかける。が、取り敢えず足元に視線を落とす。
ナツの目の前には先程から自分達と話していた幸美(叫んでいる方)と突然現れた幸美(ダメージが軽いほう)がいた。
「ええええええええええ!?ななんで!!てかうち!!?」
「うっせぇなぁー」
…どうやら、幸美自身にも偽物(?)の姿は見えているらしい。
「うわぁっ、喋んのかよ!?」
「うちを何だと思ってんだ!」
早くも興味津々といった様子の幸美に偽物は全身から不機嫌オーラを放出している。しかし、雰囲気がどれだけ違っても見れば見る程二人は似ていた。
「ちょ、幸美!頭大丈夫!?」
「どっか打ったんちゃう!?」
遙と亜樹子なは見えていないようで、一人で転んで一人で叫んでいる(ように見える)幸美にあたふたする。
「いやいやいや!え、なに、見えないの!?」
「見えるよ」
「ナツ!?」
「…なんでてめーが見えんだよ」
ナツは決心して海で自分が見たことを話した。
「え!?じゃあナツも自分のそっくりさんを見たの!?」
「うん」
「なんで言ってくんなかったの!?」
遙の問いにナツは言葉に詰まる。
「ま、信じてくれっかわかんねーもんな」
「それってどういう…」
幸美の問いに偽物は答えない。
「取り敢えず、ここら辺に幸美のそっくりさんが居るんだね?」
「そっくりさんって…w」
「てめーその触り方止めろ!」
「遙、嫌がってるから止めた方が良いかも…」
「え、そうなの?(´・ω・`)」
手を引っ込める遙を、偽物は無言で睨む。
「あのさ、うちらこれから山登るんだけど、お前も着いて来ねー?」
「…てかお前らすでに登ってんだろ」
満更でもなさそうな反応を見せる偽物に、四人は勝手に着いて来ると判断する。
「偽物さん(?)、この先にアイスクリーム売ってる所があるんですけど、寄って行きませんか?」
「偽物って何だよ!?うちは木葉ってんだよ!」
「ごめんなさい。じゃあ木葉さん、行きませんか?」
「行く」
即答かよ!というツッコミを、ナツは静かに呑み込んだ。