海行こうぜ!!
初めての連載です。おおめに見てやって下さい。
“幽霊や妖怪の類を信じるか”
この手の質問は大抵の場合、質題者の意図はここから話を広げることにある。YES/NOの回答にさして興味はない。彼らは自分の語りの場を作る過程で、このような質問をするのだ。
ということは、質題者の大半はその手の話に少なからず興味を抱いているという事だろう。
因みに、私の答えは数年前までNOだった。ある出来事で私は答えだけではなく人生まで変わった、いや、変えられてしまった。
これは私達が体験した不思議な夏の物語。
夏だから海に行く。
実に安直な考えだか一体誰が言い出したのか、茹だる様な暑さの中では思考も働かなくなる。
生暖かい風が自転車を扱ぐ度に頬を掠め、白石ナツは眉根を寄せた。
「あっつー…」
一番前を走っていた佐藤幸美が、うんざりした表情で呟く。すると、ナツの隣を走っていた宮野遙が抗議の声を挙げた。
「言ったって何も変わらないんだからさ、言うなよ」
「そーそ、心頭滅却すれば火もまた涼しってね」
若干余裕そうに見える相澤亜樹子。三人に反論され、幸美は面白くない。
「んならさぁ、それ以外に何を言えばいいわけ?」
「結局、廻の判断が合ってたって話さね…」
今頃寮の自分の部屋でまったりしているであろう仲間を思い出し、会話が途絶える。今朝寮を出発する際に誘ってわみたものの「暑いから」の一言で一蹴されたのであった。
「なぁ、考えるの止めね?あいつの事考えてると俺、余計に暑くなる気がすんねんけど」
「遙も亜樹子に賛成ー」
数秒の沈黙を置いて、四人とも笑う。
「うぉ!あれ海じゃね!?」
幸美が指した方角に確かに水平線が見えた気がした。ナツの鼻孔をほのかに潮の香りが擽る。
真っ先に走り出した幸美を筆頭に、自転車を全力で扱ぐ。
目的地が見えたことで全員浮足立っていた。
「「「「海だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」
お決まりの台詞も難なくクリアし、海へ駆ける。
「皆―!(水)鉄砲に弾(水)詰めろーーーー!!」
遙の掛け声で四人の目は真剣な物になる。ここからは信用に値するのは己のみであり、いかに仲間と言えど、戦場では情けは通用しない。
女子寮に居る人間は大抵こうなる。がに股でいようが、下着が濡れようが、咎める者は居ない。
「ビックキャノン!!」
ナツが発射した水が亜樹子を濡らす。
「狙え―!亜樹子に総攻撃だ!!」
「オッシャーww」
「え、ちょっ!マジたんま!」
暫く遊んでいると、急に四人の水鉄砲が動かなくなった。
「あー、砂詰まったかもね」
銃口を覗きながら亜樹子が呟く。
「まじかよー、残念過ぎる」
「んじゃコレ持ってても仕方ねーな」
幸美が水鉄砲を放り、歩き出す。
「良いのかなー…」
言いつつ同じようにする亜樹子。
「まぁいっかw」
「ばれなきゃ良いんだよ」
結局、遙とナツも水鉄砲を放棄した。
「海は汚さないでね」
「え?何か言った?」
「は?」
「あ、いや…何でもない(聞き間違えか」
駄目と言われるとやりたくなる、これはどの時代においても人類(特に学生)共通だと信じて止まない。例えそれが危険とされる物であってもだ。
「私達は知識に貪欲でなくてわならない。たゆまぬ知的好奇心を妨害してはならないのだ!」
「ぶっちゃけソレ、幸美適当に言ってるでしょ」
「ばれたー?w」
四人が立っているのは”立ち入り禁止”の看板の前、幸美いわくこの先の岩場でサザエが取れるらしい。
「大丈夫だって、うち一人で何度も行ってるし」
「危ないでしょー」
流石に遙は素直に頷けないでいる。
「二人はどうする?」
「俺は皆に合わせるかな。ナツは?」
「うちは行くよ」
「え!?」
「だって危なくないんでしょ?それに、大人の言うなりになるのって癪だし」
「流石ナツ!分かってるね~」
何故か半キレのナツの肩に手を乗せ、幸美はニヤニヤした表情で遙を見る。
「あぁぁぁぁぁぁ、もう!!わかったよ、うちも行くよ!」
「んだら俺も行くかな」
幸美が小さくガッツポーズ。
「そうと決まったら誰も見てない今のうちに入ろうよ」
ナツが不安げに辺りを見渡す。
「そうだね!んじゃ出発!!」
「ばれなきゃ良いんだよ、ばればきゃ」
「!?」
「どした?」
「…いや、何でもない(今うちの声が聞こえたような」
「あー、もうちょい左!ちょい下!行き過ぎ!!」
「何それ何処だよ!?」
「そこ!今手で触ってるとこ!」
幸美が手に力を込めるとソレはすぐに剥がれた。
「初サザエーー!!!」
「ほらナツ、初サザエだよ!」
「あ、うん」
サザエを手にはしゃぐ三人。しかしナツは先程から聞こえてくる不思議な声が気になっていた。まるで自分達に語り掛けているような…
「おしっ、ナツもやってみ」
「え!?いやいや無理だって!!」
「良いから良いから、何事も挑戦よ~?」
幸美に背中をを押されて渋々といった感じでナツがしゃがむ。
「どこー?」
「もうちょい奥、手伸ばせる?」
「こう?」
「ちょ、大丈夫?落ちるんじゃね?」
「んんー、もうちょいで…」
ずるっ
ナツが手を伸ばそうと体を乗り出した瞬間、嫌な音が響いた(様な気がした)
「「「危ない!!」」」
息ピッタリ。
三人の声が綺麗に重なるのをどこか客観的にナツの耳が捉えるのと、彼女の肺に水が入って来るのは、ほぼ同時だった。
水の中で声がした気がした。
意識は朦朧としていたけれど、鮮明に。どこか…聞き覚えのある声だった。
「まだ生きてたい?」
声はナツに問いかける。が、彼女は良く聞き取れない。
「戻りたいでしょ?」
段々と近づいている様に感じるその声に、ナツは今度は必死で頷く。
不意に感じた微かな熱、体が何かに引っ張られる。
水圧が弱まっていく中で、ナツは目を開けた。水中での視界はぼやけていたけれど、それでも、見慣れた自分の顔は見間違えるはずがなかった。
「もう少しだよ」
自分の声に励まされ、水面を視界の隅で確認すると、ナツは再び目を閉じた。
サザエを勝手に獲るには法律で禁止されています。