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夢への道  作者: 黒田 彩
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スタートライン

「決意」の前書きにて、結愛の口調が変わると書きましたが、案外大きく変わらずに済みました(笑)


でも、これから少しずつ変わるかも。。

 学校が終わって家に帰ってくると、リビングにたくさんのビデオテープが散らばっていた。その真ん中に、母が座っている。よく見ると、ビデオカメラの小さな画面を覗き込んでいた。

「なにそれ?」

 私は重たいリュックを置いて母の方へ向かう。足の踏み場もないくらいごちゃごちゃとしている部屋を、つま先立ちで歩いた。母は首だけでこちらを向き、ニコッと笑った。

「小さい頃のビデオだよ。結愛(ゆめ)は一人目だから、嬉しくって私もお父さんもずーっとビデオ撮ってたの」

 それでこんなにたくさんあるのか。正直ビデオなんか見てないで片付けてほしい。少し苦笑いを浮かべながら、へえ、と言って母が持っているビデオカメラを覗き込んだ。本当だ。小さい頃の私が写っている。これは幼稚園くらいの頃かな。

「昔っから変わらないねぇ。歌ってばっかり。あ、お風呂で歌うのやめなさいよ、結構外に響くんだから」

「はいはい」

 いつものように適当な返事をして、ビデオから目を離した。母は、ニコニコしながらビデオを見ている。来たときと同じようにつま先立ちで歩き、よいしょ、とリュックを持ちあげて自分の部屋に戻った。

 小さい頃から、音楽が好きだった。母が、中学生までやっていたピアノを途中でやめてしまって後悔したらしく、私は3歳くらいからずっとピアノを続けている。ピアノを弾くことも好きだし、音楽を聴くことも好き。でも、特別大好きなのは、歌うことだった。暇があれば歌を口ずさんでいた。無意識に歌っていた。それは、小さい頃からずっと変わらない。

 私が歌手を志すようになったのは、小学4年生の後半。シンガーソングライターのYUKAという人のファンになったことがきっかけだった。ずっと音楽は好きだったけれど、はじめて特定のアーティストに興味を持ち、彼女が奏でる音楽に、彼女が歌う姿に憧れた。あんな風になりたいと、毎日思った。それは今も変わらないけれど、あの頃はまだぼんやりとした夢でしかなかった。その夢がはっきりとしてきたのは、中学1年生の終わり頃。ちょうど1年前のことだった。


 3月。先輩たちが卒業していく。私の通う学校では、毎年3月のはじめに3年生を送る会、通称3送会が行われる。各学年ごとの出し物、有志発表、職員からのサプライズなど、お世話になった先輩方に感謝の気持ちを伝える会だ。

「有志発表に参加したい人は、今週中に応募用紙を提出してください」

 学級委員の彩凪(あやな)ちゃんが、教卓で喋っている。3送会について連絡があるとのことで、朝の会の時間を使って連絡をしているのだ。誰も聞いている人なんていないのに、彩凪ちゃんはそのまま有志発表についての詳細を喋り続けた。喋り終わったところで、連絡内容が書き込まれたプリントから目を離し、以上です、とよく響く声で言った。そして、何も喋ろうとしなかった男子の学級委員を横目で睨み、席に戻った。睨まれた翔希(しょうき)は、へらへらと笑って自分の席へ向かった。こんなに頼りない学級委員でいいのだろうか。少し、いやかなり心配になる。

 その日の帰り、私は千秋(ちあき)と一緒に帰っていた。クラスは離れてしまったけれど、小学生の頃から仲が良く、毎日一緒に帰っている。

「ねぇねぇ、3送会の有志発表の話聞いた?」

 千秋が、目をキラキラさせて言った。うん、と答えると、千秋はさらに目を輝かせ、私を見つめてくる。有志発表一緒に出ない? そう言っていた。千秋の顔は、明らかにそう言っていた。

「……出る?」

「うん!」

 わたしの言葉に対してとても嬉しそうに返事をした千秋。やっぱり、私の思った通りだったようだ。

 その日は、有志発表に出るということだけ決まって、そのあとはとくに話し合いもせずに別れた。お互い、すぐには何をやりたいか浮かばなかったので、また明日決めるということになったのだ。

 家に帰って、何をやろうかずっと考えていた。私と千秋に共通している特技は、歌だ。でも、全校生徒の前で歌えるだろうか。歌以外の出し物といっても、ダンスもできないし、芝居も二人じゃできない。千秋は何がやりたいのだろう。いろいろ考えてみたけれど、やっぱり一番しっくりくるのは歌うことだった。というか、歌いたかった。体育館のちっぽけな舞台だけれど、なぜかあの舞台に立って歌いたかった。

 これが、''歌手''という夢がはっきりし始め、夢への第一歩を踏み出す直前、スタートラインに立った瞬間だったのかもしれない。

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