表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

その赤い電車は

作者: 森野青葉

某携帯メール小説に応募して、落選したものです。短いのは、千文字以内という規定によるものです。ご了承下さい。

 その赤い電車は、赤茶色の錆びたレールの上を今日も走り続けている。その電車が走る様はガタンゴトンという表現以外、似合う言葉は見つからなくて、いつも心地よい振動を与えてくれる。

 車両はどれもポストに似た赤色をしていて、ホームと電車の間は狭く、急いでいても安心して乗ることができる。

 でも今日だけは、窓から見える町並みも景色も時間の流れさえもが違ってしまっていた。

「やっちゃった……」

 不安が強く胸を押して情けない声が漏れた。平日の通勤ラッシュを過ぎた車内は、私の独り言など気にとめる人は誰もおらず、目前の空間に溶けていく。

 徹夜で完成させた発表レポートを抱えて飛び乗った電車で、空席を見つけて座ってしまったのが間違いだったのかもしれない。気付けば、壇上で発表するはずだった授業は残り三十分という時間帯で、逆立ちしたって寝坊ですっぽかした現実は揺るがない。

「またやっちゃったよ……」

 大学に入ってからの遅刻はこれで二度目だった。最初は土砂降りの雨の日で、スニーカーの爪先から水が浸透して、一歩踏みしめる度にぐちゃぐちゃと肌にまとわりつくのが気持ち悪かった。それでもこの電車の揺れに身を任せていると、心地よくて爆発的な眠りに誘われたのだった。

 お気に入りの傘の存在も忘れて、慌てて降りたが、一限目の授業には間に合わなかった。

 そんなことを思い出していると、バックの中の携帯が明滅しているのに気付いた。条件反射でそれを開くと、新着メール一件の文字が浮かぶ。指先が宙を泳ぎつつボタンを押す。差出人は大学の友人からだ。文面を見ると、頭から冷水をかぶったみたいな衝撃。

『一限休講だって! 先生風邪ひいたらしいよ、ラッキー。お昼一緒に食べよ!』

 返信せずに、携帯を閉じる。気付けば電車は降りるはずの駅だった。

「あはは、馬鹿みたい」

 小走りで階段を駆け降り、駅員さんに定期を見せて後は走るだけ。でも、私の目にある物が飛びこんだ。

「すみません。あの傘、私のなんですけど」

「あぁ、あなたのですか。どうぞ、もう忘れないようにね」

 駅員室の窓に立ててあったのは、あの日忘れた傘。受け取ったそれが自分のだと確かめるため、開く。歪んだ花が咲き、私の胸はまた萎んだ。

「明日から早起きしよう」

 誰かが乱暴に使ったのか、骨組みは外側へ折れていた。ガタンゴトンと電車はまた走り出していた。


光の矢の如く、すらすらっと冒頭から書けた作品でした。規定により描写をだいぶ削りましたが、個人的には気にいっています。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんちわ! 休講なら休講って、最悪前日に掲示出しといてほしいですよねっ!早起きした労力を帰せって思います、いつも。外国文学めっ!(私情を書くな) 冒頭の一文は読者をぐっと掴んで、このくらい…
[一言] これ、いいですね(^-^)凛とした清々しさ、清潔感のある作品でした。このリズムを先の連載にも取り入れてはいかがでしょうか。ちょっと面白いので私も千字縛りで書いてみようかな。すぐ触発されると試…
[一言] 風景が細かく書いてあったからイメージしやすかった が、文学以前に話が面白いかどうか分からん気がする 人にもよるが、俺は極端な話、描写が細かい日記にしか思えんかった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ