9 久しぶりに対面しました。・・・ツンデレか、ツンデレだな。
サブタイトルを考えるのに苦労します・・・。
でも今回のタイトル、割とすんなり出てきたり(笑)
・・・センスなくてすいません。
優雄が霧の中へ姿を消してから長い時間が経った。ローズは心配になりながらも言われた通りジッと待っている。
「優雄様・・・」
ローズが知っているユリウスの顔と優雄の顔は同じ。だがその性格ゆえか浮かべている表情は全く違った。その優雄の顔に先程浮かんだ微笑。あれはまさにユリウスが優しく微笑んだ時の表情だった。
彼女は思う。とても長く感じた百年、待っていて良かったと。
「これからもずっとお傍におります」
改めて誓いを口にしていると、目の前の霧が突然激しく流動し始めた。
「邪気が・・・! ま、優雄様は!?」
彼の身に何かあったのだろうかと慌てて中に入ろうとしたローズは、先程言われた事を思い出して足を止めた。
『待っていてくれ』
誰よりも信頼している彼の言葉。なら彼は大丈夫だと信じよう。
やがて霧はその範囲を縮小していった。まるで何かに吸い取られていくように視界がハッキリしてくる。そうして霧がなくなった後には何の変哲もない谷が存在していた。
「・・・優雄様!」
こちらへ向かってゆっくりと歩いてくる優雄の姿を捉え、ローズは駆け出した。その胸に飛び込むと、優しく受け止めてくれた彼はローズの大好きな微笑みを浮かべていた。
「思い出されたのですね。全て」
確かめるように声にすると、力強い頷きが返ってくる。嬉しくなってギュッと抱き付くと、更に力強く抱き締めてくれる。
「今まで私のために尽くしてくれてありがとう。これからも迷惑をかけるだろうが、一緒にいてくれるかい?」
「勿論です!」
穏やかな彼の言葉に、ローズは歓喜のあまり涙を零した。
自分の胸で泣くローズを宥めながら、優雄はジッと空を凝視していた。まるでそこに何かが存在しているかのように。泣き止んだローズがそれに気付き、首を傾げたのを見て苦笑する。
「君が気付かないのは無理もないけど、気付いたら気付いたでちょっと問題かな・・・」
「?」
益々ハテナマークを頭に浮かべる彼女に、優雄は苦笑混じりに空に向かって声を張り上げた。
「そこにいるんだろう? 出てきたらどうだ」
すると何もない空間からバサリと羽ばたく音と共に黒い羽根が落ちてきた。
「黒い羽根? という事は・・・!」
ローズが弾かれたように上を見上げると、そこには堕天使が二人、羽を広げて空に佇んでいた。
「ミシュレ・・・アイヴズ・・・!」
思わず身構えた彼女の前で、二人はゆっくりと降り立った。眉を吊り上げて睨むローズを一瞥しただけで、優雄に向き直る。
アイヴズはミシュレと同じく全身黒ずくめで闇色の髪、闇色の羽をしているが、一つだけ違う部分があった。眼だ。瞳の色は黒ではなく血のような赤だ。そして元天使なだけあって二人とも美形である。天使は例外なく美形揃いなのだから当然と言えば当然なのだが。
優雄は記憶にある彼らと全く変わっていない姿を見て、嬉しげに微笑んだ。
「久しぶりだな、アイヴズ」
対するアイヴズはフンと鼻を鳴らしただけだが、優雄は気を悪くした風もなく続ける。
「天の邪鬼な性格は相変わらずのようだな。ミシュレも大変だろうに」
「ほっとけ」
やっと口を開いたアイヴズの声は不機嫌そうな顔の割に嬉々が感じられた。
優雄が苦笑を浮かべていると、アイヴズの手が何かを確かめるかのように顔に触れてくる。
「・・・ちゃんと生まれ変わってきたんだな」
「当り前だろう。『約束』したんだから」
「・・・そうだな」
するとアイヴズは込み上げる感情を抑えるかのように眉根を寄せた。
優雄の記憶にある彼はいつも傲慢と言ってもいいほど生意気な性格だったので、そんな様子が可愛いと思う。勿論口に出せば即座に蹴りを入れられそうだが。
ミシュレはと言えば、一歩離れたところで優雄とアイヴズの様子を見守っている。その眼は嬉しそうに細められていた。
唯一人、何も知らないローズだけが置いてけぼりだ。彼女は最初呆然と優雄を見ていたが、沸々と湧き上がってくる怒りのままに叫んだ。
「優雄様! どういう事ですか! アイヴズとは敵対していたはずでしょう! ちゃんと説明してください!」
彼女の怒りも尤もである。
優雄は彼女に謝りながら近くの岩に座るよう促した。これからする説明は長くなるのだから。
煩そうにローズを見たアイヴズとミシュレも手頃な岩に腰掛ける。
「どこから話そうか。そうだな・・・やはり天界にいた時の事から話そう」
そうしてローズの隣に座った優雄はゆっくりと話し始めた。