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7 国王様に会いました。・・・いや、オヤジだろ?

「あなたがユリウス様ですか! 会えて光栄ですよ!」

 そう言ってがしっと両手を握ってきたのはこの国の王、アリウスである。

 顔には出さなかったが、内心では少し驚いていた。短く刈り込んだ髪、口元のもじゃもじゃ髭、たくましい体躯、極めつけはがははと大声で笑う豪快さ。


 非常にオヤジくさい。


 それが優雄が抱いたアリウスの印象だ。

 アリウスは唾を飛ばす勢いで続ける。

「私、ユリウス様の大ファンでして! 名前も一字違いでしょう? 本当は同じ名前が良かったのですが、親は恐れ多い! と思ったようです!」

「は、はあ・・・」

 ほぼ一方的に捲し立てられ、優雄は相槌を打つ事しかできない。

 本来なら、ユリウスの名前ばかりの現状に不満を表して前世に嫉妬するところなのだろうが、ここまではっきり言われるとどうでもよくなってくる。カエラスの人柄のおかげもあるとは思う。

「アリウス殿。優雄様が困っておられますよ」

 ローズの言葉でアリウスはやっと手を離してくれた。


 正直大きな手で握られるとかなり痛かった・・・。


 ホッと安堵の溜息を吐いていると、アリウスは豪奢なソファに座るよう勧めてきた。明らかに高級そうな、座り心地も良さそうなソファだ。というか、ここにある家具は全て、物の価値など分からない優雄が見ても高価だろうと断言できる物ばかりだった。

 こんな高価そうな物に座るなんて・・・と尻込みしながらも腰かけると、侍女が飲み物を持ってきた。まだ若いながらも、素早く給仕を終えると優雅な仕草で低頭して出ていった。さすが城の侍女。日本では見た事がない気品だ。

 落ち着くために飲み物を一口飲んでみると、爽やかな味が口の中に広がる。ハーブティというやつか。

「美味しい・・・」

 思わず呟くと、アリウスが嬉しそうに自慢話ならぬ自国話を始めてくれた。

「でしょう? 我が国は薬草学に関心があり、特にここカエラスの名産物がその薬草茶なんですよ。体調が優れない時はそれを飲めばすぐに良くなりますよ」

 一度喋り出すと止まらないのはこの王様の特徴か。それともこの街特有か。

 薬草に始まってこの国の名産物がいくつかある事、ここカエラスが首都で国の名前はその時の王の名で呼ばれる事など、相槌を打つ暇もないくらい教えてくれる。

 どうしよう・・・と思っていると、再びローズが口を挟んでくれた。おかげでやっと本題に入れそうだ。

「すいません、つい興奮しすぎてしまって・・・。我が国についてはまた今度お話しますよ」


 大いに遠慮します。


 ついそう言いそうになって、薬草茶を飲んで誤魔化す。

「別の世界からわざわざ来ていただいて、国民を代表し、深く感謝いたします。もしお疲れなら今日はお休みいただいて、明日にでもお話を―――」

「いえ、今聞きます。てかすぐ聞きたいです、ホント」


 これ以上時間をおいたらまた国自慢が始まる。そしたらストレス溜まる、絶対。


 この場ではローズだけが優雄の心情を理解してくれるだろう。

「そうですか。では、ユリウス様・・・いえ、優雄様でしたね。こちらの事情についてはローズから聞いていると思うのですが」

「あ、はい。前世の記憶がないので詳しくは知りませんが、大方の事は聞いています」

「それなら話は早いですね。ただローズがそちらへ向かった後にアイヴズが復活したという事実が分かったので、それをお知らせ出来ず・・・」

「それも知っています。アイヴズの右腕とも呼ばれる堕天使が襲ってきたので」

「え!?」

 あまりにも驚く内容だったらしく、アリウスはがたんと立ち上がる。その勢いでカップが倒れ、残っていた中身が零れてしまったが、当人はそれどころではないようだ。

「大丈夫だったのですか!? どこかお怪我は!?」

「だ、大丈夫です。ローズも助けてくれましたし」

「そうですか・・・」

 身を乗り出していた彼は安堵の溜息を吐くと、零れたお茶に気付いて慌てた。

「すいません、また興奮してしまって・・・」

 侍女を呼んで片付けさせる。相変わらず彼女は手際が良く、素早く綺麗にして新しいお茶を入れると、再び優雅に低頭して出ていった。

「話を続けます。アイヴズが復活したという噂を聞き、調査を兵士に命じました。アイヴズが封印された地、『破邪の谷』に向かった兵士の話によれば、ユリウス様の結界によって浄化されていたはずのアイヴズの邪気が溢れだし、人間には足を踏み入れる事が叶わぬ地になってしまったという事です。アイヴズ本人は地界に戻っているのか破邪の谷にはいなかったそうですが、長らく封印されていたために溜まりに溜まった邪気が渦巻いているので、戻ってきた兵士の大半が意識不明の状態になってしまったのです」

「・・・・・・」


 訓練を受けているはずの兵士がそんな状態なら、自分は意識不明で済むか?


 そんな不安が顔に出ていたのか、肩に座っているローズが頬に手をおいて慰めてくれる。

『私はずっとお傍におります』

 小さく囁いてくれた言葉。それはどんな危険な場所でもついていく、という意味だろう。

 心強く思いながら、優雄は震える手をギュッと握りしめてアリウスに言った。

「破邪の谷へ行きます。行き方を教えてもらえますか?」



 ローズが知っているというので、優雄は彼女の案内のもと、破邪の谷へ向かう。カエラスからは馬を飛ばせば一日ほどの道のりらしいが(結構近い距離だ)、生まれてこの方一度も馬に乗った事がない優雄が馬で行くのは、そりゃ殺生だろ、という事で馬車を借りた。

 アリウスからは護衛の兵士をつけると言われたが、ただでさえアイヴズが復活して魔獣が活発化するだろうに、無駄に兵力を割いては厳しいだろうと断った。

 本音では護衛がいた方が良かったのだが、破邪の谷で意識を失う者が増えるのも可哀想だし。

 御者台には魔法で再び大きくなったローズが座り、優雄はゴトゴトと馬車に揺られながら流れる景色を眺めていた。

「・・・記憶がないのに懐かしい気がするっておかしいかな・・・」

 ポツリと呟くと、前方からローズの声が聞こえてくる。

「おかしくないですよ。ユリウス様は人間界で仕事に就いておられる間、ずっと旅をしておられましたから、百年経ったとはいえ景色を見て懐かしく思うのは当然だと思います」

 彼女の声はいつもより嬉しそうに弾んでいる気がする。ユリウスに助けられてからずっと行動を共にしていたと言っていたから、同じ景色を見て共感しているのかもしれない。

「この速さなら二日ほどで着きます。もしもっと景色をご覧になりたいなら速度を弛めますが・・・」

「いや、あまり時間をかけるのは良くないような気がするんだ。なるべく早く行こう」

「分かりました」

 ローズは手綱を握る手に力を込める。

 揺れが少し酷くなった馬車の中で、優雄はずっと考えていた。

 この世界に来る前、ミシュレを追い返すために魔法を使った事といい(記憶はないが)、この世界の景色を見て懐かしく思った事といい、自分がユリウスの生まれ変わりである事は間違いない(疑っていたわけではないが)。だが今の自分は何もできない人間で、果たしてアイヴズと相対して倒す事が出来るのだろうか。

 それと、この世界に来てからずっと違和感のようなものを感じていた。アリウスの話を聞いてから、それが酷くなっている。恐らくこれはローズに訊いても分からないだろう。以前ローズの魔法に対して覚えた違和感とは全く違う気がするから。

 無言で考え込む優雄を見て懐古に浸っているのだと思ったのか、それ以上ローズは声をかけてこなかった。

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