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16 ある休日の過ごし方 5

「優雄」

 それまで静かに傍観していたミシュレが声をかけてきた。

「私達がここへ来たのには理由があったんだが・・・アイヴズは先に行ってしまったし、『彼ら』が八つ当たりされる前に早く向かおう」

「『彼ら』?」

 優雄と薫が首を傾げると、ミシュレは一つ頷いて足早に広場を出ていく。彼の後をついていくと、向かった先は清浄の森だった。

 魔獣を寄せ付けない清浄の森でも、堕天使は別のようだ。ミシュレは気にした風もなくスタスタと進んでいく。

 しばらく進むと綺麗な水が流れる川があった。川幅はそんなにないがど真ん中に大きな岩があり、その上にアイヴズは座っていた。

「遅い!」

 三人を見たアイヴズのセリフである。


 説明をせず行ってしまったのはそっちだろう。


 非難の眼を向けると、彼は「おい」と誰にともなく呼びかける。優雄と薫が再び首を傾げた時・・・

 ガサガサと音を立てて木々の間から人影が出てきた。見ると、背中に黒い翼がある。一人だけでなく、その後ろからも数人やってくる。

「君達・・・!」

 優雄は嬉しそうに微笑んで彼らを迎えた。

 百年前に突然会いに来なくなってしまった、堕天使達だった。

「久しぶりだね。元気だった?」

 何のわだかまりもなく声をかけてくる優雄に、彼らはホッと安堵したようだ。見るからに強張っていた身体が、少し解れた。多少は気にしてくれていたらしい。

「・・・久しぶりだな。俺達は相変わらずだ。お前こそ、一度死んだ身のくせに、元気なのか?」

 答えてくれたのは先頭にいた銀髪の男。眼は緑色で、優しげな色をしている。ファビウスという名前の彼は一応ミシュレよりも古株で、かなり前から地界にいたらしい。

 堕天使は基本地界に堕ちた時点で髪も眼も黒くなるはずだが、何故か彼は元の色のままだった。まあ、アイヴズも変わっていないので(髪は元から黒かったが)特別というわけではないようだ。

「死んだは余計だよ。こうやって生きているんだから。みんな変わりなくて安心した。でもみんながここにいるって事は、アイヴズが・・・?」

 ちらりとアイヴズの方を見てみると、不自然なまでにそっぽを向いている。頬がほんのり赤くなっており、今までにないほど可愛く見えた(例によって口には出さない)。

「ユリウスが・・・いや、優雄が会いたがっていると聞いて、な。なら望み通りにしてやろうかと」

「そうか・・・」

 嬉しさのあまり涙まで滲んでしまった。

 彼は百年前、ミシュレに話を聞いて真っ先にユリウスに会いに来た堕天使だ。それだけで好奇心が強い事は丸分かりである。

 そして彼の背後でそわそわしている堕天使達。よく剣の訓練と称してやってきては敗北してすごすごと帰っていった者達だ。

 だがユリウスは彼らを嫌ってはいなかった。むしろ、天使と違って感情をぶつけてくる彼らの方が好きだったと言える。だから会えなくなった事が悲しかったのだ。

 ミシュレと同じ闇色の髪と眼を持つ彼らは、多少剣の腕が上がったらしく再び勝負だと息巻いている。

 そんな危ない事は許しません! と薫が怒鳴ったが、それで引き下がる彼らではない。

 だが今はもう夜の闇が迫ってくる時刻だ。堕天使達にとってはこれからという時刻だろうが、優雄や薫はもうすでに遊び倒して疲れている。

「後日手合わせしよう。なるべくこっちにも来るようにするから」

 そう言って約束を交わした。

「それよりみんな何で会いに来なくなったんだ? ずっと待ってたのに」

 優雄が長年の疑問を口にすると、彼らは一様に押し黙ってしまった。不思議に思って、わざとらしく銀髪を撫でつけているファビウスに視線を向けると、あからさまに避けられた。


 ・・・嫌われたのではないと思っていたのに。


 思いが顔に出ていたのか、彼らがあたふたと慌てる。

「別に嫌ったわけではないぞ!」

「むしろ会いたいとは思っていた!」

「そうだ! 妖精がいなければすぐにでも―――」

「は?」


 なんか聞き捨てならんような言葉を聞いたぞ・・・。


 しまった、という顔で口を閉ざす堕天使A(会えば勝負ばかりだったので名前は知らない)。

「妖精っていうのは薫の事だよな。彼女が何かしたのか?」

 再び押し黙ってしまった堕天使達に、眉を寄せて問いかける。が、答えたのは彼らではなかった。

「盛大に嫉妬したのさ、妖精にな」

 いつの間にか岩から離れて傍に来ていたアイヴズだ。

「天使の方が純粋だと思われがちだが、実は堕天使の方こそ純粋だ。感情を表に出し、好意を抱けば限りなく愛する。だからこそ嫉妬すればずっと根に持つ。お前が妖精をパートナーと決めてから、こいつらは嫉妬心丸出しの顔を見せられなかったんだよ」


 そんな事で・・・。


 呆れてものも言えない優雄である。

 アイヴズは身体がむずがゆくなりそうな話をさらりと話して、ファビウス達に睨まれていた。

 そう言えば、と朝食の席でアイヴズが何かに気付いた様子だった事を思い出す。

(あ~、彼らのからかいのネタを提供してしまった・・・)

 アイヴズの性格からして、地界で彼らを散々からかってきたに違いない。優雄としては、人の事言えないだろ、と言ってやりたかったが。だが、彼のおかげで他の堕天使に会えたのだから、まあよしとしよう。

 顔を真っ赤にしているファビウス達を宥めながら、優雄はそんな事を思っていた。



 堕天使達にはこちらの世界にも会いに来るように、と約束させ、百年前からの憂いは消えた。今度は現代の心配だ。

 優雄が生まれ育った世界に戻ってきた三人は(ミシュレは残ったため優雄、薫、アイヴズの三人)、電話の留守録に入っていた昨日の社長からの伝言に、三者三様の反応を見せた。

 優雄ははあ、と深い溜息を零し、薫は優雄と一緒に仕事が出来た事が嬉しいと喜ぶ。アイヴズは面白そうだと眼を輝かせていた。

 昨日アイヴズが興味を示した事で、社長はカメラテストだけでも、と四人をあるスタジオに連れて行った。そこで何枚か写真を撮られたのだが、その写真を雑誌に使いたい、と言っているのだ。というか、ほぼ決定した言い方だったが。


 最初からそのつもりだったな。


 三人の心の呟きである。

 そのカメラテストで疲れてしまったために今朝寝坊した優雄は、正直どうでもいい、と半ば諦めの境地に達していた。

 そのおかげで、後日優雄の周りが煩くなった事は言うまでもない。


 ・・・ホントに、父さんになんて言い訳すりゃいいんだ・・・。

次回で最後です。

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