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1 美人な転校生に抱きつかれました。・・・なぜだ。

以前『夢よ現実に』を書いていたときにチラッと載せようか迷っていた小説です。かなり前に書いた小説ですが、一応完結しているので、載せます。ってか『夢よ現実に』の番外編を書く、とか言いながら何してんねん!と自分で思いますが、全然はかどんないんだもん!!(泣)

話の内容は頭の中にあるのに、なかなか形にできない・・・。やっぱ仕事が忙しいからか・・・(言い訳ですね、ハイ)

とにかく毎日更新を目指して頑張ろうと思います(はよ番外編書けや自分)

『約束しよう。生まれ変わったら、君と共に生きていく事を』

 そう言って、目の前にいる誰かに手を伸ばす。その手には剣が握られていた。

『それまで君を一人にする事を許してくれ・・・』

 頬に熱いものが流れ落ちた。ああ、自分は泣いているのだと気付いた瞬間、向こうから笑ったような気配を感じて・・・


 ピピピピピ・・・


 眼が覚めたら、そこはベッドの上だった。けたたましく鳴り続ける目覚まし時計をバンッと叩き、隣に置いてあった眼鏡を持ち上げる。

「夢か・・・」

 ボソリと呟いた声は少し湿っているような気がした。

 ふと頬が冷たく感じて、手をやると涙が流れていた。夢の影響だろう。

「変な夢だったな・・・」

 寝癖も相まってボサボサの髪をかき上げながら、彼、近藤優雄こんどうまさかずは起き上がった。

 優雄は十七歳、高校二年生だ。父子家庭で、母親は早くに亡くしている。父は仕事で海外に単身赴任中なので、今はほぼ一人暮らし。昔から家事は優雄の担当だったので、苦ではない。


 ただ一つ、優雄が苦にしている事は・・・


「学校か・・・」

 溜息と共に吐き出されたのはどんよりと暗い声。

 のろのろと身支度を整えながら、食欲もないので牛乳を胃に流し込む。

「休んじゃおうかな・・・」

 朝が来るたびにそう思うものの、真面目な性格がそれを許さない。

 やはり今日も、憂鬱な気分で家を出た。



 重い足取りで着いた学校。

 友達同士で仲良くお喋りしながら歩いていく生徒達が多い中、優雄は鞄を胸に抱いて目立たないように下駄箱へ向かっていた。俯き気味に歩いているせいで少し猫背になっている。

 上靴に履き替えようと腰を屈めた時、突然ドンッと背中を押された。

「あ、いたの」

 見上げると同じクラスの女子がクスクスと笑いながら通っていくところだった。

「・・・・・・」

 優雄は何も言わずに靴を履き替える。


 こんな事は日常茶飯事だ。もう慣れている。


 そう自分に言い聞かせ、教室に向かう。今日は上靴が無事下駄箱の中に入っていた。だから今日はまだ幸せな日かもしれない。

 ざわつく教室に辿り着くと、自分の席まで脇目も振らず急ぐ。周りはみんな自分達のお喋りに夢中だ。そう思っていたが、突然足下に何かが飛び出して躓いてしまった。転んだ拍子に眼鏡がどこかに飛ぶ。

「何やってんだよ~」

 無様に転んだ優雄を、大笑いするクラスメイト達。特に足払いをかけた男子はニヤニヤと意地悪く笑っていた。

 優雄は無言で眼鏡を探し、かける。

 反抗すれば余計楽しませると分かっているので、何もなかったように鞄を持ち直して席に座った。クラスメイト達はそんな自分に興味を失ったのか、またお喋りに興じる。

 ここでの優雄はいつも一人だ。誰も話しかけて来ないし、こっちから話しかけようともしない。唯一話しかけてくるのは昼休みの始まりの時だけ。要は程のいいパシリで、昼食を買いに行かされるのだ。最近は昼休みになると同時に屋上に逃げ込むので、お金を払わされずに済んでいる(その後の文句はいつもの事だ)。


 俗に言う、いじめだ。


 小さい頃からずっと苛められてきた。今はほとんど無視されている状態だが、小学校や中学校の頃はもっと酷かった。仲間はずれは当たり前で、学校の行事でも組まされる相手が嫌がって、終いには先生まで諦めて放置した。優雄の持ち物は壊され捨てられるか、手元に戻っても落書きだらけ。一部の男子からは持て余した力の捌け口にされていた。一時期登校拒否を起こしかけた事もあったが、仕事で忙しい父に心配をかけたくなくて相談も出来なかった。

 これまで優雄を育てるために頑張ってきた父。母親がいない事で寂しい思いをしないようにと頑張っていた姿を見てきた優雄は、どうしても話を切り出せなかった。いじめの原因の一つが、母親がいない事だったために。

 だから優雄はずっと無関心な態度をとり続けた。いつも俯きがちになり、視力が悪いためにかけている眼鏡も相まってクラスメイト達はみんな優雄の顔すら覚えていないだろう。

 そんな毎日が続いていく。そう思っていた。・・・今日までは・・・。



 チャイムが鳴り、みんなが席に着いて先生がやってくる。その後出欠の確認を終えて出て行くのが日常だったが、今日はいつもと違った。

「転校生を紹介する。華岡薫はなおかかおる君だ」

 そう言って黒板に書かれた名前に、派手な名前だな、と優雄は思った。ドアを開けて静かに入ってくる女の子の容姿も、地味とは言い難かった。

 外国の血が入っているのか、金髪碧眼、彫の深い顔立ちだ。だが不思議と、どこの国の血か分からない雰囲気が彼女にはあった。誰もが羨みそうなプロポーションのとれた身体は、そこにいるだけで場が華やぐ。輝くように手入れされた髪は腰まで長く、手で梳きたい衝動を覚えるほど柔らかに波うっていた。

「・・・?」

 優雄は首を傾げた。

 今まで彼女に会った事はない。こんな美人なら、一目見ただけで記憶に残りそうなものだ。だが昔、どこかで会ったような気がする。・・・既視感というやつだろうか。

 男子の熱い視線と女子の冷たい視線が集まる中、彼女の方はまるで誰かを探すかのようにキョロキョロと教室内を見回している。やがてその視線が優雄の上に来ると、花がぱあっと咲いたかのように笑った。

「ユウ様!」

 教師が彼女について説明しているにもかかわらず、薫は優雄のもとまで一気に走り抜け、抱き付いた。

「うわっ!?」

 思わず仰け反ってしまった優雄は、そのまま椅子と彼女ごと後ろに倒れてしまう。

「いてて・・・」

 頭を押さえながら起き上ると、彼女は妙にキラキラした笑顔で手まで掴んできた。

「ユウ様! ずっと・・・ずっと、もう一度お会いしたいと思っておりました」

「・・・は?」

 つい間抜けな声が出てしまった。

 くどいようだが、優雄は彼女に会った記憶はない。だが眼に涙まで浮かべられてはそんな事を言う気にはなれない。

 ハッと気がつくと、教師やクラスメイトの視線が全て集中していた。

 美女と手を繋いでいるという幸福よりも、みんなから少々というにはきつい睨みを向けられている事が先行きの不安を上回らせてしまった。



 昼休み。

 速攻で屋上に逃げた優雄は、何故か薫と弁当をつついていた。

「美味しいですか? ユウ様のために腕によりをかけて作りました」

 そう言って差し出された弁当をパクつく。

 最初、貰ういわれもないので断ろうとしたが、彼女が悲しそうな顔をするので仕方なく食べているのだ。

「・・・あのさ、何で俺にまとわりつくの? 俺、君と会った覚え、ないし・・・」

 なにせ短い休み時間の度に優雄に声をかけてはひっついてくるのだ。男子が声をかけてもつれなく返事をするだけで、おかげで優雄は今まで以上にクラスメイト達に睨まれるようになってしまった。


 この分では無視されるどころか、もっと酷いいじめに・・・


「会ってますよ」

 暗い思考に陥りそうになっていた優雄は、彼女のあっさりとした言葉にハッとした。

「ユウ様は私を助けてくださいました。命の恩人なんです。だからこうしてまた会う事が出来て、とても嬉しいんです」

「・・・・・・」

 本当に心から嬉しそうに言われて、反論できない。

「私はユウ様のお傍にいられればそれだけで幸せです」


 人違いじゃなかろうか。


 そう思った優雄だったが、彼女は確信を持って言っているらしく満面の笑顔だ。

「・・・さっきから気になってたんだけど、その『ユウ様』ってのやめてくれないかな。俺の名前は優雄だよ。近藤優雄」

 他の人からは名前の漢字の読み方を間違われる事が多く、『まさかず』と読める人はあまりいない。優秀の優なのだから、『ゆう某』だろうと思ってそう呼んでいるのだろうか。

「優雄様ですね。ではこれからはそうお呼びします」


 ・・・あっさり返された。


 やはり人違いだろう。こっちから言っても信じないようだし、彼女が人違いに気付くまで付き合ってみようか。

 そう思った優雄だったが、彼女の次の発言にはさすがに引きそうになってしまった。

「魔法で身体を大きくした甲斐がありました」

「・・・は?」

 本日二度目の間抜けな声。

 だが彼女は気にせず続ける。

「優雄様はお忘れでしょうが、私の本来の姿は花の妖精です」

「・・・へ?」

「あ、他には誰も見ていない事ですし、お見せしましょう」

 そう言って、唖然としている優雄をおいていそいそと立ち上がる。

「解除」

 一言そう呟いたかと思うと、薫の身体が光りはじめた。正視出来ないほどの光を放つ薫に、優雄は手で眼をかばう。

「優雄様!」

 しばらくして聞こえた、先程より幾分高くなった気がする声に、ゆっくり手をどけると・・・

 そこには手のひらに収まるほど小さい薫がいた。背中には虹のように綺麗な色合いの羽が生えている。

「本名はローズと申します」

 まさに花の妖精と呼べる姿の薫が、ニッコリと笑いかけてくる。

 だが優雄は返事をするどころではない。

 別にファンタジー好きでもなければ空想家でもない優雄は、目の前の事実についていけなくなった。つまり・・・現実逃避をした。

「優雄様!? 優雄様!!」

 悲鳴のような薫の声を聞きつつ、優雄は失神した。

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