④死神が遺した「最後の契約」
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
ひとときの語らいをよろしくお願いします。
お付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
カインが病を隠し通せなくなってから数ヶ月。
オーレリアは5年間で築き上げた財産も権力も、すべてカインの治療に注ぎ込もうとしました。
しかしカインはそれを静かに拒みます。
「オーレリア……私の命にこれ以上『銭』を費やしてはいけない。私の身体はもたないし、この資産は新しい国の為、自由に生きるための翼なんだよ」
そう言うと、彼はある男を呼び寄せました。
隣国の公爵家次男にして、Sランク冒険者、キースです。
少しづつ痩せ細っていく体で、カインはオーレリアの手を取り、不敵に笑うキースに彼女を引き合わせました。
「オーレリア、紹介しよう。私の旧友であり、この世界で最も『法』や『権力』が通用しない男、キースだ。……彼には君の護衛と、……隣国への亡命の手助けを依頼したんだ」
長年仕えていた王族の性格を把握しているカインは、ある懸念がありました。
(私が死ねばたぶん王族は、必ず君を『国庫を空にした大罪人』に仕立て上げ、その身を拘束する。奴らは卑怯だ。君を守るには、軍隊すら突破できるこの男の『武』と、隣国の公族という『盾』が役に立つ。……たぶん私が君に遺せる……、最後の手配になるだろう)
考えた末にカインは、自分が死ぬ前にオーレリアを国から逃がす為に、あまりにも残酷な策を彼女に命じました。
それは、「オーレリアの浮気を理由にした離縁」という狂言です。
「君は『不実な悪女』として、この私を捨ててキースと逃げるんだ。そうすれば私が死んだ後は、『夫を捨てた冷酷な女』として蔑まれるだけで済む。……君が王族の逆恨みを一身に受け殺されるより、いや……私のように使い潰されることだけは、耐えられないんだよ」
カイン亡き後、代わりの人間を絶対必要とする王族は、拘束理由も手前勝手で理不尽な言い分に違いありません。
しかしオーレリアは人生で初めて、理屈なき拒絶をし激しく首を横に振りました。
「イヤです。そんな……! 私は最後まであなたの隣にいたいのです!」
カインは彼女を優しく抱き寄せ言いました。
「オーレリア、君のその温かな情こそが……、この5年間は私の人生で得た最高の純利益だったよ。だからこそ最後は、……笑って私の計算に従ってくれないか」
愛してる夫の最後の願いを、拒むことなど、……出来るはずもないのです。
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「殿下たちの目が光っていますわ。もっと……愛おしそうに私を見つめて」
オーレリアは艶然と微笑み、カインへの罪悪感を胸に秘め、キースの胸板にその身を預けます。
キースもまた、……野性味溢れる手つきで彼女の腰を引き寄せ、追手に見せつけるように深く、狂おしい恋人たちの影を壁に刻みました。
カインの計略通り、二人は「不実な逃避行」を演じるため、街道沿いの宿でわざとらしく親密な空気を作ります。
しかし一歩部屋に入れば、そこにあるのは静かな戦略会議です。
オーレリアがカインから託された暗号表を読み解き、凄まじい速さで隣国への送金指示をまとめます。
「……なあ、大将。あんた、さっきから帳簿の暗算ばっかりしてるが、その計算の速さ……どう考えてもこの世界の令嬢の域を超えてるぜ。なんでだ?」
オーレリアの手が止まりました。
彼女は不思議な目でキースを見つめます。
「……この世界? 妙な言葉を使いますわね。カイン様も言われて、……まるで別の世界を知っているようだわ。ちなみに私も失われた『京』の再建を夢見た一人の女だった事がありますわ」
「京……? おいおい、まさか……」
「あんた、日本人か? 」
「……あら?私は文明二年の戦を、そして義政様の不甲斐なさを、嘆きながら死んだ日野家の娘でした」
キースは吹き出しそうになるのをこらえきれず、高らかに口笛を吹きました。
「はっ! 日野富子かよ! 日本史に残る『稀代の悪女』、銭ゲバの権化じゃねえか。いやぁ、こりゃ傑作だ!ついでに俺は前田慶次利益ってヤツだ」
「マエダ……ケイジ? 誰ですのそれは?」
「あんたが死んでから百年ほど経った後の世で、傾き通して死んだ男さ」
私が死んだ後の世に、そんな名があったと? でもそんな事より『悪女』と言いましたわね。
「訂正なさい。私はただ無能な男たちに代わって財布の紐を握っていただけですわ!」
キースは腹を抱えて笑いながら、面白がって「その後」の歴史を語り始めます。
「いいか大将、あんたの後の世はひどいもんだぜ。応仁の乱のせいで京は焼け野原。あんたは民に重税を課して私腹を肥やしたって、後の世じゃ書物に載るレベルの有名人だ。俺ら戦国武将からすりゃ、あんたは戦国時代を作った『元凶』みたいなもんだぜ」
オーレリア――富子の額に青筋が浮かびます。
「……元凶?!お黙りなさい!この無骨者がぁ! 私がいなければ誰が朝廷を、京を支えたと思っているのです!」
富子としての自尊心が爆発し、オーレリアは扇子を机に叩きつけました。
しかしキースは驚くどころか、楽しそうに口笛を吹きます。
「ははっ! 本性出したな! いやあ、驚いた。まさかあの『室町の怪物』と道連れになるとは。……だが待てよ。あんたが死んでから百年後に俺が生まれたってことは、魂の順序で言えば、あんたは俺のひいひい婆さんより年上ってことか」
キースはニヤリと笑い、わざとらしく彼女の顔を覗き込みました。
「こりゃ驚いた。見た目はピチピチの令嬢だが、中身は俺よりとんでもねえババアだったわけだ。道理で可愛げがねえはずだぜ」
「ば、ババア……!?」
オーレリアは立ち上がり、キースの胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄りました。
「この傾奇者が! 私は今、二十一歳の最も美しい盛りですわ! 前世がどうだか知りませんが、年季の話をするなら、あんたより私の方がよほど格上です! 礼儀をわきまえなさい! 次にそんな口を叩いたら、あんたの隣国での活動資金をすべて凍結して、一文無しで野垂れ死にさせてあげますわよ!」
「おっと、銭を武器に脅すたぁ、さすが本物だ。怖い怖い」
キースは肩をすくめましたが、その瞳には奇妙な親近感が宿っていました。
「だがな、大将。……カインの奴、あんたのその『本性』を分かってて、俺を呼んだんだろうな。あいつ、あんたがただの女じゃねえことを見抜いて、その上で命を預けたんだ。……粋なことをしやがる」
オーレリアはカインの名を出されて、ふっと毒気を抜かれたように座り込みました。
「……あの人は私がどれほど計算高く、恐ろしい女であっても、『それが君だ』と笑ってくれましたわ」
「そうだろうよ。あんたがどれだけババアだろうが悪女だろうが、あいつにとっては守り抜くべき価値ある最高の女なんだ。……ま、俺もあんたが『歴史上の怪物』だと分かって、面白くなってきたぜ」
二人は再び、窓の外から見える「監視の目」に向けて、親密そうに影を重ね「浮気のフリ」を再開しました。
しかしその内実はお互いの素性を知った「戦友」として、奇妙に明るい信頼に変わっていました。
「行きましょう、キース殿。隣国で私が銭を回し、あなたが『武』を振るえば、室町も戦国も超えた新しい『天下』が作れますわ」
「おうよ、大将。……でもよぉ、やっぱりババアは……」
「お黙りなさい!!」
離縁の手続きが進む中、王都には「宰相夫人が派手な冒険者と恋に落ち、病の夫を見捨てた」という噂が、オーレリア自身の商網によって広められました。
宿場町の一室では監視の目を欺くため、キースはオーレリアの肩を抱き寄せ、睦まじい恋人たちのように窓辺へ影を落とした。
「……いつまで触れていますの、この傾奇者が」
「へっ、大将こそ、その銭ゲバな計算を止めたらどうだ。日野富子様よ!」
互いの口から漏れた「前世」の名に、二人は息を呑んで硬直します。
窓の外からは熱烈な抱擁に見えたであろうその瞬間、室町と戦国の怪物が時空を超えて衝突していました。
21歳の春……。
離縁状に署名を終え隣国へ旅立つ予定のオーレリアは、病床のカインの元へ密かに訪れます。
「……行きますわ。あなたが望む通り、私は世界一の悪女になってみせます!」
「ああ……。行ってらっしゃい、オーレリア。君が笑う度に、どこかで金貨が鳴るよ。その音を聞きながら、私は眠りにつくからね」
オーレリアは微笑むと、振り返らず部屋を出て行きました。
キースはその背中を見守りつつ、カインにだけ聞こえる声で呟きました。
「……あんたも大した傾奇者だぜ。あの大将は、俺が責任持って『自由』ってやつを教えてやるよ」
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隣国の商業ギルドから、かつてない速さで頭角を現していたオーレリアの元に、カインの訃報が届いたのはそれから半年後のことでした。
彼女は執務室で一人、カインの万年筆を握りしめます。
それと同時に彼女が仕掛けていた「最後の策」が発動したのです。
カインの死をもって、王家の債権が「隣国のオーレリア」へと譲渡され、王宮は文字通り、パン一つ、蝋燭一本すら自前で用意できない「空の城」へと成り果てたのです。
(……カイン様。私はあなたの願い通り、自由を手に入れました。そしてあなたを苦しめたあの国から、すべてを奪い去りましたわ。……計算は完璧に成り立ちましたわ)
隣国の草原を、キースと共に旅するオーレリア。
キースが「なあ、大将。そんな古いペン、いつまで持ってんだ?」と笑いかけます。
オーレリアは、カインがかつて自分を見つめてくれたような穏やかな微笑みを浮かべました。
「これは私の人生で唯一、合わなかった計算の『記念』ですわ」
16歳から21歳までの、たった5年間……。
それは稀代の『経済怪物』日野富子が、一人の誠実な男と慈しみの愛を交わすした、永遠に色褪せない記憶となった物語です。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




