②薄い氷の上で
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときの語らいをよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
二人の生活が始まってから、その「差」は残酷なまでに広がっていきました。
オーレリアとカインが静寂の中で絆を深める一方、リュカとリリアは自分たちが何から目を逸らしているのか、まったく気づかずにいたのです。
リュカ王子にとって、オーレリアを追い出したことは「人生最大の偉業」でした。
(ああ、清々した! あの女がいなくなってから、小難しい予算の話を聞かなくて済む。リリアが『王子様、素敵!』と言ってくれるだけで、僕は本当の意味で王子になれた気がするんだ。カインも今頃……、氷のような女に家庭を凍らされて、震えているんじゃないか。泣きつきたい気分だろうな。ざまあみろ!)
彼はリリアを喜ばせるためだけに、王宮の宝物庫を開け放ちました。
リリアは今まで見たこともない輝きに目を輝かせています。
(見て! このドレス、この宝石! 全部私のもの。オーレリア様、あなたは死神さんとお通夜みたいな生活をしてるんでしょう? でも私は、こうして王子様に愛されて、毎日お祭りのような気分よ。真実の愛があれば、魔法みたいにお金だって湧いてくるのね!)
彼女は自分が着ているドレス一着が、国境を守る兵士数百人の給料と同じであることを、知ろうともしません。
一方、宰相邸の空気は、王子たちの想像とは全く異なるものでした。
ある夜、オーレリアは山積みの書類を捌くカインの隣で、静かに筆を走らせていました。
カインがふと、疲れからこめかみを押さえていると、温かなお茶を入れて差し上げます。
「……無理は禁物ですわ、カイン様。この案件は私が裏から手を回して、商人に『貸し』を作っておきました。明日には、あちらから泣きついてきますわ」
カインは驚き、そして心底愛おしそうに彼女を見つめました。
(死神と呼ばれた私の人生に、まさかこんな光景が訪れるとは……。彼女は私の負担を減らすだけでなく、私の孤独さえも救ってくれた。王家は彼女を捨てたつもりだろうが、皮肉なことだな。彼女こそが、この国に残された最後の宝石だというのに……)
カインはオーレリアの細く繊細な手に、自らの手を重ねました。
「ありがとう、オーレリア。君がいてくれるおかげで、私は初めて『国』ではなく『家族』のために生きたいと思えるようになったよ」
(フフッ、もうこの人は本当に……。義政様のように美に逃げることも、リュカのように愛に溺れることもない。ただ目の前の現実を、私と共に立ち向かってくれる。……ああ、銭を数える音よりも、この人の穏やかな寝息の方が、ずっと私の心を潤してくれるなんて……)
国王はカインから送られてくる「何の問題もありません」という簡潔な報告書を鵜呑みにしていました。
「カインのやつは、オーレリアを完璧に手懐けている。リュカもリリアと仲睦まじいし、この国は安泰だな!」
しかしオーレリアの父(公爵)だけは、定期的に娘から届く暗号混じりの手紙を読みながら、静かにワインを傾けていました。
(……娘よ、そこまでやるか。王宮の物流ルートの8割が、すでに宰相邸を経由するとは……。リュカ殿下たちが食べているパンも、着ている絹も、もはやオーレリアの指先一つで止められのか。王家は自分たちの首にかけられた紐を気づかず、自らいまだ締め続けているんだな)
公爵は王家の没落は「時間の問題」であることを確信し、自領の防衛と経済の切り離しを密かに命じました。
5年が経とうとする頃……。
リュカとリリアはなぜか最近、王宮の食卓が少しずつ質素になっている事に気づき始めていました。
「ねえ、王子様。最近お肉が少し硬くないかしら? それに……、新しいドレスの仕立て屋さんも、なかなか来てくれないの」
「……ああ、カインが予算の調整に手間取っているんだろう。気にするな、リリア。明日にでも僕がガツンと言ってやる」
王子はまだ自分の足元の大地が、すでに「オーレリアの私物」にすり替わっていることに、微塵も気づいていなかったのです。
どうでしょう?自分たちはなにもせず、ただ楽しい思いをするばかり……。
少しは考えないといけません、世の中そんな甘くはないのです。
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公爵である私は、書斎の窓から王都の喧騒を眺め、娘から届いた一通の手紙を火にくべた。
灰になる言葉の端々から、娘――オーレリアがこの5年間、宰相邸の奥でどのような「差配」を行ってきたのか……、その恐るべき全貌が脳裏に浮かぶ。
リュカ王子やリリアのような感情で物事が動く子供たちには、到底理解できまい。
オーレリアが行ったのは、剣や毒による暗殺ではなく、「国の血流(カネと物)」の挿げ替えだったのだ。
★オーレリアが最初に着手したのは、王宮に届く食糧の流通経路の再編だった。
彼女は公爵家の影響力と、宰相の決済権を使い、王宮専属の出入り業者を、彼女が密かに設立した「中継商会」の下請けに作り替えたのだ。
「リュカ殿下が口にしている最高級の小麦も肉も、すべて娘が運営する商会を通らねば王宮へは届かぬ。彼女が『検品に時間がかかる』と一言命じるだけで、王族の食卓は一夜にして干からびるというわけか」
★無能な王と王子は、贅沢を続けるために次々と「特別税」を課そうとした。
オーレリアはそれを止めなかった。むしろ、カイン宰相を通じて「より効率的な集金方法」として、「特定の関所の徴税権を一時的に民間に売却する」案を提示した。
「目先の現金に目が眩んだ王族は、関所の権利を二束三文で売却した。それを買ったのは娘が裏で操る豪商たちだ。結果、国中の関所の通行料は娘の懐に入り、王家には『一度きりの端金』しか残らなかった」
★オーレリアは、王子の耳に届く報告を徹底的に選別した。不都合な経済指標や民衆の不満は、彼女のところで「問題なし」と書き換えられる。
「リュカ殿下は『カインが上手くやっている』と信じているが実情は逆だ。殿下の浪費を一切止めず、むしろ『お似合いですわ』と高価な品を工面して、彼の破滅を加速させている。オーレリアは、金に溺れた者をさらに溺らせ浮き上がれないようにしている」
★一番恐ろしいのがこの策だ。
彼女は隣国の通貨を王領内に流通させ、王家が発行する通貨の価値を相対的に下落させた。
「今では商人が王家の金貨を使うより、オーレリアが保証する隣国の貨幣や預かり証を信頼している。王家の金庫に積まれた金貨は、実質的購買力を失った『ただの光るコイン』になりつつある」
窓の外を眺めれば、華やかな馬車が王宮へと吸い込まれていた。だが私には、その馬車の車輪も、馬の蹄鉄も、御者の給料も、すべてがオーレリアという巨大な蜘蛛が張り巡らせた「糸」に、絡め囚われているのが見える。
「……カイン殿も、よもやこれほどとは思うまい」
娘は「死神」と呼ばれた男を愛し、その男を守るために、国という名の巨大な城の土台を、ひっそりと薄い氷に置き換えてしまった。
そして今……、娘からの手紙にはこう記されていた。
『お父様、冬が来ましたわ。氷が割れる音まで、あと僅かです』
私は静かにワインを飲み干した。
無能な王族たちが、自分たちの立つ地面が消えたことに気づいた時、娘はもうここにはいないだろう。
隣国の「風」を呼び寄せ、新しい大地へ飛び立つ準備を、もう終えているのだから……。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




