① 目覚めました。
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
ひとときの語らいをよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
きらびやかなシャンデリアが輝く卒業パーティーの夜……。それはオーレリアにとって『魂の回帰』なる儀式の場になりました。
王子リュカは震えるリリアの肩を抱き、オーレリアを指差し「婚約破棄」を叫びました。
その瞬間!!オーレリアの脳内には耐え難いほどの「怒り」に支配されます。
ただし、王子の不実に対してではありません。
(……またか。またコレか……。私は、この光景にウンザリだ)
脳裏をよぎる燃え盛る京の街……、無能な夫が趣味にふける背中……。
前世の記憶が、数百年分の憤怒と共に濁流となって押し寄せてきます。
かつての夫、足利義政が政治を放り出し、庭造りや美という芸術へと逃げ、必死に銭をやりくりしては、知らず知らずに使われていくあの虚しさ……。
目の前に立つ王子リュカを視野に入れた瞬間、……ピタリと重なりました。
(ああ、くだらない!男という生き物は、なぜ女が泥水を啜って守り抜いた家を、こうも簡単に「愛」だの「理想」だのという綺麗事で踏みにじるのか)
怒りは一瞬で冷却され、彼女の瞳は深淵のような無表情へと変わります。
彼女は王子を「婚約者」としてではなく、「家の資産を食いつぶす害悪」として再定義しました。
リュカ王子は、彼女の無言を「ショックによる絶望」と信じ込み、歪んだ悦びに浸ります。
(勝った! いつも帳簿や義務の話ばかりするこの女を、ついに踏みにじったぞ。これからはリリアと、何の制約もない自由な愛の世界を築くんだ)
彼はトドメを刺すように、この国で最も「呪われた結婚」を命じます。
「オーレリア、貴様には『死神』の異名を持つ、あの宰相カインへの嫁入りを命じる。一生、暗い書斎で書類の山に埋もれて死ぬがいい。お前の大好きな書類に埋もれて幸せだろう」
カイン宰相。
独身で私生活のすべてを国務に捧げ、そのあまりの冷徹さと陰鬱な様から「死神」と恐れられる男です。リュカにとってはオーレリアへの最大級の嫌がらせのつもりでした。
会場の隅でその宣告を聞いていた宰相カインは、深いため息をつきました。
(……また『ゴミ捨て場』のように人が送られてくる。若く美しい令嬢が、私のような男の元へ嫁がせるとは……。不憫とは思うが、構ってやる時間も余裕などもない)
王子がどれほどこの国の「屋台骨」を壊しているか、……態度を見る限り全く理解していない。
自分だけが支えている重圧に、カインはそろそろ限界を感じていました。
王族を、いや、王都に住まう貴族共の享楽と享栄心にもうんざりしてたのです。
彼にとってオーレリアは、自分をさらに疲弊させる人物でしかありませんでした。
王子に抱き寄せられたリリアは、潤んだ瞳でオーレリアを見下ろしていました。
(かわいそうに……。でも仕方ないの。愛されないあなたは、こうなる運命だった。私は王子様に愛されている。この国で一番幸せになれる理由は、ただそれだけでいいの)
彼女にとって、オーレリアがこれから行く「宰相の家」が、どれほど冷たく厳しい場所か想像することもできません。
ただ……、自分たちの「真実の愛」の踏み台になった悪女の末路としては、最高に満足だったのです。
周囲の嘲笑を柳に風と流し、オーレリアは静かにカイン宰相の前まで歩み寄りました。
怯えるどころか、彼女はカインのやつれた頬と、その奥にある「孤独な魂」をじっと見つめます。
(……ああ、この方は!……かつての私だわ。……たった一人で責務を背負っていた、あの孤独な色をしているわ)
オーレリアは優雅にドレスの裾を持ち上げ、カインにだけ聞こえる声で囁きました。
「……宰相様。私を娶ったことを後悔させませんわ。今夜からはもう、お一人で戦う必要はございません」
それは愛の告白などではありません。
「戦友」としてそばにいる契りの言葉でした。
カインは驚きに目を見開き、顔を上げます。
初めて自分の心に、誰かが踏み込んできた感覚に驚いたのです。
王子たちが華やかな音楽のたもとで踊り始める中、カインはスッと手を差し述べました。
痩せてはいるが温かな手を迷いなく取るオーレリア、二人は静かに夜の闇へと消えていきました。
それがオーレリアという「淡い恋」を捨て、「日本という国」を掌握した日野富子の再来を告げる門出でした。
この夜……、宰相邸に辿り着いた二人が一杯の茶を飲みながら、最初に交わした会話が何だったのか。
ただ……、そこから始まる穏やかな新婚生活をご覧になりますか?
夜の静寂が包む宰相邸。
冷え切った執務室で、オーレリアとカインは初めて二人きりで見つめ合いました。
宰相邸での初夜は、カインの疲労困憊の体をオーレリアが椅子に促すから始まりました。
新婚の夜に相応しい甘い言葉はなく、カイン自身に言葉が浮かばないからです。
「……申し訳ない、オーレリア嬢。殿下の嫌がらせで、私のような男を宛てがわせるとは、本当に申し訳なく思う。私には君を愛してやる心の余裕もなく、着飾らせてやる暇もない。私はこの国の『穴』を必死に埋めるだけの男なのだ」
カインが自嘲しながら淹れたお茶は、少しぬるく渋い味がしました。
しかしオーレリアはその茶を一口飲み、ふっと微笑みました。
「……いいえ、宰相様。ぬるい茶も、書類の山も、私には懐かしいものですわ」
彼女は立ち上がり、机の上に積まれた帳簿の一冊を手に取りました。
「この国の数字……悲鳴を上げていますわね。あなたが一人で支えてこられた重荷を、私に預けてはいただけませんか? 私は愛を囁かれるよりも、帳簿の数字がピタリと合う快感の方が好ましいのです」
カインは息を呑みました。
彼女の瞳には、令嬢たち持つ特有の虚栄心などではなく、自分と同じ戦う者の輝きでした。
「君は……本気で言っているのか?」
「ええ、今日からここが!私たちの戦場ですわ」
その夜……、二人は枕を並べ共寝する代わりに、ランプの灯りの下で肩を並べ、朝まで国の「絶望的な予算案」を読み解きました。
カインにとってそれは、人生で初めて孤独が消えた瞬間でした。
翌朝、報告を受けた国王は、玉座でふんぞり返って大きく頷きました。
「ほう、あの不気味な娘をカインに? 素晴らしい案だ! カインならあの女を大人しくさせておけるだろう」
国王にとってオーレリアは「王家の予算に細かく口出しをする小姑」のような存在でした。
彼女を王政の心臓部である宰相に丸投げすれば、すべてが丸く収まると信じたのです。
「カインには『その女の扱いを含め、全権を任せる』と伝えておけ。わしはいろいろと忙しいからな!」
国王は自分が国の「手網の鍵」を、激怒した怪物に手渡したことに気づいていません。
一方でオーレリアの父である公爵は、娘の婚約破棄を聞いて拳を握り締めましたが、嫁ぎ先がカインだと聞いた瞬間、ふっと表情を緩めました。
「……そうか。リュカ殿下ではなく、カイン殿か」
彼は王子リュカの浅はかさと、リリアという娘の危うさを冷静に分析していました。
「王子に嫁げば、娘は一生あの無能な男の尻拭いをし、最後に共に滅びればいい方だ。むしろ散々泥まみれにして捨てるだろう」
窓の景色はきれいな青空が広がっているが、実情その下の景色は歪でくすみが酷い……。
「……カイン殿は違う。あの男は泥を被ってでも国を支える誠実な男だ。オーレリアも、あのような誠実な男の隣こそ、本来の力を発揮するだろう」
彼は娘へ一通の短い手紙と、莫大な「支度金(という名の軍資金)」を送りました。
『オーレリア、好きなようにやりなさい。王家に貸しを作る必要はない。中途半端はいけないよ』
オーレリアとカインの不思議な生活が始まりました。
二人の間に若々しい情熱はありません。
しかし朝食を共に摂りながら「昨夜の徴税権の件ですが」と相談し、夕食後にはカインがオーレリアの肩を揉みながら「今日も助かった、ありがとう」と労い合う。
オーレリアは前世で義政に決して言えなかった。そして言ってもらえなかった言葉を、このカインという男との日々に積み重ねていきました。
「あなた、明日は少しだけ早く帰りましょう。新しい茶葉が手に入りましたの」
「ああ……。君が淹れてくれる茶は、不思議と疲れが取れるよ」
表向きは死神に嫁いだ哀れで愚かな令嬢……。
しかしその内実は、国家という名の盤上を静かに支配しながら慈しみ合い、世界で最も「強い」夫婦が完成しつつありました。
さて……、この穏やかな5年間の裏で、王子たちが「順調に」借金を積み上げ、オーレリアの足元に跪く準備を整えていく様子をご覧になりたいですか?
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




