母を好き過ぎてバグった父上、断罪の場で未来息子に溺愛を暴露される
※本作は単独でもお読みいただけます。
「リディーナ!
お前との婚約を破棄する!」
橙がかった茶髪の第二王子ハイレスが、唐突に叫んだ。
「お前といても退屈だ。
いつも泣きそうな顔で、すぐ落ち込む。
王子妃になれるとは思えない!」
一息も置かず、隣を示す。
「このマリアナの方がよっぽど相応しい!」
名を呼ばれた令嬢は、びくりと肩を震わせ、
戸惑った表情でリディーナを見た。
……え?
リディーナは金髪を揺らし、呆然と立ち尽くす。
どういうこと?
混乱しているのは、こっちなのに。
――けれど、それ以上に。
彼は、いつもこうだ。
なぜか自分を落とす言葉しか言わない。
「……っ」
ハイレスが、痺れを切らしたように声を荒げる。
「――何か言うことはないのか?!リディーナ!」
何を言えばいいの。
私、何もしていないのに。
さらに困惑し、言葉を失った瞬間。
藤色の瞳が、涙に濡れ――
「その婚約破棄、待ったーー!!」
声と同時に、光が弾けた。
大広間の中央に、
金茶の髪の少年が――すとん、と降り立つ。
「僕は、ハイレス父上と
リディーナ母上の子、レリオです!!」
場が、凍りつく。
「重大な報告があって来ました!
僕の娘――あなた方の孫は、
将来、世界を救う聖女になります!!」
どよめきが走る。
「……けど!」
レリオは、きっぱりと言い切った。
「父上があまりにも誤解されやすい性格のせいで、
僕と彼女の生存率が、まったく安定してません!!」
「母上!」
びしっ、と指が向けられる。
「父上は口は最悪ですけど、
母上を本当に愛しています!!」
息を吸い、
「母上が社交界で悪口を言われた時、
裏で全部収めたのも父上です!」
「母上の好きな香りを、
そっと侍女に託したのも父上です!」
「母上がつつがなく暮らせるよう、
誰よりも配慮してるんですよ?!」
「……口が、
全部台無しにしてるだけで!!」
ハイレス、呆然。
リディーナも、思わず目を見開いた。
「……お、お前、何を――」
「父上!!いい加減にしてください!!」
レリオは一歩も引かない。
「歳上の娘が世界の危機とか言って
突然現れた僕の気持ち、考えられます?!」
「父上のせいで、
聖女が生まれなくなるかもしれないんですよ!!」
そして、びしっと隣を指す。
「この婚約破棄だって!
母上の気持ちが知りたくて、
無理にその令嬢に頼んだんじゃないですか!?」
マリアナ、青ざめる。
ハイレス、絶句。
レリオは、くるりとリディーナへ向き直った。
「母上!
どうか父上の言葉に惑わされないでください!
あれは一生治りません!」
「右耳が赤い時は、
思ってることの正反対を言ってますから!
行動!行動だけ見て!!」
「そうすれば、
どれだけ母上を愛してるか、分かります!」
「――っ!」
ハイレスがリディーナを見て叫ぶ。
「か、勘違いするな!!
俺はお前のことなんて、なんとも思ってない!!」
「……ほら!」
レリオが即座に指を突き出す。
「右耳赤い!!
母上、これ嘘ですから!!」
真っ赤になって、ハイレスは押し黙る。
次の瞬間、ぎろりと睨む。
「お前、余計なことばかり言うな!
何様のつもりだ?!」
「だから!
あなたの息子様です!!」
間髪入れず、
「ちゃんと結婚してくださいね、父上!
あなたの孫が聖女になるんですから、
いい加減、しっかりしてください!!」
光が、再び満ちる。
「それでは僕はこれで失礼します!
未来のために、頑張ってくださいね、父上、母上!」
そう言い残し、
レリオの姿は光に包まれて――消えた。
周囲は、ただ呆然と立ち尽くす。
静まり返った大広間で。
リディーナは、
――思わず、ハイレスの右耳を見つめていた。
「……っ」
ハイレスは、ばつが悪そうに耳を押さえる。
「見るな……くそっ」
真っ赤になったまま、視線を逸らす。
ざわめきが、ゆっくりと戻ってくる。
けれど。
二人を包む空気だけは、
確かに――
少しだけ、変わっていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は、別のお話を
再来週金曜の21時ごろに投稿予定です。
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