4、「レテル」は寂しい
「『アリス』が出来そうな不思議な事をイメージして!」
「俺の知ってるアリスは戦ったりしねぇよ!?」
一つの体で言い争いを始める俺とアリス。「ワンダー」した後の能力について知らない事が多すぎる。然しこの状況を解決するには武器があったら便利だとも思う。俺は半ばヤケクソ気味にお菓子を握りしめて念じた。するとどうだろうか、お菓子はみるみる内に形を変えて立派な剣に変わったのだ。
「すごっ!アリスすごっ!」
「アリスだって戦えるのです!」
押し寄せてくる影を剣で薙ぎ払っていく。そして到頭、影は居なくなり三人の少女が睨み合う事になった。
「私たちのデートを邪魔した罪は重いわよ?」
名前の知らないゴスロリ少女に対し拳を振るおうとするメイジ。その少女も諦めてしまったのか、目を瞑って殴られる覚悟を決めていた。どんな人にもそれなりの理由はあるはずだ、俺はメイジを抑えてから少女と目線を合わせる。
「私は『青空アリス』 あなたは?」
「…『雷那レテル』」
思ったよりかっこいい名前に少し表情がニヤけた。ワンダー後の姿は自分で名付けていると思うが、それにしても見た目にそぐわない名前だと思ってしまった。
「笑ったでしょ!お兄ちゃんが付けた名前を馬鹿にしないで!」
「レテル」の発言に「お兄ちゃん」とよく出てくるがそれらしき人物は周りを見渡しても居ない。ガンを飛ばすメイジをあやしながら、その「お兄ちゃん」の事を聞き出すのに言葉を考えた。
「お兄ちゃんは今どこに?」
考えた挙句ストレートに聞いてしまった気がする。一粒冷や汗を垂らしながら少女の反応を伺ったが、やがて俯いたまま話し始めた。
「私が信じたものは…全部お兄ちゃんだもん…」
仮面を外すと大きく見た目の変わらない、可愛らしい少女に変化した。敵意はもう無いと察して俺とメイジも仮面は外す。
「えっ男!?オカマ!?」
絶対に言われたく無いことを言われた。俺の代わりにシュクが少女の頬を叩いた。まぁワンダー状態で殴られるよりはマシだろう。少女は叩かれた頬を摩りながらも冷静に口を開く。
「ごめんなさい驚いちゃって 私は『グレーテル』よ」
聞いたことのある名前。確か童話「お菓子の家」の主人公がそんな名前だったような。
「じゃあお兄ちゃんは『ヘンゼル』だね ヘンゼルはどこに?」
叩いた前も後も表情を崩さず会話しようとするシュク。
「…死んだわ」
しまった、思えばその可能性もあったのに当人から言わせてしまった。もう少しやり方があっただろうと重くなった空気に後悔する。
「ママとパパは私の事を愛してくれていたの でもお兄ちゃんは愛していなかったみたい 私優先でお兄ちゃんを蔑ろにしてたママとパパも悪かったのよ」
衝撃の家庭事情に集中して耳を澄ませる俺。シュクは飽きたのかスマホを見ていた。
「お家に帰るといつも出迎えてくれるママとパパが来なくて…リビングに行ったら…お兄ちゃんが…ママとパパを…」
「分かった!もう分かったから!悪かったそんな話させて!」
重すぎる事情の説明に耐えかねて、無理やり話を静止してしまった。
「…私にもナイフを向けて来たわ でも私はお兄ちゃんを愛していた それはお兄ちゃんもだったと思う お兄ちゃんはナイフを自分の首に当てて…泣きながら切っていったわ」
静止したにも関わらず聞きたくない続きを聞いてしまい落ち込む俺。話し終えたと共に泣き始める少女。どうやって収拾をつけようか…。
「ハンスが代わりに『お兄ちゃん』やってあげたら?」
興味が無さそうだったシュクから飛躍した提案された。いや無理があるだろうと突っ込もうとすると先にシュクが続く。
「両親も兄も居なくなって寂しいんでしょ ハンスがお兄ちゃんやってあげればこの子は満足するんじゃない?」
えぇ…それでいいのか?
「…いいかも」
いいんだ。いやまさか俺に拒否権ないのかこれ。
「じゃあこれからよろしくね…ハンスお兄様?」
考える暇も無く次々に話がまとまっていく。
「シュクはいいのか!?俺に妹が出来ても!?」
「僕はカノジョだもん その関係に入って来なければいいと思うよ」
「いつから彼女になったんだ!?しかもワンダーしてなけりゃ男だろお前!?」
会話を聞いて、さっきまで泣いていたグレーテルはくすくすと笑い始める。
「楽しい人たち…寂しいのもここまでかな」
「せっかく 主様と一緒に居れたのに…」
べそをかくアリス。家に戻ったと思えば両手に花を連れているのだ。アリスの気持ちも察するよ。
「俺がコイツらを世話していれば街に変な被害が起きない筈だから…仕方ないんだ」
「「変な被害!?」」
シュクとグレーテルがハモるように言う。そりゃそうだろ知らない人からしたらただ迷惑なだけなんだから。
「今からでも街に繰り出していろんな人を不幸にしようか!」
「いいわね!お兄ちゃん増やすわ!」
「やめろって冗談だろ!」
息が統合してしまう二人。これから大変そうだと頭を抱える俺。泣き出してしまうアリスの四人だった。




