3、オカしい「お菓子」
「青空アリス」としての配信は可能な日は毎日やる。最近は雑談もリスナーからは受け入れて貰えたようで他愛の無い話をする機会が増えた。そして配信というものにはスパチャ、所謂お金を出してくれるファンも居る。俺にも少なからず出してくれる優しいファンも居るのだが…。
「毎日上限額まで入れてくれるコイツ何者だよ…」
赤い動物のアイコンを眺めながら呟く。「メイジ」という名前を見て、どこかで聞いたことがある名前だなと困惑する。配信者としてはとても嬉しい事なのだが最近の子供は何を考えているか分からない。嫌がらせの可能性もある。どうしたものか…。
「僕のスパチャ!なんで読んでくれないの!?」
後ろから、今一番会いたいけど逢いたく無い人物の声がする。振り向けば「朱色」が居た。
「何でいつも勝手に入ってくるかな!?」
「好きだから!」
諦めていなかったのか。確かに、見た目は可愛いかもしれないがコイツは「男」だ。恋愛対象には到底及ばない。俺は溜め息をつきながら彼の正面に座る。
「スパチャは嬉しいんだけどあんな額注ぎ込んでたら自分の生活がヤバいだろ?」
「お金にはあんまり困って無いんだよね」
中学生が散財する程の余裕はどうやって出来るのか。見た目が良いおかげで良くない稼ぎ方を想像する。
「まさか…」
「そう!」
嬉しそうに俺のモニターを指差すシュク。
「僕も『紅葉メイジ』として配信してるんだよね!」
あそっちか。如何わしい事では無さそうで安心したと同時に、同じ配信者としての闘争心が湧いてきた。
「なるほど つまり敵に塩送ってマウントを取ってきていると?」
「違うよ!僕はあなた様に喜んで欲しくてっ…」
熱量の込めた声を発しつつ目が潤むシュク。急に泣き出して俺はまた困惑する。
「だってぇ…好きになっちゃったんだもん…迷惑なら謝るからぁ…」
さっきまでの笑顔とは裏腹に本気で泣くシュクを見て罪悪感を感じてしまう。コイツ俺の事本気で…。
「分かったって泣くな!俺が悪かったから何でもするから!」
勢いに任せて言ってはいけないであろう言葉出てしまう。
「何でも…」
泣き止んでモジモジと考え始める。そして思いついた様に提案された。
「僕とデートしてよ!」
「デート!?…まぁそれならいいか」
危うくとんでもない要求が飛んでくるかと思いきや可愛い提案に軽く承諾してしまった。
「…私の事忘れてません?」
アリスが呟く。何か気の利いた返事を考えるやいなやシュクに手を引っ張られ家の外に連れ出されるのだった。
いろんな所を巡り歩き楽しむ様子のシュク。子守の感覚に陥る俺。6時間近くは振り回され流石に休憩がしたいと思った時に行きつけのカフェが目に入る。
「なぁちょっと休憩しないか!」
シュクに問うと笑顔で肯定してくれた。俺は本当にコイツと殴り合ったんだろうか。
席についても子供のように目を輝かせながら俺の事を見てくる。その眩しい視線をはぐらかす様に気になる事を聞いた。
「君がVtuberとして活躍してるとこ想像出来ないんだけどどういう配信してるの?」
「気になってくれて嬉しいです!」
おもむろに仮面を取り出しフードと一緒に身に付けるシュク。こんな場所で「ワンダー」をし始めたら大変な事にならないかと身構えた。
「…良いわねこの状況嫌いじゃないわ」
暴れるわけでは無いことにホッと息をつき体を楽にした。しかしワンダーしてしまうとここまで変わってしまうのかと感心してしまう。冷静に考えたら俺も女の子になっていたしアリスに体を預けてしまえば似たような事になるのだと勝手に納得する。
「寂しさを紛らわすのに配信を利用していたのよ そしたら奴隷が増えていったの」
甘いチョコのドリンクを一口飲みながら説明してくれた。この性格だとリスナーの事を奴隷って呼ぶのか、キャラには合ってるけど俺には絶対出来ないな。
「貴方も勿論見にきてくれて良いのよ?子供には少し刺激が強いかもしれないケド」
「まさか…えっちな!?」
「人に寄るけどね」
もの凄く配信が気になる。いや中学生がそんな配信してる時点で大人として止めないと。しかし一度見てみないと何とも…。悩んでいるとメイジが外に向かって指を指す。
「お客様よ 私たちで出迎えましょう」
外を見ると何やら黒い影が大量に街に紛れていた。人を襲っている個体も居て、緊急事態である事を遅れて理解する。
「何だこれ!?これもワンダー!?」
「恐らく…ね」
仮面を装着し外に出る。黒い影をどうにかしないと、しかしもし人間だとしたら暴力で解決するのはどうなのか。そんな不安を一蹴するようにメイジは得意の拳を影に振り翳した。
「これは…お菓子?」
倒れた影は大量のお菓子に変わってしまった。状況に驚きながらも人間じゃ無いなら容赦なくても大丈夫と考え、他の影に対し殴りかかってみる。
「青空アリス」になった体はかなり強化されていて一発殴るだけで影は跡形もなくお菓子と化した。
「キリが無いわね…元凶は誰かしら!」
お菓子を散らかしながら叫ぶメイジ。すると大量のお菓子を悲しそうに眺める少女が目に入る。一般人にしてはすっごいゴスロリの格好してるけどまさかこれが元凶だったりする?
「お兄ちゃん…どんどん壊されてく…」
しゃがんでいた少女は立ち上がり、怒りの見幕でこちらに振り向いた。
「許さない…許さないから!!」
声と同時に大量の影が一斉に襲いかかってきた。この物量は流石にヤバくないかと焦っているとどこからともなく声がする。
「お菓子を武器にしましょう!」
「どんな発想!?」
思わず突っ込んでしまった。




