2、「メイジ」の恋愛
変わらない部屋の隅に、ちょこんとアリスが座っていた。視線を合わせてお互いに笑うと夢じゃなかったのかと再自認し嬉しいような、忙しくなりそうな複雑な感情に支配された。
「おはようございます 私が見えているようでとても嬉しいです!」
改めて、この「アリス」は一体何者なのか。俺が産み出したもう一つの人格…にしては可愛すぎる。こんな人格を産み出したとしたら飛んだ変態野郎じゃないか、プライドが許さない。
「あの…私の事でお悩みでしたら謝ります どうか今は何も聞かず私を『妹』の様に扱ってくれませんか?」
妹だと…今まで、犬と名前も思い出せない友人たちに囲まれて生きてきた俺にそんなものが出来て良いのか。アリスの事をじっと見つめると照れる様に目を逸らす。俺の妹はこんなに可愛いわけがない、でも本人の希望を無下には出来ないし仕方なくその関係を飲み込む事にした。アリスもとても喜んでいる。
改めて今までの説明を聞こうと椅子に座る。机には三つのお茶が用意されていて、流石は俺の妹気が利いていると感謝しながら茶を啜るとアリスでは無い声が囁かれた。
「私のお茶はどうかしら?ハンスちゃん」
不意の声にお茶を吹いてしまう。そのお茶を浴びたのは、昨日戦った「メイジ」だった。
「良い挨拶じゃない 嫌いじゃないわ」
顔に付いてしまったお茶を指でなぞり、艶かしく舐める。何事かとアリスも駆けついてすぐに臨戦体制をとる。
「なんですかこの変態!」
本来俺が言うことを代弁してくれた。戦っていた時は必死だったり状況を飲み込めず混乱していたがアリスのおかげで心配は要らなそうだ。
「もしかして…やっぱり浮気!?」
心配大有りだ、弁明するのももう面倒くさいので一度フードを被った少女を見る。俺たちの漫才をクスクスと笑っていたが視線に気づき何故か顔を上に上げる。
「この娘は…あぁこの状態だから見えてしまうのね ならこうしましょう」
そう言うとフードを外し、視認の出来ない仮面を外した。するとどうだろうか。背丈は変わらない、長い髪で片目を隠した少女に姿を変えたのだ。
「えっと…ガッカリしちゃいました?こんな男の子が『ワンダー』してたなんて…」
男。とてもそうは見えない容姿だが少女の口からはハッキリとそう発言していた。そしてそもそも「ワンダー」とは何なのかをツッコむべきなのか悩んだ。
「仮面を着けて姿を変える事 それを『ワンダー』と呼んでいます その姿をある人は『仮面ワンダー』だと言いました」
アリスが俺の思考を読み解いたのか解説をしてくれる。やはり出来る妹だったし相手が男なら浮気にもならない事に安心をした。
「僕はあなたの事が気に入りました!僕と付き合ってくれませんか!」
安心させてよ。メイジだった男の子に突然告白されゆっくりとアリスの表情を伺う。般若みたいな顔してるのを確認し、この状況から脱する為必死に返事を考えた。
「えと…名前も知らない子に告白されても…俺は帆主!…って知ってるんだっけ…」
確実に間違えた、確実にグダグダになる。仕方がないのでアリスを撫でながら相手の反応を伺った。
「紹介がまだでしたね 僕は『朱色』中学生です」
「中学生だったの!?やけにしっかりしてるな」
「頼れる人が居なければ自然とこうなるのですよ…」
思いがけず地雷を踏んでしまい場が沈黙してしまう。助け船を出してくれないかアリスを見てみると撫でられたのに満足して寝てしまっている。まるで犬だな。
「そんな時にあなたに出会えた!これは運命です!どうか僕を救ってくれませんか!」
「重いって俺そんな人間出来てねぇよ!第一昨日殴りかかってきたじゃねぇかアレの理由は!?」
「それは…ごめんなさい」
素直な謝罪に肩を透かす。本当に「メイジ」と同一人物なのだろうか。
「仮面を被ると性格が変わる様でして…でもこれが無いと人見知りが…」
「でも周りまで巻き込んでたし!そもそも『夢』って何だよ!」
勢いに任せて怒鳴ってしまった。しかし他人を巻き込んでアリスに暴力を振るった事は流石に許せない。返答次第では俺も何をしでかすか分からないぞという意を込めて言ってやったのだ。朱色は涙ぐんでいる。
「ごめんなさい…また出直してきます」
フードと仮面を被り、溶けるように逃げてしまった。言い過ぎてしまった後悔で机を一発殴る。衝撃でアリスが起きてしまうと思い慌てて見たがぐっすり寝ていた。
「俺…何に巻き込まれてんだろうな」
アリスの寝顔に、呟くように聞いた。
荒れた部屋、「メイジ」は頭を抱えながら呟く。
「嫌いじゃないわ…嫌いじゃない…大好きよ ハンスちゃん」
歪んだ恋愛が始まろうとしていた。
きらきら…してないかぁ。




