(1)、夢の続き
泣き叫ぶアリスを誰も見ることは無い。誰も助けてくれない。ハンスも、周りで騒ぐ人々も、誰も。
視界に白い物が通り過ぎる。ぐしゃぐしゃの瞼を擦り、ボヤけた「それ」を見つめる。
「……ウサギ?」
白くて、真っ赤な目をしたウサギが居た。その小さな体に不恰好な仮面を背負っている。
それを追うようにもう一人の人物が現れた。その青年は、私を見つけると口を抑えて驚いたそぶりを見せる。
「…私が見えるの?」
深く被った帽子で顔がよく見えない。でもその青年は首を縦に何度も振った。
「……!」
何かを喋っている様だけど、言葉が聞き取れない。私は会話を試みた。言葉では無い仕草や動きで、何とかコミュニケーションを取った。青年も応じて必死に動く、まるでふたりきりの舞踏会だ。
ウサギが足元から「仮面」を捧げるように置いた。それを拾うと、ウサギは淡く光りながら透明になっていく。青年の方に視線を向けると、その青年も消えかけていた。
「待って……もう一人にしないで……!」
青年を抱きしめようとするも、腕は透けてしまう。また泣きそうになる私を、青年は優しく撫でてくれた。
「……キミは一人じゃない」
ハッキリと聞こえた。その言葉に顔を上げると、青年もウサギも消えていた。不思議な「仮面」だけを残して。
「……どうすればいいの」
また一人きり。また孤独。それでも、あの青年が残してくれた希望は大事にしたい。仮面を握りしめて、私は歩き始めた。粉々になった仮面の欠片を回収して、愛する人の元へもう一度向かう。
きっとあの青年は、私を愛してくれる「あの人」だったのかもしれない。




