12、もう来るなワン
ユキが悪夢から覚め「ルア」という少女が眠りにつく中、もう一人だけ夢から覚めぬ者が居た。
「ここは…?」
疑うような桃色の髪、イヌタロウは白い世界の中に居た。
「やっと起きたワン」「寝てるから起きてないワン」「ややこしいし起こしてやろうワン」
「お前達!」
三匹の白い犬たちと再びの邂逅に喜ぶ。三匹に抱きつきに行こうと近づくが…遠い。そして犬達は想像以上にデカかった。
「ご主人様ちっこいワン!」「こっちがでかいだけワン」「これが本来の姿ワン!」
一匹が俺の2倍位デカい。俺も身長低いワケじゃないんだけどな。
「変な夢…でもこうして喋れるのは素直に嬉しいよ!」
イヌタロウは純粋に感謝する。本体はそれどころじゃないというのに。
「呑気なやつワン」「初仕事めでたいワン」「ご主人!眠る直前の事覚えてるワン?」
そういえば、家に着いた記憶が無い。ハンス達と別れて楽しくなりそうな将来にスキップして帰ったんだっけ。
「ちゃんと前見ろワン」
思い出したわ。ウキウキで車に轢かれたわ。かなりの衝撃を一瞬だけ味わったわ。
「イヌタロウ死んだワン?」「じゃないとこっちに居ないワン」「間抜けワン」
「嘘だろ…おい…」
現実を受け止め膝から崩れ落ちる。一匹が俺の顔を舐めてくれた、この三匹誰が誰だっけ?
「ボクが『ウメ』ワン!耳が垂れてる所を覚えて欲しいワン!」
本当だ、耳が垂れている。撫でながら他の二匹をみると縦に伸びているのと横に伸びている耳で差別化が可能だった。
「一番耳が大きいのが長男の『マツ』ワン」「無駄に高くて目立つ『タケ』ワン!よく耳をぶつけるんだワン…」
ちゃんと特徴があることをスマホでメモる。…メモったところで死んでたら意味無くないか。
「まだ初回だしサービスするワン」「出来ればもう来ないで欲しいワン」「またカッコよく呼び出してね!ゴシュジン!」
視界が白くなっていく。そして気を失う様に、夢の中でまた夢に堕ちた。
唇に体温を感じる。…そっか、車に轢かれて死んでいた筈の俺を誰かがキスしてくれてるんだ。そんなおとぎ話の様な、ロマンティックに起こされるなんて夢にも思わなかった。
「大丈夫!?本当にゴメンナサイ!!」
…夢であってくれ。俺にキスをしたお姫様が、こんなガタイの良いおっさんなんて。
「目を開けたけどまだ起きれないようね!!もう一回…」
「うわぁ!!嫌だぁ!!!」
飛び起きて逃げる。唇を擦り切れるくらいに拭く。
「あら…元気になったのね!さっきまでグチャグチャだったのが信じられないわ!」
「グチャグチャ…冗談…」
自分の体を改めて見てみる。何故か裸だし、所々まだくっついてる最中の箇所がある。
「俺…本当に死んでたの…?」
恐怖に気を失いそうになる。でも耐えた、耐えなきゃ死ぬより恐ろしい事が待ってるから。
「幾ら急いでいたとは故アナタの様な若者の未来を奪うなんて…起きて本当に良かった…!」
俺のお姫様のおっさんは泣き始める。形はどうあれ、本気で心配はしてくれていたみたいだ。
「ワタシは『ちゅおじ』 アイドルのマネージャーをしているオカマよ」
「自分でオカマ名乗るんだ…」
つい思ったことが口に出てしまう。俺も軽い自己紹介をして、車で家まで乗せてもらう事にした。
「ビックリしたわよ 突然スキップしたアナタが飛び出してくるものだから」
「それは本当…失礼しました」
俺を轢いた本人と何でこんな親しげに会話してるんだろ。俯瞰して見ると異様が過ぎる。
「でも良いの?ワタシは警察のお世話は慣れてるのに」
「良いんです助けては貰いましたし しかも事実を説明しても困惑するだけでしょう?」
「それもそうね タマタマ車が赤くて助かったわ…血の色を誤魔化せるし」
「ひえっ…」
乾いた血は少し白い跡になって、ちょっと車がオシャレになったと喜ぶちゅおじ。着いて行けないサイコパスにドン引きしながら、仮面を被った時の犬達とその能力について考えるのだった。




