1、夢の始まり
俺には「アリス」っていう愛犬が居た。いつまでもちっこくて可愛い大好きな犬だった。
子供の頃アリスと散歩している時に信号無視の車に轢かれそうになってさ、アリスは俺を庇うように突き飛ばして死んでしまった。どうしてアリスが死ななきゃいけなかったのか、殺した奴が憎いとか暫く荒んでたっけ。大人になって流石に落ち着きはしたけど未だにアリスの事を忘れた事は無い。それほど、大好きだったんだ。
「それでは次の配信もまた見てね!おやすワンダ〜!」
配信を終えて入念に切り忘れが無いかを確認した後パソコンをシャットダウンしてやっと一息つく。ネットの中ではリスナーの皆には夢を与える「青空アリス」として可愛く振る舞うが実際はなんの変哲も無いオタク野郎なんだ。
『もし愛犬のアリスが人になって帰ってきたら』という妄想をひたすら夢見ていた結果が、自分自身で演じる事になるとは中々の笑い物だろう。
「笑いたきゃ笑えそれが俺の生き様なんだよ なぁアリス」
自分で作り出したアバターのポスターに話しかける。童話「不思議の国のアリス」からイメージした青いエプロンドレスに犬耳が生えた幼い容姿。それがヴァーチャルユーチューバーとしての俺の姿だった。
「俺が演じるには可愛すぎるよな…全く似合ってない」
現実はオタクの男だと、絶対にバレてはいけない。この姿を通して見知らぬ人達にも「アリス」の可愛らしさを知って欲しい、好きになって欲しいから。
そしていつかは俺が演じなくても「アリス」が顕現してくれないか、そしてもう一度だけでも話せないだろうか。犬としてのアリスは死んでいて、このアバターも俺の妄想だと言うことは分かってる。それでも…夢見ちゃいけないのかな。
行きつけのカフェでコーヒーを啜りながら配信のネタを考えていた。手軽で目的もハッキリしているゲーム実況ばかりやっていたがそろそろ他のネタにも手を出さないと飽きられてしまう。雑談はボロが出そうで怖いし歌うのは自信が無い。何もネタが思い浮かばず視線を外に移す。通勤通学で歩いて行く人達を眺めた所で楽しいわけでも無いのだが、何かヒントにならないかと色んな箇所を見渡していた。
「そんな事しても何も変わらないよ 諦めてまともな仕事でも探そうよ」
俺の脳内アリスが正論を諭してくる。分かってるんだまともじゃ無いって、でもこの夢を失えば俺はどうなる。アイツらみたいに感情を殺して仕事をするなんて俺はやりたくない。
「甘えてるし逃げてるね 現実はそう許してくれないよ」
このままで良いのだろうか。このまま歳をとって何も起こせず老いて死ぬのも嫌だ。
「わがまま」
泣きそうになりながらも逃げるようにヒントを探す。その愚かしい様子にアリスも呆れて姿を消してしまった。冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干すと、向かいの席に呆れていたはずのアリスが座っていてこちらを覗いていた。
「やっと会えましたね 私の主様」
脳内アリス…じゃない。本当に居るのか、俺が創り出したアバターの姿で何故か、目の前に座っている。
「到頭夢を叶える時が来ました」
そう言ってどこから取り出したか「仮面」を俺に手渡される。状況が飲み込めずその仮面が何なのかよく観察しているとアリスは消えていた。
「夢…」
何も考えずに呟いた。何だか異様に眠く、少し早足でカフェから出た。
不思議な体験をした。でも結局この仮面は何なのか。
(俺の演じていないアリスと会えた…俺の夢少し叶った?)
色々混乱していると、何か悲鳴のような声が聞こえた。聞き間違いだろうとその方向を振り返る。
「おやすみ 夢も見れない愚かな人間」
周りの人間が全員倒れていた。死んだわけでは無くて、突然眠ったらしい。その中唯一立っているのは俺と、赤いフードを被った少女だけだった。
「あら?あなたは夢があるのね」
近づいていくる少女。置かれている状況を理解出来ずただ立ち尽くすことしか出来ない。
「近くで見ると悪く無いじゃない 嫌いじゃないわ」
頬を撫でられ少しだけドキッとする。そんな場合じゃ無いのに。
「主様に触らないでください!」
少女の手を払うもう一人の少女、もう一度アリスが現れた。
「浮気ですか?許しませんよ」
冷ややかな目で見てくるアリスに全力で手を振り、そうでは無いことをアピールする。
「また可愛らしい娘が出てきたわね 嫌いじゃ無いわ!」
少女は臨戦体制を取り、アリスに向かって殴りかかる。突然の暴力に驚きながらもどうすれば良いのか慌てて考える。
「仮面を使って!」
アリスの叫びで手に持っていた仮面を思い出す。使えって、どうやってだよと聞く暇は無さそうで。仮面なら被るしかないと行きつき顔に当ててみた。
何が起きたのだろうか。現実世界のはずなのに、アバターの姿になっている。少女の拳を交わしていたアリスは姿を消し、俺自信が「青空アリス」になってしまった。
「あなたも『仮面ワンダー』だったわけね…!」
少女は暴力の矛先をこちらに変えてきた。至る所から飛んでくる拳をなぜか避けれてしまう俺。隙をついて後ろへ大きく飛び距離を取る。
(『ワンダー』は無事に出来たようですね)
脳内アリスが語りかけてくる。一体全体何が起こってるのか説明して欲しいが、どうやらあの少女はそんな暇を許してくれそうに無い。
「私は『紅葉メイジ』!嫌いじゃないアンタの名前も教えなさい!」
突進からの力強いアッパーされながら名前を聞かれる。見るからに敵対している相手に名前を言うものなのか一瞬悩んだが名乗られた以上は返すのがマナーだろう。
「私は『青空アリス』!夢をいつか叶える者だ!」
勢いで言ったが自分でもよく分かっていない。ただ脳内アリスは感動してくれているみたいで間違っているわけでは無いようだ。
「良い挨拶じゃない 嫌いじゃないわ」
少女は満足そうな顔でこちらを見下ろす。
「思いがけない収穫には美味しいお茶を用意しないとね また遊んであげる」
そう言って少女は溶けるように消えていく。
なんとか乗り切ったと、緊張から解放され大きな溜息をつく。感覚の無い仮面を外すと元の姿に戻り更に一息つく。
「お疲れ様でした 夢の第一歩にしては良かったのではないでしょうか」
またアリスが現れ労いの言葉をかけられる。とても嬉しいが、何より今までの事を説明して欲しい。
「あなたには『仮面ワンダー』として 夢を叶える戦いをして貰います」
説明された所で、何もわからない事が分かった。
好きなものてんこ盛りに混ぜた物語になります。
そして童話が絡むし仮面⚪︎イダーと言えば子供向けでもあるので「童話」という扱いにしてみます。
夢はきらきら輝かしいものですよね!




