8話
――コーシュ・デグラン、31。元傭兵。
5年前にあった大きな国家間での戦争では悪蛇と呼ばれ、彼は多くの人間を壊し遊んだ。
「おい、コーシュ…お前、無抵抗の女子供ばかり…」
「殺すなら、綺麗な悲鳴を出すほうがいい」
「…貴様、なんの為にこの戦いに呼ばれたと思っている!」
「強い敵を屠るため、だろ?これはご褒美がわり…それくらいいいだろ。敵国の女子供なんだしよ」
「やりすぎだといって…」
「あ?」
「…っ!?」
「うだうだ言ってると、あんたも解体しちゃうぜ?」
「…強ければ、何をしてもいいというのか」
「とーぜん!俺はAレートの魔物すら素手で、身体強化だけで殺せる最強の男!!止めたきゃあんたが俺を殺してみせな?」
男は嗤う。
「弱い奴は強い奴の玩具だ!!ひゃははっ!!」
――ブシュウッ…!!
ドサッ
「…は?」
一瞬の出来事だった。
何処からともなく、突如としてあらわれた白い髪の少女。
「…こんばんは。良い月夜ですね?」
その小さな少女は俺の仲間の二人を殺し、事も無げにそう言った。
まるで散歩中に出会った誰かに挨拶をするように。
「…」
地面に倒れ、ぴくりとも動かない二人。
ひとりは手に持っていたダガーを掴まれ、そのまま顎下から脳天を貫かれた。
もう一人は首を一回転、頚椎を折られぶっ倒れた。
(…これは…夢か…?)
白い魔力が凝縮した髪。それが月明かりを反射させキラキラと光っていた。
この世のものとは思えない、幻想的な…。
(…この世のものとは思えない…?そうだ、こいつ…これだけの魔力を纏いながら気配が無い…!!)
「…お嬢ちゃん、一体何者だ…?」
白い少女はにこりと微笑んだ。
「私はあの家の、ミリィの友達」
「…ミリィ…?」
「あ、とぼけなくていいですよ!さっきあなたたちの会話は聞いていたので」
「…」
会話を聞かれてただと…いつの間に…。
つーか、何だこれは…殺気が…こいつの殺気に…震えが止まらねえ…!!
これが、こんな…まだ、小せえガキから出る殺気かよ…!?
少女はふふっ、と小さく笑う。
「私ね、最近すっごく運がいいんです」
「…は?う、運…?」
「はい!お金なくて困っていたらミリィに助けてもらえたり。洋服もらえたりお風呂もごはんも、寝る場所だって与えてくれて…」
にたりと、少女は笑った。
まるで…悪魔のような、凶暴な笑み。
「だから、彼女には何かお返ししないとなぁって思ってたんです。でも…ちょうど良さそうなのが見つかったので、ラッキーでした。あはっ☆」
フッ――
(…消え)
「――がっ、!!?」
喉が陥没。瞬きはしていない、警戒して目を離してはいなかった。
(…な、なのに、一瞬で…目の前に…指で、喉仏が押し潰された…!!)
「はい、これで叫べない。上手でしょ?私の声帯破壊」
「――…っ、ひゅー…ひゅー…」
声が、声帯が完全にイカれて…!!
「ミリィが眠ってますからね。あなたの汚い悲鳴で起こしてしまうと可哀想じゃないですか。せっかく泣き止んだのに…」
ヒュンヒュンとダガーを回転させ、俺に視線を向けた。
…冷たい…冷たい…海の暗がりのような、瞳…。
「これからあなたには質問をします。その間、少しでも逃げようとしたら殺します。私が躊躇わず命を奪えること、そこのお友だちをみればわかりますよね?」
俺は頷く。
「ありがとうございます。では、質問をします…あの家の、ミリィのお母さんを殺したのはあなたですか」
…これは…。
「あれ、違うんですか?」
…死んだどちらかのせいにすれば、助かるか…?
「正直に答えてくれれば殺さないであげますよ?…あなたじゃないんですか?」
俺は固まる。
…これは、マジか…?
い、いや、嘘だろ…。
けど、じゃあ…この質問は…なんの為に?
…ま、待てよ…。
あいつは娘へのお返しだと言っていた…なら、俺が犯人なら、この場では殺されないはず…。
娘の前で裁きを下したいと、そう考える…はず!
「私、嘘つきませんよ?」
可愛らしく小首を傾げる少女。
…ここで逃げようとしても、間違いなくこいつに殺される…。
であれば、少しでも時間を稼いで…逃げられる隙を…。
「これが最期」
冷たい声色が耳をうつ。
「…ミリィのお母さんを殺したのは、あなた?」
俺は頷いた。
まだ、死にたくねえ。
これから先、まだまだ…楽しみたりねえからな。
「よし」
(よし?た、助か…)
「ありがとうございます。じゃ、言質取れたので、殺しますね!」
…。
…。
…え、…は?
俺は首を横に振る。ぶんぶんと振り、潰れた喉で抗議する。
話が違う!!嘘じゃねえか!!と言葉にならない声で。
「…『俺の言う事を聞けば殺さないでやる』」
…!!
「これ、あなたがミリィのお母さんに言った言葉らしいですね。ミリィはちゃんと覚えてましたよ?」
…あ…ああ…。
…あ、あああああーーー!!!
「…っ、ゔ、ぉ…が…!!」
「はい、ぽいっと」
「!?」
少女は持っていたダガーを俺の前に捨てた。それに目をやった刹那、
「――ぐっ、ごっ!!?」
俺の背後に回り込み首に腕を回し絞め始めた。
(…は、早すぎるッッ――!!!)
耳元で聞こえる少女の声。
「嘘つきは、嘘つかれても…仕方ないですよねぇ?」
――ミシッ、ミシッ…メキッ
(死にたくない!死にたくない!死にたくない!)
――メキッ、メキッ…
(嫌だ助けて嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない…しに、た)
――メキ…ッッ
「…、…ッ、…〜〜…」
「じゃ、ばいばーい!あはっ☆」
――ベキィッ
※※※
――翌朝、街の憲兵がミリィの家へ尋ねてきた。昨日私が始末した男達は賞金がかかったお尋ね者だったらしい。
そして、ミリィは彼らからの被害を届け出ていた為、連絡がきた。
「…まさか、今になってあの時の犯人が。しかも何者かによって殺された状態で山の中から…」
ミリィのお父さんは泣いていた。これで妻が報われると。
ミリィもまた涙を流しお父さんへと抱きついていた。
私はその二人の姿をみて思った。
…お礼のつもりで殺したけど、よく考えたら言えなくない?と。
私が殺しのプロだって知られたら色々まずいからなぁ。ま、そんなわけで彼らを仕留めた賞金も受け取れずもんもんとしている私なのであった。
「…ごめん、シロ…それじゃギルドいこっか」
「え、大丈夫?」
「うん、いつまでもくよくよしてたら…お母さんに怒られちゃうし」
「!」
「頑張って、借金返さなきゃ!」
「…そっか」
私はミリィを抱きしめた。
アイドルとして気の利いた言葉を言えなかったから。
※※※
「…最近、クエスト中の事故が多いですね」
「ううむ」
「ギルドマスター、どうしましょう。しばらくクエストを受注禁止にして高ランク冒険者に調査を依頼しては」
「…」
ギルドマスターは長く蓄えた白髭を撫で、遠くを見つめていた。
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