6話
「――はあっ、は…」
朝。なんとかエビルプラント達の襲撃を逃れ、朝を迎えることができた。
「…」
被害は俺は右腕と肋骨、頬骨、指の骨折。体中を打撲。内蔵はなんとか無事。
ビハイブも眼窩底骨折、鼻も折れて出血、右足打撲。
一番重症なのは、ドンラウ。両腕両足骨折、髪を引っ張られ一部皮膚ごと千切れている。そしてこれが最もヤバいのは、エビルプラントの種を植え込まれていること。
「…これで、バスデーンの怪我の治療は完了」
「すまねえ」
ビハイブのスキル『エンゼルランプ 《天使の灯火》』は、かなりの魔力をしようするが大抵の怪我をたちまち治してしまう。
魔力量もそこそこあったため、俺達の怪我はほぼほぼ完璧に修復された。…ただ、ドンラウは。
「――いっ、ぎぎ…ぁ、いだいっ!お腹、いだいぃ!!あがっ、がが…」
顔を涙とよだれまみれにして藻掻き苦しんでいた。ばたばたと地面を転がり痛みに耐えている。
ビハイブのスキルは怪我は治せるが、植え付けられた種までは取り除けない。
「これは医者にしか治せない。切り開いて種を取り除くしか…急いで街に戻らないと」
「あ、ああ」
「このままだと、種が育って蔦がお腹から突き破って出てくる。そうなれば彼女はエビルプラントになってしまうわ」
…冷静だな、ビハイブは。
「わかった。日が出ているうちにはやく行こう!ほら、ドンラウ俺の背中に…」
「ぐ、ああ、ぅ…うぎぃ…」
…ぐっ、排泄物が…。
「私がおんぶする…?」
「あ、いや…大丈夫だ。ビハイブは魔力の回復に集中していてくれ。もうここからはお前頼みだからな」
昨日、どうやってあの窮地を切り抜けたかというと、全てはビハイブおかげだった。
捨て身の特攻。エビルプラントは殴打しか攻撃法がない。だから致命傷を受ける可能性は低く、負った怪我は全て自分が治せるからと、俺を特攻させドンラウを助けさせた。
(…頼りになるな)
魔力がある限りビハイブは無限に怪我を治せる。だから少しでも魔力を回復させなければ。
魔力回復用の魔石はあるが、ドンラウが役立たずになった今、極力節約しなければこのダンジョンから生きて出られない。昨日のように何があるかわからんからな。
…つーか、体が痛え…。
怪我は治ったが、痛みが…。
昨日はアドレナリンが出まくってたからそれほどでも無かったが。
「痛み止めのお薬、飲む?」
「…え…あ、いや、大丈夫だ…俺より、ドンラウに飲ませてくれ」
「…うん」
よほど痛いのか、うめき声がうるさくてかなわねえ。イライラしてくる。俺の痛みよりそっちのがストレスだ。
それから数分後――
「…く…おかしい、明らかに…おかしい」
魔物に遭遇した。3匹の小型の猿の魔物。『魔猿』レートD。
「キキッ」「キキ」「キィ?」
手には小さな石斧を持つ武器持ち。運が悪すぎる。
いや、ほんとに…この魔物の遭遇率は異常すぎるぞ!!
「…っ、…ドンラウを頼む」
「内蔵は守ってね。重症は治せない」
「わかった」
…複数の魔物を相手取るには、遠距離職がいねえと…ってのが基本だ。
しかも武器を持った相手だ。無傷で倒すのは…いや、倒すどころか普通は勝つのも難しい。
けど、やるしか…。
そうだ、こっちにはビハイブがいる。致命傷さえ受けなければどうとでもなる。恐れるな、いけ!
「うおおおおあああっ!!」
斧をぶん投げてくる魔猿。それをスキル『完璧な盾 《パーフェクトガード》』で弾き飛ばす。
そのまま武器を失った個体に体当たり。数メートルぶっ飛んでいき後方の木に当たる。くて、っと気を失ったようで動かなくなった。
(ラッキー!当たりどころ悪く死んでくれていればもっとラッキー!運が向いてきたな!!)
残り二匹。同時に飛び掛ってくる魔猿。俺は片方をスキルの盾でガードし、素早くもう一体に斬り掛った。
カーン!と斧でガードされる斬撃。魔猿はそのまま空中で体を捻り、斧を投げつけてきた。
「――っぶね!?」
素早くスキルでガード。出した盾を思い切りぶん回し、そのまま空中の魔猿にあてたたきつける。
腹部にあたり潰れ、口から大量の血を吹き出す。
「ギギ…ギ、…」
ぴくぴくと痙攣し絶命。残り一匹。やれる!!無傷で倒せるっ!!
残った一匹の魔猿。じりじりと間合いを取り、ゆっくりと後退していく。逃さねえよ…!ここで逃がせば後でいつまた襲われるかわからねえ!!
「キキッ」
身を翻し逃げていく魔猿。だが、俺の方が速えぞ!!
あっという間に追いつき、剣で頭を叩き割る。
「…よし、終わ――」
脇腹に凄まじい痛みが走った。
「――がっ…は」
「キキッ♪」
背後から魔猿が俺の脇腹に斧をヒットさせていた。幸いメイルと鎖帷子を身に着けていたため、死にはしなかったが、不意打ちで魔力の薄い場所への攻撃はかなりのダメージになった。
「…がはっ、ごほ…!!」
息が…できな、く…。
つーか…こいつ、どこから…まさか4匹目か!?
俺はハッとする。この場所…さっき俺が盾で吹っ飛ばした猿が死んでいた…。
死体がない…もしかして、いま俺を奇襲してきたのは、あの猿…。
「キキ〜ッ!!」
「!!」
魔猿が斧を振りかぶる。俺はそれを腕でガードした。スキルの盾が間に合わないと思ったからだ。
魔力で防御力をあげた腕。だが、相手も魔力を込めた全力の一撃。
ベキイッ!!と凄まじい音をたて俺の腕はひしゃげた。
とんでもない痛みだった。意識が飛びそうだった。
だが、死にたくない…!
腕を犠牲にしたおかげで斧はそれ、紙一重で俺の頭には当たらなかった。
「っ、あああああーー!!!」
剣を思い切り魔猿へと突き刺す。腹部にあたり、背から刀身が突き出た。ゴボッ、と大量の血を吐いた魔猿はそのまま倒れ絶命した。
「バスデーン!」
駆け寄ってくるビハイブ。
「痛くて死にそ…だ、たの…む、スキルを…!ぐっ、ぐぐ、…」
「とりあえずこの鎮痛剤を。この怪我を治すには残りの魔力では足りない…魔石を使うから少し待って」
俺が鎮痛剤を飲んでいる間にビハイブはリュックから魔力回復用の魔石を取り出した。
「…あれ」
「ど、どーした…早くしてくれ、やばい痛みであたまがおかしくなりそうだ…!」
「これ、この魔石…魔力が補充されてない」
「…あ?」
…なん、だと…。
「これも、これも…全部空っぽ…」
「…なんで、なんでだよ!!?」
「ッ!?」
耐え難い痛みとストレスで俺は思わず声を荒げてしまう。
「…私に、怒鳴るな」
凄まじい形相で睨見つけてくるビハイブ。
「…す、すまない…」
「お前の怪我、治せるのは私だけなんだけど…いいの?そのまま放置しても」
「…ッ、や、いや…」
「はあ…ほんと使えない。ま、魔力が回復するまで待って」
きゅ、急に…態度が…怖え、なんだこいつ。
「けどどうするの?バスデーンの怪我治ってもこの調子ならまたあっという間に夜になるよ…」
「ど、どうすれば…」
「お前がリーダーだろ、考えろよ」
「…す、すみません…」
「使えないなぁ、ほんと」
…ぐ、うう…。
どうして…こんな目に…。
※※※
「さあ、ついた!港町マリンダ!すっごい綺麗な海〜!」
私、シロは都市グラレーンを出て東にある港街に来ていた。
理由は簡単。念のためグラレーンから離れたかったのと、アイドル活動のためにお金を稼ぎたかったから。
ここには冒険者の仕事を斡旋してくれるギルドがあるからね。
「さーて、夢の為に稼ぎますかぁ!いざ人気アイドルを目指しまして〜、ごーっ!」




