5話
――Dランクダンジョン、『毒庭』の森の中。
「うおりゃあああー!!」
ロングソードによる斬撃。真っ二つになる魔物、ポイズンスライム。
「今だ!燃やせ!!」
「りょ!――…に、せし炎の精霊よ力を示せ!『フレイム』!!」
ボウッ!と魔物の肉片が燃え上がった。
「っし!オーケー」
「…ふぅ、ちかれたぁ〜!もう帰りたいんですけど」
「まあまあ、あと少しでボスエリアだからよ。サクッと倒して帰ろーぜ」
「はあ、そのセリフ何回目よ〜」
赤い髪の女魔法使い、ドンラウ。こいつはうちのパーティでも貴重な遠距離魔法職。炎、水、雷と3つの属性を操れる天才だ。
「仕方ねえだろ。シロが居なくなったんだ。俺だってダンジョンの先導すんの久しぶりなんだし、そりゃ手間取るだろ」
「…それはそーだけどさぁ、魔物に遭遇すんの多すぎない?ここDランクダンジョンなんですけどぉ」
「そんなのたまたまだろ、俺に言われても」
そこでふと思った。たしかに魔物との遭遇率が高すぎないか?と。
魔物の多いDランク以上のダンジョンでもこんなに戦闘はしなかったぞ。
「…あー、もうヤバいって。まだボス狩ってないのに魔力半分以下だよ私」
「え、マジで?」
「そりゃあれだけ魔法使ってればそーっしょ」
「いや節約しろよ!」
「はあ?あんたが魔法っていうから撃ってただけよ!私のせいじゃないでしょ、なにキレてんの!?」
「…まだ、ボスエリアにもはいってないんだぞ、それくらい自分で考えてだなぁ」
なんなんだこの女!苛つく!子供じゃねえんだぞ、お前一端の冒険者で…しかもCランクなのに!それくらい分かれよなぁ〜もう!
「地図の読み方だって間違えてたし、その上八つ当たりとか…はん、ダッサ」
「てめえ!!」
「待って」
僧侶のビハイブが俺とドンラウを制止した。
「大丈夫。魔力回復の魔石はまだ手を付けていないよ。まだ余裕はある」
「…あ、ああ」
「ふん」
ふん、って…てめえ、なんなんだこの女。シロがいなくなってから豹変しやがって。クソ女がよ。マジで苛つくぜ…。
ビハイブを見習えよ、ビハイブをよ〜。ちゃんとリーダー様をこうやってサポートして偉くねえか?
「先を急ごう、バスデーン。日が傾いて来てる…」
「ああ、夜にでもなったら厄介な魔物が出てくるからな」
ダンジョンには2種類ある。生じた転送ゲートをくぐると別の世界に移されるエリア型。岩石壁等で形成される迷宮型。
俺たちが来ているこの『毒庭』はエリア型で、小規模な島にある。
なので当然、時間が経てば日が落ち夜になる。
夜は魔力が強まる時間帯。つまり魔物の力が増し、強力な個体が出現し始めるのだ。
――それから2時間後。
「…どうするバスデーン」
「…」
あれからいくら進んでもボスエリアと記されているエリアにはつかない。同じところをくるくる回っているようだった。おかしい。
言えばまたドンラウに嫌味を言われてしまうので黙っているが…。
もう山向に太陽が沈んでいっている。オレンジが俺達三人を照らす。
「このままだとボスと戦う時には夜…いくらD級ダンジョンの魔物だと言っても、かなり危険だと思うよ」
「…ビハイブのいうとおりだな。だが帰るにしても、もう時間が」
「どこか比較的安全な場所をみつけてビバークするしかないと思う」
「は、はあ!?嫌よ!お風呂入れないじゃん!」
「「…」」
…そこかよ。
「だが、これから移動しはじめると面倒な魔物がでて…」
「それくらい何とかするわよ!魔力回復の魔石あるんでしょ?私がなんとかしてやるってーの!!」
「お、おおぅ…」
「こんな汗臭いまま寝るとかありえないわ!ほら、行くわよ先導してバスデーン!」
「わーったよ」
「…」
…あ、ちょっとむっとした顔したなビハイブ。こいつ時々こういう顔すんだよな。
…俺がドンラウのいう事を聞いたからか?これって…もしかしてヤキモチ的なあれか?あれ、俺のこと好きなのか…こいつ!?
「…バスデーン?どうかした」
「ああ、いや。なにも」
俺とビハイブは手提げランプを取り出し、内蔵された魔石に光を灯す。もう辺りは暗い。曇っているのか月も出てないので、これがないと完全な暗闇だ。
「おい、ドンラウもランプを…」
「私はいい。これがあるから」
ボウッ、と手のひらに小さな火球を出した。
「…魔力を節約しろよ」
「これくらい何ともない。ランプで手が塞がる方が嫌」
「はいはい…」
暗い道を歩きながらぼんやりと考える。
…そういや、今まで下位のクエスト…ここまで時間かかることなかったよな…。
※下位クエスト→D〜F 上位クエストA〜B 特位SSS〜S
「――…あっ」
ドンラウの火球が風に揺られ消えかけた。一瞬彼女の周辺が暗くなり姿が見えなくなる。
その瞬間、ボウッ!!と大きな火柱がたった。
「!?」「…!!」
大きくあたりが明るく照らされた。
「な…!!?」「え…!?」
俺とビハイブが目を丸くし固まる。なぜならそこには、無数の魔物がいたから。
闇に紛れいつの間にか俺達の側に近づいていた、植物系魔物。
猿の体を植物の蔦がおおい、それがゾンビのように動いていた。今の火柱はその無数の魔物を焼き払ったドンラウの火炎魔法だった。
あれは…!!動物に種を植え付け、根を生やし、寄生し、コントロール…兵隊をつくりまたさらに苗床を得るために狩りをし増殖する魔物。
『エビルプラント』レートD
「何してんのよ!!さっさと助けなさいよ!!」
「あ、ああ!」
だが、しかし…ヒーラーであるビハイブは戦闘できない。俺達の側にもエビルプラントが…さっさと片付けてドンラウを助けに行きたいが、なかなか減らない!!
ドウッ!とまた大きな火柱が発生。ドンラウの高火力火炎魔法がエビルプラント達を焼き払う。が、それでも一向に数が減らない。
「ちょっと!まだなの、バスデーンはやくしろって!」
「まてよ!こっちだって忙しいんだよ!?」
「――っぎゃ」
カエルが潰されたような、ドンラウの悲鳴がした。
「ドンラウ!?どうした!大丈夫か!?」
「…いっ、…ぐ、ぅ」
暗闇の中からドンラウのうめき声がする。
「…多分、魔力切れね」
ビハイブが震える声でそう言った。
…この数のエビルプラント…これは、もう…。
ドンラウを見捨てて逃げ…いや、ドンラウがいなければこのダンジョンから出られ…。
で、でも、ドンラウは魔力切れで…俺にはこいつらを捌いてドンラウの元に行けるような火力が…。
ど、ど、どうしよう…。
どうする…どうする、どうする、どうする!?
「――うっ、いっ…ぎ、ぎゃあああーーっ!!」
闇の中から、ドンラウの凄まじい悲鳴が聞こえてくる。
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