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2話


「むむ、む!?これは素晴らしい…なんと、美しい少女なのだ!!名前はっ、なんという!?」

「…ひっ」


男性は葉巻を投げ捨て、興奮気味に私の手を握る。いびつな笑顔を浮かべ顔を近づけ舐め回すように私の顔に視線を這わせる。


「おい、お前。旦那様が名前を聞いているんだぞ。さっさと答えろ」

「…は、…え、…シロと…いいます」

「おお、シロちゃんか!年はいくつだ?」

「…15…だと、思います…」

「ほほう、15か!その黒髪、美しいなぁ!顔の造形も実にわし好みだ」


――ギシギシ、と階段が鳴るのが聞こえた。


ふと後ろをみると、そこには小さな女の子がいた。また別の門番に連れてこられた、私よりも小さな年端もいかない幼女。

怯えがたがたと体を震わせ、顔は涙と鼻水でベトベトだった。


「おおう!?もう1個来たか!!しかもこいつもまた愛らしい造形だな!いやあ、玩具が増えてわし嬉しい!!嬉しくて笑いが止まらんのう!!」


「旦那様、こちらが首輪です」

「うむうむ」


旦那様と呼ばれる男性に渡されたのは魔石。私を制御するためのものと、おそらくこの子を制御するためのもの。


「旦那様、黒髪は魔力が強いのでお気をつけください。魔力の流れ方からして特に戦闘訓練もされてはいないようですが、遊ぶときには私がいる時に」

「そうだな。万一があると怖いからな。お前がいる時にしようか…では、それじゃあ早速」


ぐいっと引っ張られ私は中央へ。石の台があるところに腕を置かれた。


「それじゃ先ずは指行くか」

「…ゆ…指…?」


べきいっ、と私の指が折られた。途轍もない激痛に、声帯が壊れたかと思う程の絶叫が出た。


「あひっ、あはっ!いー声で鳴くじゃないかぁ!!」


膝から崩れ、倒れ込む私。そこに旦那様の蹴りが飛んでくる。顔面にあたり血しぶきが舞う。


髪を引っ張り上げられ、顔を近づけてくる旦那様。その笑みはとても嬉しそうに頬を赤らめ、興奮していた。


「これからよろしくなぁ、シロちゃん。ふへへ、ひひっ」


それから、1週間痛めつけられた。


今ほど私の魔力の多さを呪った事は無い。魔力の多い私の体は自然治癒力が高く、折れた骨も一日あれば修復されてしまった。

怪我が治るまで別の部位を痛めつけられ、治れば今度はそこをせめられる。


自分でやるのが疲れると、今度は門番の一人であるパーツリに私を痛めつけさせた。

パーツリは以前あった大きな戦争で100人以上を殺した伝説の傭兵。

そんな彼と私は戦わされ、ある種のショーをさせられた事もある。


地獄の様な日々。


死にたくなる程の辛さだったが、お前が壊れば次はそいつだと少女を指さされ、私は死ねなかった。


「…お姉ちゃん、大丈夫?」

「…うん…だ、いじょぶ…」


そんな毎日でもわずかながら安寧の時間はあった。旦那様の外出時、もしくは就寝時。

その時間だけは私も休むことを許されていた。


真っ暗な部屋。女の子と私の声だけが、そこにはあった。


「…ごめんなさい、私のせいで、お姉ちゃんが」

「あなたのせいじゃないよ、大丈夫」


痛くて痛くて、あたまがおかしくなりそう。なにかで紛らわしたい…なにか、…話…。


女の子の啜り泣く音が聞こえてきた。


「…あなたは、どうしてここに連れてこられたの」

「…え…」


やや間があって返事がくる――


「私が…悪い子だから」


「悪い子?」

「お母さんとけんかしたの…お母さんが、ひいくんばっかりかまうから」

「ひいくんて、だれ?」

「私の弟…ひいくんはいっぱい泣くから、お母さんはひいくんばっかりで…だから、私も泣いてお家から出ていったの」


またぐすりと声に涙が交じりだす。


「…そしたら、おっきな男の人たちに…つかまって…私が悪い子だから、ちゃんとしてなかったから…」


辺境の村などでよくある話だ。村の子供を攫って売りさばく盗賊。たびたび国の名で冒険者がその対応を任される事がある。…この辺でそんな被害がある村といえば、おそらく。


「もしかして、あなたはルエカ村の子じゃない?」

「! え、うん…どうしてわかったの」

「ふふ、なんとなく。ちょっとだけ凄いでしょ」

「すごい…すごい!」

「あとひとつわかることがあるよ」

「なに?」

「あなたはきっとまた村に帰れる」

「…」

「またお母さんとひいくんに会えるよ、絶対」


根拠は全くない。おそらくこのまま殺される可能性のほうが高い。でも、いまは希望をもたせて少しでも恐怖心を和らげてあげたかった。


「…うっ、うう」


…失敗した逆効果だったのかもしれない。思い出して苦しくなってしまったのかも。


あまりに無責任なことをしてしまった。


私にもどうにもできない、自分の命すら明日消えてしまうかもしれない…この状況で。


「…ごめん」


私にできること、なにか…他に…。


ふと私は昔の事を思い出した。孤児院時代。それこそまだ私があの子と同じくらいの年の時。

寂しくて苦しい時、どうやってそれを乗り越えていたのか…。


(…乗り越える事なんて出来なかったな)


そうだ。乗り越えられなかった。ただただ、彼女と同じように泣いて、苦しくて…。

そして、


「…♫、〜♪」


そして…だから、誤魔化していた。歌をうたって寂しさを紛らわせていたんだ。


「…お姉ちゃん、うた上手…」

「この歌しってる?」

「知ってる!」

「じゃあ一緒に歌おっか」

「うん」


昔覚えた童話の中の歌。あかるいメロディーで口ずさめばほんの少し気分があがる。どんな内容だったかな…童話の内容は思い出せないけれど、それを考えている内に寂しさはどこかへ消えてしまう。

女の子も涙が止まったみたいだ。


歌声が薄れ、やがて寝息に変わる。すー…すー…と、小さく呼吸が響く。


「…お姉ちゃんの…うた…すき」


「…」


なんとも言えない気持ちになった。


嘘をついて、ただ誤魔化して、そんなずるい私がひどく醜く感じる。


…自分の歌がすきだといってくれた、言葉に反応したこの胸の高鳴りにも。


※※※


「そろそろお前だな」


女の子が手を引かれ檻から連れ出された。


「な…ま、待って…!私が死ぬまでその子は」

「そんなの嘘だよーん!ぐははっ!」 


台に乗せられた女の子の細い腕。私の時のように折ろうとしている。

女の子が泣き叫ぶ。


「…じゃあ、私は…死にます」

「おおん?」

「そのこが痛めつけられているところなんて、見たくない…だから、舌を噛み切って死にます」

「…ふうむ」


旦那様は髭を撫で考え込む。そして「まあ、そうだな」と女の子の腕をはなし、檻へともどした。

そして私を檻から出す。


「お前にもそろそろ飽きたからな、じゃ先に殺しとくか」

「…あ…」

「お姉ちゃん!!」

「自殺されたら勿体無いからなぁ!切り刻んでやるから最期に断末魔で一曲唄え!!ぐはは!」


私は頭を台に押し付けられる。


「ぐあっ」


「パーツリ、ナイフをよこせ」

「はい」


パーツリから手渡されたナイフを私の頬に当てる。


ひたひたと何度も肌に触れる冷たい刃。


「そうだな…ただ殺すのも面白くない。よし、これからお前でゲームをしよう。手足全ての指を切り落とす。最期まで叫ばなければあの女の子は解放してやろう」


(…嘘だ)


「だがお前は殺す。耐えられても殺す。頭は綺麗に剥製にして飾る」


(これは…本当)


ギラギラとナイフが部屋の発光魔石で反射する。


冷たい刃…血の匂い…光…。




――あれ…私…。



「じゃあ、手の指からいくぞ」


ヒュオッと空を切る音。


「お姉ちゃん!!」


――ドッ!!





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