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1話


「…い、今…なんて…?」


都市グラレーン。その裏路地に連れてこられた私、シロは目を丸くした。


「だから、お前を売るんだっつーの」


苛立ちを隠さずに舌打ちをする男、バスデーンが辟易するように深く息をつく。

後ろにいる他のパーティメンバー、女魔法使いドンラウがにやにやと笑いこう言った。


「顔だけは良いものね。最期に可愛い服着せてもらえただけ有り難く思いなさい」


…たしかに、今私が着ろと言われ着させられたこの洋服は、いつも纏っていたものより遥かに上質な…ちょっとしたドレスのような物だった。

今、理解した…そうか、少しでも値打ちを上げるために…私を着飾ったのか。


手が震える。


話の流れからして、おそらくこれから私は奴隷商に売られる。

娼館かどこかのお金持ちに買われるか、いずれにしろ人ではなく物として扱われるようになってしまう…怖い、それは嫌だ。


「はは、逃げられねえぜ?そのためにこの狭い裏路地に連れてきたんだからな」


同じくパーティメンバー女僧侶ビハイブが頷く。


「もうそろそろ奴隷商も来るはず。無駄な抵抗はやめておとなしく売られなよぉ」


「な、なんで…私たちパーティの、仲間なのに」

「はあ?仲間だ?俺はお前を仲間だなんて思ったことは一度も無いね」

「…え」

「俺等三人とお前とは明確に違う。それはどこか、わかるだろ?」

「…特殊能力スキル、使える魔法が無い」

「そーそー!わかってんじゃん。俺にはスキル『完璧な盾 《パーフェクトガード》』があるし、ドンラウは炎、水、雷魔法が使える。ビハイブに至っては貴重な回復スキル『天使の灯火 《エンゼルランプ》』がある…なのにお前は、何もない。唯一あるのはその無駄に多い魔力だけ」


「で、でも…最初から、それでもいいって…雑用がほしいからって」

「なので、もういらなくなったから売るのですよ」


ビハイブが抑揚の無い声で言った。そしてドンラウもまた口角をあげ笑う。


「もう用済みってこと。わかるっしょ?」

「お前がいなくても雑用なんざ誰でもできる。冒険者規定で決められた報酬の均等分配…それによりお前にも入っているその報酬が惜しい。これからどんどん高ランククエストをクリアして大きなパーティにしていくには金が必要だからな。無能に渡す金なんてないんだよ」


「…」


…それは、そうかもしれない。たしかに、私は魔力が人より多い。

けど、前線に立てるほどの戦う技術もなければその魔力を有効活用もできていない。


でも、その分…情報収集やダンジョンのリサーチ、皆の身の回りのことを必死にしてきた…。


(…あ)


そっか、それがもう必要ないって言われているんだ。


私は何十冊も書いた分厚いノートを思い浮かべる。宿屋に置いてきたこれまでの努力の結晶とも言える、多くの冒険に役立つ情報が書かれたノート。


この人達はあれを使ってこれからやっていくんだろうな。それなら、たしかに私がいなくても問題ないのかもしれない。


でも、


「まあまあ、そう泣くなって!ちゃんとお前を売った金でパーティをデカくしてやるから」

「あんた、言ってたわよね。このパーティを大きくするために命かけますって」

「…ぷっ、ふふ。でも、ほんとに命を使うことになるだなんて、ちょっと面白いですね」


…悔しい。


悔しい、悔しい…なんで私、こんなに無能なんだろう。


今、ここに連れてこられて、売られると言われるまで皆の事を仲間だと思っていた。信じていた。


ほんとにバカだ。なんで気が付かなかったんだろう。


「おい、だから泣くなっていってんだろてめえ!化粧が落ちるだろーが!!」


頬を伝う涙。


…あ、そっか…。


(…私、信じていたかったんだ、皆の事)


笑う三人の顔に、孤独を実感させられる。私、一人だったんだ…ずっと。


「お待たせしました、バスデーン様」

「おっ、あんたか。奴隷商さん。これ、商品」

「ふむふむ…これはこれは、素晴らしい。珍しい黒髪に白い肌、瞳の色は…燃えるような深紅!これはかなりの魔力量をお持ちのようだ!」

「ああ。だが無能力者だぜ?魔力あっても意味ねえよ」

「そうですか、それは残念…しかし、魔力を多く保有しているということはそれだけ頑丈で自然治癒力も人より高い」

「高いっつっても多少な。戦いには使えねえ」

「ですね。ですが、使える場所はあります」

「? ふーん。まあ、いいや…で、いくら?」

「1億で如何でしょう」


「「「い、1億!?」」」


「はい。これほどの上物であればそれだけの価値はある」

「う、売った!!」

「即決ですか!いやはや流石は後のギルドマスター様!思い切りがいい!」

「そんなことはいい!1億だぞ!もう言ったからには取り下げさせねえからな!?」

「勿論です。では、こちらにご署名を」

「…ふ、へへ…1億…くくっ」


それから、契約は成立。私が孤児院出身だったのもあり、すんなりと終わった。

手の甲には奴隷の証の魔紋を施され、逆らえば痛みが走るようにされた。


…どうせ捨てるなら、売る…。


これまで面倒をみてやった分…。


めちゃくちゃな理由で売られたけど、それがまかり通ってしまうのがこの世界だ。


「このままお前はクライアントに引き渡す。いい子にしてなさい」

「…」

「反抗的…いえ、その目は絶望しているのですか。それはそれで良い顔ですね。クライアントも気に入るでしょう」


にたりと奴隷商が笑う。


「これからあなたには今よりも遥かに深い絶望が待っています。楽しみにしてなさい」


※※※


連れてこられた大きな洋館。街外れにある豪邸。


「ご希望の品をお持ちしました」

「ご苦労さん」


門番に私を引き継ぐ奴隷商。手渡した小さな魔石は、おそらく私をコントロールするための手綱だ。私の手の紋様と同じ物があの魔石に刻まれていた。


「こっちだ。こい」

「――…っ」


強く腕を引かれ洋館の中へ連れ込まれる。反射的に抵抗しようとしてしまったが、ものともせず引きずっていく門番。かなり鍛えられているのだろう。凄まじい腕力だった。


どんどん奥へ。やがて壁につきあたり、そこが開く。隠し扉だ。どうやら地下へ通じているみたいで、底が暗くみえない。

門番が蝋燭をつけ階段が目に入る。そこをまた下る。


ギシギシと軋む木の階段。一段一段と降りていくにつれ、凄まじい悪寒に襲われ始めた。

寒気…嫌な、まるで…ダンジョンで強力な魔獣が近くにいるような…そう、これは死の予感。


(…血の…匂い…が)


階段が終わり、私が目にしたものは。


「…あ…」


血に塗れた檻と肉片になった少女達だった。


「おお、新しい少女か!丁度壊れてしまったんだ、タイミングがいいな!ぐははは!」


葉巻をふかす大柄の男が笑う。もう片方の手に血塗れのナイフを持ちながら。



…私…殺されるんだ…ここで…。




【重要】

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