13話
「…うっ、…」
目を覚ましたユウゴさん。よし、これでファンを失わずに済んだ…ふう。やっぱりファンのみんなは私が守らねばだからね!
「…あれ、俺…」
さて、ミリィとユウゴさんに説明したようにエビルプラントクイーンは別に現れた魔物と戦って死んだって言おう。
「…なんで、ケツ出てんだ…!?」
急いでズボンを履き直すユウゴさん。
(…)
「さあ?」
私は首を傾げすっとぼけた。
「いや、しかし助かったな…また他の魔物があらわれて、しかもそれがエビルプラントクイーンを倒して消えたとは…」
「は?なんだそりゃ…」
「シロの話だと、また同レベルの魔物が現れたみたいで…」
「いや、そんな事あるか!?Aレートが、もう一体でただと!?」
「はい。皆さんが気絶した直後に、なんか…こう、おおきな魔物が現れて、エビルプラントクイーンをぼこぼこにしてました」
「ぼこぼこに…」「ぼこぼこ」「ぼこぼこ、だと」
「…」
「いや、まて、そういや俺達にかかっていた麻痺毒は?なんで治ってる!?」
「それは、効果が薄かったんじゃないですかね。治ってるってことは」
「マジかよ…エビルプラントクイーンの毒なのに…」
猛毒だからね。でもいいわけ思いつかないからね。仕方ないね。それで納得してくださいな。
「…とにかく、この一刻もはやくダンジョンを出よう。低ランクダンジョンにAレートの魔物が突然現れるなんて、前代未聞だぞ!はやくギルドマスターに報告を」
「それにまたそのエビルプラントクイーンを倒した魔物が戻ってくるかもしれないし…」
「…あ、鉱石は」
「そんなもん放っておけ!急いで出るぞ!」
え、え、待って…それじゃ報酬貰えないじゃん!私、タダ働き嫌なんですけど!!
「あの、皆さん!」
「あ?」「ん?」「なに、シロ」
「そういえばエビルプラントクイーンを倒した魔物もかなり死にそうでした!てか、たぶんあれは死んでる!周辺にはもう魔物の気配もないし、鉱石は持って帰りましょう!ルートもちゃんと魔物と遭遇しないとこ選びますから!」
「しかし、また突然現れたら…」
「お願いします!!!なんとかするんで!!!」
「!?」
私は土下座した。
「は!?」「ちょ、シロ!?」「ええっ…!?」
「お願いしまああああす!!!」
そうしてなんとか私の想いは届き(また変な空気になったけどここは歌うとこじゃないと思って歌わなかった)無事鉱石を回収。その後何事もなく街へとたどり着いた。
――ギルド、『ホウエンギルド』
私たちは今回の事を報告すると、ギルドマスターの部屋へ通された。
「…すまない」
「え?」
突然の謝罪。ギルドマスター、白髭のロウワンは頭を下げた。
「ま、マスター!?」
慌てるパーティリーダー、ディアゴ。
「やめてください、どうしたんですか」
「…今回の件、突然魔物が乱入するという事件は、少し前から発生していたのだ。特定のダンジョンでだが」
「え…?」
「は?知っていた…?じゃあなんで止めなかったんだよ、あんた」
「やめろ、ユウゴ」
「それは、君たちのパーティでならば対処できると思ったからだ。これまで確認されてきた乱入時に現れた魔物はせいぜいEレートが数体…それならば、君たちであればやれると」
?
私をみた?
ギルドマスターの視線。もしかして、この人私のこと知ってる…?
「け、けど、今回あらわれたのはAレート…みんな死んでてもおかしくありませんでした…!」
「ミリィの言う通りです。ギルドマスター、ちゃんと説明してください。いったいどういう状況なんですか」
「…それは、僕から話そう」
ギルドマスターの隣にいたメガネをかけた男。手をあげ前に出た。
「あなたは?」
「この件を調査している者だ。国家対魔獣特務課のリョカという。よろしく」
「…国家対魔獣特務課…」
国家対魔獣特務課、国が魔獣の脅威をおさえるべく発足された対魔獣のエキスパート。所属する人間は相当な実力者ばかりで、人外の力を持つ者もいるという。
例えば、ダンジョンから魔物が外へ出られないようかけられている封印結界は彼らの術である。それが施されるまでは今よりも地上に魔物が跋扈していて、人は護衛をつけずに外は出歩けないほどだった。
「まず、この現象は各地で起こっているんだ。君たちが行ったダンジョンだけでなく、他の地域のダンジョンでも確認済み。多くの冒険者が経験している」
「…多くの冒険者が」
「ああ。…そして、我々が調査した結果、これは現れる魔物には規則性があることがわかった」
「規則性?」
「うん。それは、ダンジョンへ進入した者の実力に対して相応の魔物が出現する、というものだ」
「…え?けど、俺達…Aレートの魔物が」
「ああ、だから済まないとギルドマスターは謝罪している。本来であれば倒せる程度の魔物がでる予想だったから」
「いや、それはそうだけど…でも、それにしたって、なぜ説明もなしで行かせた!?」
「事前にこの情報を知っている者がいた場合、この現象が起こらないからだよ。僕たちは一刻もはやくこれを解明したいんだ。だから、君たちには何も知らせなかった」
「そんな…」
ギルドマスターは髭を撫で目を瞑る。
「本当にすまない。せめてもの償いだ…今回のクエスト報酬金は本来の100倍支払おう。そしてギルド内チームランクもひとつ上げる…君たちはDだから次の査定からCになる。受けられるクエストも広がる…そうすれば前から希望していたあの依頼も…」
「は?いや、待てよ。俺らは、命が…危なかったんだぜ?」
「…ならば、君は何を望む?」
リョカがそう言ってメガネをなおした。
「じゃあ、どう謝罪してほしいんだ?結論から言ってくれ。もっと金が欲しいのか?土下座でもしてほしいのか?子供じゃないんだ、感情でぐだぐだ物を言うのはやめろ。時間が勿体無い。…僕は建設的な話がしたい」
「てめえ…」
リョカに掴みかかろうとするユウゴ。
「やめろ、ユウゴ!」
それを制止するディアゴ。その時、ギルドマスターが口を開いた。
「…確信があった」
「確信?」
「お前たちは絶対に死なない、誰一人命を落とさず無事に帰ってくる…その確信が。故にわしは行かせた」
「その確信とは?」
「…彼女じゃよ」
私に目を向けるギルドマスター。…ん?え、いや私!?
「君は『イレド』というパーティにいたシロだろう」
「…え、あ、はい…まあ」
「わしは君の事を知っている。直接顔を合わせるのはこれが初めてだが、君の話は各所から様々に聞いていてな」
…様々に?私を?って事は、あの頃の私の話だよね?
理由がわからないのでただただ、にこにこと首を傾げる。
「パーティ『イレド』が機能しているのは、シロという先導者が所属しているから。これはギルドマスター達の間でも有名な話だった…」
「…え、シロって有名人なの?」
「う?…いや、わかんないケド…」
「いいや、思い出してみなさい。君は他のパーティやギルドから何度も引き抜きを受けていたはずだ」
「…あー」
「え、そうなの!?シロ!?」
「冗談とかお世辞かと…」
「ええっ…」
ミリィに引かれた。なんかちょっとショックかも。こんな顔初めてみた…。
「いや、しかし…確かにシロさんにはそれだけの力はある。さっきのダンジョンでもルート先導は他に類をみないほど完璧だった…しかも初見のダンジョンでだ。魔物との戦闘を避けられるということはそれだけ生存率を上げられるということ。他のパーティからすれば喉から手が出るほど欲しい人材だろうな」
「そうだ。彼女ほどの先導者は貴重で他に類を見ない…さらに言えば、あらゆる情報を常に頭に入れダンジョン魔物などにも詳しい。彼女がいるパーティの生存率は極めて高い…というか、ぶっちゃけシロが参加したクエストやミッションでは死人はゼロだ」
「「「え!?」」」
ミリィ、ユウゴさん、ディアゴさんが目を丸くして私をみた。
確かにまえの私は色々と勉強に余念が無かった。だって魔力が多いだけの『無能力者』だったから。
パーティの役に立ちたい…無能でもどうにか皆のために頑張りたい、その一心で努力をし続けていた。
…最近はアイドルに夢中でそこらへん怠っていたけど。現にダンジョンで突然現れるという魔物の事を知らなかったし。
「すっごい!シロすごいねえ!?」
「!!」
私の手を握るミリィ。
「あ、うん…」
しかし、そうか…私のことを知っていたから行かせたのか。クエストの書類にも私の名前、元いた所属ギルドの記載欄があった。あれを確認していたってことか。
けど、ここまでだ…これ以上の面倒事は受けない。私が覚醒者だとしれればまたそれを利用しようと彼らはする。きっと。
確かにお金は欲しいけど、アイドルにさく時間がなくなるのは嫌だからね。
「それでなんですが…シロさんにひとつ強力してほしい事が」
リョカがそう言って私に笑いかけた。言った側から…来た。
「私、それにはご協力できません」
「…え」
「内容はおそらくミッションへの参加ですよね。私の探知能力を使った。あまりそういう大がかりなものには行きたくないです。時間をとられたくないので。…そのために『イレド』から抜けたから」
「え、えー…うわぁ、マジか。どーしよう」
リョカが頭を抱える。そのためにイレドから抜けたとかふつーに嘘ついちゃったけど…まあ使えるものは使っておこう。バスデーンも私を売ってすぐにパーティ登録は抹消してるはずだろうしさ。
「ふむ」
ギルドマスターも髭を撫で目を細めた。
「それは、なぜだね?パーティを抜けたなら金が必要だろう…せっかくの国からの大きな依頼。報酬もたんまりでるぞ」
や、そりゃまー報酬は欲しいよ?でも、その後が面倒なのね?だってそこで実績なんて作っちゃったら目をつけられるじゃん!また来てってなるじゃん!アイドルできないじゃん!それはダメじゃん!
「シロは忙しいんだよね!アイドルしなきゃだし!」
お、おお、ミリィが援護射撃してくれた!
「はい!私、アイドルするので無理です!」
「…アイドル…?」
首を傾げるギルドマスターとリョカ。ミリィが身ぶり手ぶりで説明しはじめた。
「こう、踊って、歌を歌うんです!シロはそれがすっごく上手で…はやくたくさんの人に披露したいんです!そのために頑張ってるんです!ね、シロ?」
「そうそう!だから時間のかかる大がかりなミッションはしたくありませーん!」
髭を撫で目を瞑るギルドマスター。やがて目を開け、ふいに壁にかかっているカレンダーに目をやった。
「…そろそろ、この街でも祭りだな」
(…?)
ギルドマスターは私を横目でジッと見てくる。…え、なに、その意味深な目…。
「なーんかわし、アイドルみたくなってきちゃったかも」
!?
「この街のお祭りは人いっぱいだからなぁ、こそでそのアイドル?が歌って踊ったりしたら盛り上がるじゃろうなぁ」
…え、急になに…言って…?ていうか、それ私出たい…。
「でも困ったなぁ、わしミッションで忙しいからなぁ。わしが携われば祭りでアイドルというやつの歌って踊れる舞台を用意してやれるんじゃけどなぁ」
…。
「誰か協力してくれれば祭りには間に合うかもしれないんだけどのう」
ちらっ、ちら…っと私を見てくるギルドマスター。
「誰か優秀な先導者がミッションに参加してくれればなぁ〜。いないかなぁ、わし助けてくれる人おらんかなぁ…ちらっ、ちら?」
「…いや、でも嫌がってんだろコイツ」
「や り ま あ あ あ あ すっ !!!」
「「「「!?」」」」
私はユウゴさんを押しのけ、とても元気よく了承した。
だってアイドルの歌って踊れる舞台、それってつまりはライブができるって事でしょ!?そんなの絶対やりたいじゃんー!!




