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12話


――シロ、前世、7歳。


「…」


血塗れになった同い年の女の子。


私はそれを見下ろしていた。


手には彼女の命を奪ったナイフ。


「…おお、素晴らしいよ。お友達を殺すのに僅かな躊躇いも一切見られなかった!あれほど仲が良かったこの子を一瞬で殺してしまえるとは!テストは合格、やはり君は最高傑作だ!!」


殺し屋として育てられ、感情の一切を奪われた私は、一番の仲良しの命を奪うことになんの感情もわかなかった。


けどそれは殺し屋として最も必要で大切なもの。いざ自分と誰かの命を天秤にかけたとき、その対象がどれだけ自分にとって重くても躊躇わずに差し出せるかどうか。


数秒の判断で生き死にが決まるこの世界。私が伝説と呼ばれる数、人を殺しておきながらも生きながらえれたのは、そうしてソレを捨てることができていたからだ。


赤ん坊でも子供でも女でも老人でも誰でも、私は簡単に切り捨てられる。


そしてそれは、生まれ変わった今も同じだ。



――エビルプラントクイーンの正面へ駆け出す。すると左右の岩壁から彼女の触手が突き出てきた。


私を捕らえようと襲ってくるが、体を捻り紙一重で躱す。


次に天井から触手が突き出してきた。それも躱す。


出口に到達。刃物を持ってないので素手で引きちぎる。


(…あ、どうせミリィ死ぬんだったら、彼女の持ってたダガー貰っておけば良かったなー)


今更そう思っても仕方がない。魔力全開、髪が白くなる。


「うおおー!!!」


何とか1人分の抜けられる穴をあけられた。


「よっしゃ!それじゃ、失礼しまーす!!みんな、ばいばーい☆」


ごめんね、みんな!私にはアイドルになるって夢があるんだ!だから今死ぬわけにはいかない!

すっごいアイドルになるからさ、ホントごめんね〜!!(泣)




――ズズ、ズ…


シロが消えた採掘エリア。彼女を捕らえることをあきらめたエビルプラントクイーンは、横たわる三人へと触手を伸ばす。


到達した触手。それが口の形状へと変わり、ゆっくりと三人を飲み込み始めた。


エビルプラントクイーンは獲物を頭から飲み込む。一番魔力と栄養価が高い脳と心臓を喰らうためだ。


ずりずりと三人の体が吸い込まれていく。


魔物にとって大きな魔力を保有する冒険者はご馳走である。


「グゲ、ゲゲ…」








「でもダメー!!!」

「!!?」


ドゴオオッ!!とエビルプラントクイーンの体に蹴りをいれ登場したシロ。


「グゲェ!!?」


思わず触手が止まる。


「やっぱダメだよ!!私のファンだもん!!ファンは喰っちゃだめえええ!!!」


「グゴゴ…!?ゲゲ!?」


「うおおお!!」


一目散にミリィの元へ駆け寄るシロ。彼女の僅かに出た足を両手で引っ張る。


「た、べ、な、い、でええええーー!!!」


ずるん、と出てくるミリィ。


「グゲァ!?!?」


「よっしゃ、次!!」


次にディアゴの足を掴む。ぐいぐいと尋常じゃない力で引っ張られるのにエビルプラントクイーンは混乱していた。


なぜなら触手の口の中には無数の牙が生えており、一度入れた獲物を引き抜こうとすれば、返しになっている牙にささるようになっている。


なのに、何故か無傷で引っ張り出されたミリィ。その謎の現象に理解が追いつかず、他の攻撃に移ることを忘れぽかーんと呆けていた。


「せーのっ、よいしょーおおおおッ!!」


ずるん!とシロがディアゴの引き抜きに成功したあたりで、エビルプラントクイーンはあることに気がつく。


ディアゴの体に魔力の薄い膜が張ってあることに。


「グゲァ…」


そう、シロはその莫大な魔力をつかい、自分の体を覆うようにミリィとディアゴの体を魔力の膜で守っていたのだ。

武器に魔力をのせる応用。本来は高等技術であるその延長線上の技術である。


「ギギ、グガアアア!」


エビルプラントクイーンが我に返り攻撃を再開しようとした時、シロは――


「あとは、ユウゴさん…それはファンじゃないからいっか!喰ってよし!」


ミリィとディアゴを両脇に担ぎ逃げる。そこへ刃状の触手が飛んできて地面に突き刺さった。そこにはもうシロの姿は無く…


「って、んなわけなーい!!!」


ズガガガッ!!と触手を切り刻むシロ。二人を安全な場所へ移動+ミリィの装備していたダガーを借りて戻ってきた彼女は、一瞬で刃状の触手を塵へと変える。


「これからファンにする予定なんだから、喰っちゃだめ!!」


ユウゴを一息に引き抜き、片足を持って二人のもとへずりずりと引きずっていく。ズボンが脱げかけていて半分ケツがみえているが仕方ない、緊急事態だ…とシロは考える。


「これでよし!」


ふんす、と鼻息を荒げるシロ。


エビルプラントクイーンはシロの魔力がひときわ大きくなったのをみて本格的に戦闘態勢へとはいった。


このエリアな四方八方を蔦と根が覆い、武器状の触手が無数に生えてきた。

剣、斧、槍、それらが百本以上。さらにそれに加え、地中からエビルプラントが湧き出てきた。その数も百体以上。


本来、Aレートの魔物は国の騎士隊、もしくは高ランクの冒険者A以上のパーティ等で対応しなければ到底太刀打ちないクラスの強さを有する。


(やっぱこうなるよね、エビルプラントクイーンと戦うとなると…)


3人が麻痺毒で死ぬまで残り7分。


3人を助けられる可能性は麻痺毒をもらった時点でかなり低く、それなら自分1人で逃げたほうがいい。

なぜならその低い可能性にかけるのはコスパが悪いし、もしかしたら自分の力を知られるかもしれない。

もたもたしていればシロ自身も毒を吸引して死に至る可能性がある。シロにあるていど毒の耐性があれど、エビルプラントクイーンは生息地によって生成される毒は違うし、喰っているものによってその強さもA以上になることもある。…などなど、全てを天秤にかけた末、1人で逃げることをシロは最初選択した。


それが、殺し屋として、プロとしての正解――。


「でも、ファンは大切でしょ。私アイドルだし」


シロはにこりと笑みを浮かべ、そして目を閉じた。


「…久しぶりに、本気で…殺ろうか」


【――私は、標的を殺す為だけの道具】


シロの顔から笑みが消失。


身体から力が抜け、ゆらゆらと揺れる。


細まり鋭くなったシロの眼が、標的ターゲットを捉えた。


瞬間――


――ヒュッ…


目にも止まらぬ動き。人間とは思えぬ凄まじい速度で、エビルプラントクイーンの触手、出現させたエビルプラント、百以上を屠った。


その間、わずか3分。


エビルプラントはエビルプラントクイーンが生物に種を植えることで生まれる。

その核となる種を遠隔でコントロールし、一度に多くのエビルプラントという不死の兵を操るのだ。

腕が千切れようと、頭が吹き飛ぼうと、蔦と根で再生し戦い続ける。

唯一の弱点である核の種はより強固で頑丈な蔦と根で守る。最強の兵隊。


しかし、それにも弱点がある。強固な蔦や根は硬ければ硬いほど太くなる。故に隙間が必ず生じているのだ。ほんの僅か、体外からはみえない微かな隙間。


だが、シロはそこを突く。


エビルプラントの僅かな動きを観て、動きの偏りを見極める。個体によって違う、ほんの些細な命を守る動きの偏りをみて、急所を割り出し、そこをダガーで突き殺す。


約7割のエビルプラントが殺された時に、エビルプラントクイーンは完全防御耐性に入った。自身が寄生している少女の体、その腹部にある核を守るため最大級の強固な根を身体中に巻いた。

下の部分から出ていた根があしのようになり、どすんどすんと出口へ向かっていく。


(…逃げる気か)


シロはダガーを振り被る。


「でも、もう遅いよ」


バキッ、キッ…


ダガーが砕けはじめる程、凝縮、集中された高濃度の魔力。


(遮蔽物無し、邪魔者無し、魔力付与も十分…)


それを込めたダガーをシロは投擲。


――カァーンッッ


と甲高い音がなった。


エビルプラントクイーンの鎧のように守られた身体に僅かな穴が空いている。それは的確に中にある少女に植え込まれていた核をとらえ、貫いていた。


ドオオオンッ


エビルプラントクイーンは倒れ、大量の蔦と根が腐り落ちた。


「…任務完了」


シロの髪がすぅっと黒く変わる。


「ふぅ…。さてさて、あとは麻痺毒の抗体だ!久しぶりだけど作れるかな?…ま、こっからはもう運だねっ。あはっ☆」





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