10話
「…マジかよ」
私たちはゲートに入ってから55分後、目的地へとたどりついた。
「…嘘…だって、目標予定時間…3時間だよ…!?」
「え、そうなの!?」
「あ、ああ、そうだ。シロさん…もしかして、ここには来たことが?」
「ないです」
「はあ!?いや、ありえねえよ!?」
「…いや、来たことあったとしてもこのタイムは…ありえないよ、シロ」
「本当に、全部覚えてやがって言うのかよ…あの10秒くらいで…」
「…しかも、シロはたぶん…魔物を上手くさけていたんだと思う」
「は!?」
「微妙にルート変えて進んでるとこあって、あとあと複合する道で修正すればいいかなって黙ってたけど、シロは自分で修正していた…あれ、今思えば魔物がいたから変更したんじゃ」
「いやまて、それはありえない。魔物がいれば気配や匂い、音で俺とユウゴがすぐに気がつくはず…」
「いましたよ、魔物」
「…な」「マジで?」
「はい。迂回したところ全部に魔物いました」
「なぜ我々が気がつけなかったそれに、君が…」
「…ずっと、小さな頃から訓練されてたので。私、五感が人より鋭いんです」
「い、いくらなんでも…ありえねえよ、そんなの…」「いや、しかしシロさんは現にやってみせた。ここでの平均魔物遭遇率は片道7〜10回。それが、今回ゼロだぞ…ありえん」
なんかとてもありえないらしいです。
「とりあえず、休憩しましょうか。ここらへん魔物いないと思うので。きたら私、しらせますよ」
「お、おお…」「そう、だね」「…すまない、助かる」
また妙な空気に…歌うか?もう歌っちゃおうか?前世で覚えたアイドルの歌をさ!
死ぬ直前に聞いたあれしか歌えないけど。しかも全部聞く前に殺されたからフルは歌えないけど。
「いや」
いや!?だめ!?また!?
「シロさんも休んだ方がいい。というか、俺とユウゴで鉱物を掘るからその間にゆっくりしててくれ」
「え、私も…」
「ミリィはシロさんといてくれ。食事でもしてゆっくりと…水とか出して。俺とユウゴは魔物と出くわさなかったから戦闘もしてないしな。せめて採掘仕事させてくれ」
「もしかして、適度に魔物と遭遇したほうが良かったでしょうか?」
「え…あ、いや、危険はない方がいいからな」
…戦闘訓練もしたかったのかなと思ったけど、違いましたねえ。
まあ、でもここらの魔物であればあまり訓練にもならないか。ユウゴさんもディアゴさんも纏う魔力はそれなりに洗練されてるし。
カツーン、カツーン、と採掘の音が聞こえる。少しはなれた場所で私とミリィがシートを広げ座る。
「みてみて、サンドイッチ作ってきた!」
「わあ!」
ミリィの手作りサンドイッチ。一口サイズの食べやすく切られたものがいくつもバスケットに入っていた。
しかも種類も豊富で、チーズトマトサラミチキン、色々なものがサンドされている。
「美味しそー!」
「えへへ、いっぱい食べてね」
「うんっ!」
いやあいやあ、たいして仕事もしてないのに良いんでしょうかねえ。ミリィの料理の腕前はかなりのもの。それは昨日いただいた夕食で文字通り味わったから知っている。
こんな美味しいものを食べさせてくれるなんて、またお返しを考えねばなりませんね!
「いただきますっ!」「どーぞ」
はむり、とハムとチーズのサンドイッチを頬張る。
「〜〜っ、っ!」
「ど、どう?」
「おいひぃ…」
「! 良かった!」
にまにまと笑うミリィ。
「あのね、シロ」
「ん?」
「さっきはありがとう」
私はたまごサンドをくわえながら首を傾げる。
「先導…たぶん、シロは私が怖がってるの気がついてたんでしょ。だから、ありがとう」
「…ううん。ミリィにはたくさん助けてもらってるし」
「ふふ、そっか」
「うん、そーだ」
なんだか楽しい。何故だろう…これまで何度も何度もパーティでクエストはこなしてきたはずなのに。こんな気持ちは初めてだ。
バスデーンたちのパーティ、『イレド』にいた頃は、あれほど苦しいと感じる事ばかりだったのにな。
「あ、そーだ。私、シロのアイドル活動応援するよ」
「え、本当に!?」
「うん、できることあったら言ってよ!たぶん、裁縫とかならできるから!昨日の夜話だと、お洋服必要でしょ?装飾とかできそうだから」
「ありがとーーー!!!めえっちゃ助かるよおおーーー!!」
「おっ、なんだ?盛り上がってるな」
「なに騒いでんだよ…」
採掘が一段落したのかディアゴさんとユウゴさんがこちらへきた。
「あ、お疲れ様二人とも」「お疲れ様ですっ!」
「いいとこ掘り終わったから来た。で、なんの話をしてたんだ?ミリィ、シロさん」
「シロ、言ってもいい?」「うん、もちろん!」
「実はシロには夢があってね、それを応援するって約束してさ」
「夢…なんだよ、夢って?」
「アイドルになる事!です!」「いえい!」
「「…アイドル?」」
「可愛い女の子が歌って踊るやつ!知りませんか?」
「踊り子ってことか?」
「んー、まあそれに近いかも?」
「私はそのアイドルのファンになったのです!」「いえい!」
「おまえ、そんなよくわかんねーもんのファンによくなったな?」
「踊り子でしょ?」
…はっ、ここだ!ここでは!?歌うか!?
「実際にシロさんにみせてもらえばいいんじゃないか?」
ここだ!!ここだった!!キター!!!
「え、いや…ここダンジョン内」
「はい、はーいっ!!やらせていただきまーす!!」
「うるさっ!?元気いいなおい!!つーか、うるさくしてたら魔物が…」
「だいじょーぶです!!ここら周辺、音の届く範囲に魔物はいません!!やります、やらせていただきます!!」
しゅばっ、と飛び上がる私。初のステージ!ライブ!お客様が三人も!!テンション上がるー!!!
「では、いきます!」
あの日、前世でみた…アイドルの姿。
脳裏に焼き付いている、あの輝きを…
再現する!!
「――〜♪、♫〜」
メロディーを鼻歌で奏でて、歌詞のある部分は歌い、ダンスをこなす!
「わあっ…!」「…」「おお…すごいな…」
洞窟に反響していい感じに聴こえる!ミリィがめを輝かせてくれてるのが見える。嬉しい!
「カッコいい!シロすごい!」「…いや、なんだよ、こいつ…この身のこなし…すげえ…」「ああ…本当にすごいな、シロさん…あれだけ激しく動いてるのに、まったく息を切らさず、普通に歌までうたってるぞ…」
「〜♪、♫〜」
トン、とバク宙を決めポーズ。これは私のオリジナル。
「終わりです!あはっ☆」
「「おおー!!!」」「…」
パチパチと拍手が沸く。わあ~、なになに凄く嬉しいんだけど!なにこれ、この気持ち。胸の奥が熱い。暴れまわりたくなるくらい嬉しい!!
「すごいすごい!!私、ほんとにファンになっちゃったー!!」
「これは、俺もシロさんのファンになっちゃうなー!踊り子と歌を同時にこなすなんて…」
「ね!歌も聞いたことがない感じだったし!これは人気になりそう!!」
「もっと多くの人にきかせてやりたいな、これは!」
「だよねだよね!?」
「えへへ、ありがとー…うへへ」
めっちゃ褒められて溶けそう。嬉しくてとけちゃうよ、これ。顔熱い。
「ね、ユウゴもそう思うよね!?」
「…え、ああ…いや、俺は別に」
「えー!すごいってさっき言ってたじゃん!」
「き、気のせいだろ…」
「はっはっは、照れるなよユウゴ。お前もシロさんのファンになろうぜ」
「な、なんねーし!」
えー!!ファンになってくれないのー!?
…がーん。
「ほら、みて!シロがあきらかに悲しそうな顔してるじゃん!」
「おい、ユウゴ!シロさんを悲しませるんじゃない!!」
「…ぬ、ぐ…」
「い、いえ!二人とも待ってくださいっ!」
私は二人を制止した。
「私はアイドル…いつか、実力で、ユウゴさんをファンにしてみせます!」
「「おおー!」」
「…いや、なんだこれ…」
――ズズ…
(…むむ!?いきなり巨大な魔力の気配…!?)
※※※
〜ダンジョン『毒庭』〜
俺、バスデーンは膝から崩れ落ちた。
「…お前ら、死ぬとこだったな?」
「はあ、はあ…た、助かった…」
狼系の魔物に狩られそうになっていたところ、突然現れた単独冒険者に助けられた。
黒い外套を纏った大男。大きな剣を背負う、長い黒髪のオッサン。
顔には大きな傷が斜めに入っていて、無精髭か生えている。外套の隙間から見えるゴツい筋肉。
(…ごくり)
奴はあっという間に4匹の首刈尾狼を屠ってしまった。
レートはC…それを一人で全て。かなりの凄腕だ。
「…レートC…100万ってとこか」
「は…?」
「4頭で400万。払え」
「…待ってください、私たちお金もってないんです」
ビハイブが口を挟む。
「なら身体だ。お前、あとで身体売って稼いでこい」
「…え…」
「顔も体もそこそこいい。場所を選べばすぐに稼げるだろ」
「…あんた、なに言ってんだ…!そんなことこいつにさせられるわけ」
――ドゴッ!!
「ぐあっ!?」
頭を地面にたたきつけられた。片手で、簡単に。なんてパワーだ…!?
「お前らは今、命を俺に救われた…なら対価は支払うべきだろう?それに別に法外な値段じゃねえだろ。民間のハンターに頼めばもっと高い…それをたった400万でいいっつってんだよ」
「…ぐっ、…」
「それとも、ここで俺に好き放題されて死ぬか?あ?」
にやり、と男は笑った。




