プロローグ
――ズルリ、と一人の男が膝から崩れ落ちる。
暗闇にさす月明かりのみの部屋。
血の湖と化した部屋の中、首を裂かれ倒れた無数の遺体。
そしてたったいまその遺体の仲間入りを果たした男の背後にいた、一人の少女。
「…ひっ、ひぃい…!!」
殺された男たちのボスは腰を抜かし後退りする。目の前に立つ小さな少女に恐れ慄き、涙と糞尿を漏らし。
「なんでもするっ!だ、だからっ…頼む、殺さないでくれえ!!」
ひとつ、またひとつと歩み近づいていた少女は、その一言に動きを止める。
「…なんでも」
手に持っていた血まみれのナイフを自らの頬にあて、「ん〜」と悩む。
その表情は先ほどまで男たちを蹂躙していた悪魔的笑みはなく、年相応のあどけなく幼い顔をしていた。
そう、十数人もの男たちを殺したのは、まだ15の少女だった。
白いワンピースを着た可愛らしい、腰まである純白の髪を持つ少女。
しかし、その動きは少女とはかけ離れていた。目にも止まらぬ早業。扉をあけ、にこりと微笑んだかと思ったその瞬間、三人の首から血液が噴き出し倒れた。
それからみるみると、断末魔もあげるまもなく彼を残した全ての男たちは物言わぬ遺体となった。
時間にして僅か4秒。
所要武器は果物ナイフ1本。
白いワンピースには返り血も無く、綺麗なままだった。
「そうですね、では!ひとつだけお願いしてもいいですか!」
「も、勿論だ…!聞かせてくれ!!」
男は、まるで天使の様な女だと思った。月明かりに照らされ、ぼんやりと光ってみえる。
白い髪がなびきまるで翼のようにはためく。
柔らかく優しい微笑み、長く白い指先、すらり伸びる脚…現実の世界に天使が存在したなら、こういう姿なのかも知れない。
――それが、男の最期の記憶だった。
瞬きの、ほんの刹那の時間。少女は男の背後へ回り込みナイフを喉へ突き刺していた。
あまりのスピードに男は死んだことにも気が付かず、首を裂かれ男は絶命。
「かわりなんて無いですよ。命は命で償ってください」
にこりと微笑む。
「嘘つきだなぁ」
バルコニーの手すりに乗っている黒猫が少女に言う。
「ふふん、嘘はアイドルの基本だからね」
えへへ〜、とにまにま笑う少女。
「めちゃくちゃいい笑顔だ…」
ふふん、と鼻息を荒らげ立ち上がり腰に手を当てる。胸を張り少女はひときわ煌めく笑みを浮かべた。
「最強のアイドルですからっ!!」
――これは、スマイルキラーと呼ばれた一人のアイドルのお話。




