65 未来への系譜 王女の結婚
王の執務室にて
即位して間もない王――コンスタンティンは、頭を悩ませていた。
王としての責務は山積みであるが、避けて通れぬものがひとつあった。
「婚姻か……」
自分はすでに政略のために外国の第二王女を娶った。聡明で芯のある女性で、国母としても申し分ない。
王弟マクシミリアンには辺境伯の娘を、もう一人の王弟エドワードには仕事柄理解のある娘を……それぞれ婚姻先を整えているところだ。
だが。
「問題は、オクタヴィアだ」
白亜の離宮に幽閉されていた時間が長く、それから政変の波に揉まれ、気づけば二十三歳。
いくら絶世の美女でも、令嬢としては行き遅れだ。しかも性格が災いして国内からの申し込みは少ない。
「……毒舌は美点でもあるが、嫁ぎ先からすれば剣より恐ろしい刃に見えるのだろうな」
そう呟くと、件の王女が背後から涼やかに声をかけてきた。
「お兄様、わたくしに何か失礼なことを考えてはいませんこと?」
「……この洞察力は、やはり手放したくないんだよな」
妹の美貌と切れ味鋭い舌を思うと、国外に出すのは惜しい。そばで執政を手伝わせたい。
ハッと閃いた。
「よし、いい考えがある!」
「絶対ろくでもないわね」
◇◇◇
緑の離宮にて
その頃、リリエンタール伯爵家。
オズワルドが書類を前に息子へと声をかけた。
「アウル、侯爵になったぞ。冷遇されていた王子に尽くした功績だそうだ。陞爵の儀に共に出席しろ」
「はい、父上」
平然と答えたものの、両親の妙に温かな視線にアウレリウスは背筋がむず痒くなった。
◇◇◇
陞爵の儀
荘厳な謁見の間。
王冠を戴くコンスタンティンは立太子時よりさらに威厳を増していた。
「リリエンタール伯爵、オズワルド。並びにその嫡子、アウレリウス」
呼ばれて進み出た父子は、玉座の前で最敬礼を捧げる。
「忠義と献身を称え、オズワルドを侯爵に叙す」
低く重い声が響き渡る。
「さらに、アウレリウス・レオナルド・フォン・リリエンタール。そなたに褒美を与える」
緊張で伏せていた顔を上げると、王の横に並ぶ王女オクタヴィアと目が合った。彼女は不敵な笑みを浮かべている。
「我が妹、王女オクタヴィアを下賜する」
一瞬、謁見の間の空気が凍りついた。
「……っ!?」
アウレリウスは思わず声を失う。隣の父に肘で小突かれ、慌てて頭を下げた。
「つ、謹んでお受けいたします。ありがたき幸せ……」
オクタヴィアは扇で口元を隠しながら、勝ち誇ったように笑った。
こうして侯爵家の若き跡継ぎは、容赦なく恐ろしい王女を妻に迎えることとなった。
――波乱に満ちた第二部の幕開けである。




