64 番外編 若き騎士
マクシミリアンは、入団した日から特別扱いを拒否した。
王族用の個室を辞退し、他の新人兵と同じ質素なベッドを選び、汗と土埃にまみれた生活に身を投じた。
だが、王族に厳しく当たることで快楽を得る者はいつの世にもいる。彼は先輩兵たちから、毎日しごきを受け続けた。重い鎧をつけたまま走らされ、剣術の立ち合いでは容赦なく叩き伏せられた。
それでも彼は一度も文句を言わなかった。疲れ果て、倒れ込むように眠るその背に、次第に周囲の目が変わり始めた。
◇◇◇
入団して一年が過ぎるころ、見覚えのある顔が訓練場に現れた。かつての取り巻きたちだ。
「殿下、俺たちも来ました」
彼らはマクシミリアンを追いかけ、自ら剣の道を選んでくれたのだ。彼らの剣筋はすでに洗練されており、ともに稽古を積んだ過去が確かに刻まれていた。
彼の胸は熱くなった。
翌年も、その次の年も、一人、また一人と仲間が増えた。だが全員が彼のもとに集ったわけではない。エドワードの派閥に合流した者もいれば、別の道を選んだ者もいた。
それでも手紙を寄こし、「殿下を支えたい」と言ってくれる者もいた。
マクシミリアンは剣を握りながら、ただひたすら努力を続けた。
◇◇◇
入団から数年後。
マクシミリアンは最年少で近衛隊隊長となった。かつて彼を叩き伏せていた先輩たちが、その剣の腕と胆力に敬意を表して道を譲ったのだ。
彼のもとには、今や多くの忠実な仲間たちがいた。
◇◇◇
そのころ、マクシミリアンは辺境伯の令嬢との婚約が決まり、挨拶のため辺境を訪れた。
「紹介したい者がいる」
辺境伯に連れられ、彼が通された一室にいたのは――マーサだった。
かつて自分を育て、守り、命を賭して逃がしてくれた女性。
ルクレツィアの怒りから逃れ、名前を変え、家族とともに静かな生活を送っていた。
マーサは幸せそうだった。彼女の背後には新しい家族がいて、穏やかな笑みがあった。
マクシミリアンはまた泣いてしまった。
彼女の前では、昔から泣いてばかりの、図体の大きな男なのだ。




