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乳母は見届ける  作者: かも ねぎ
青年期
61/65

61 番外編 セラフィーナ、騎士になる(はずだった)

 セラフィーナ・ドロテア・フォン・エバーハルト、当時十二歳。

 剣術の腕に絶対の自信を持ち、物心ついた頃から騎士物語を読み漁り、胸を熱くしていた。


 ――真珠姫アイラを守るギルベルト、その物語の中のような構図が、この上なく羨ましくて、そして憧れでもあった。


 ならば自分も、アイラの剣となるべきではないか。


 セラフィーナはそう決めた。


◇◇◇


 騎士団入団試験には保証人のサインが必要だ。

 彼女は迷わずアイラの父である公爵閣下に直談判した。


「わたくしを騎士団に入れてくださいませ」


 公爵閣下は一瞬言葉を失った。普段は王族にさえ臆せず物を言う人物が、十二歳の伯爵令嬢に面食らったのである。だが彼は面白いことが好きな男だった。


「ほう……もし落ちたらどうするのだ」


「その時は潔く諦めます」


 公爵閣下は口元を吊り上げた。

 そして、楽しげにサインを書いた。


◇◇◇


入団試験


 男装し、剣を腰に差し、サイン入りの書類を携えたセラフィーナは颯爽と試験会場に現れた。


 協力した使用人たちは皆、半ば呆れ、半ば期待しながら彼女を見送った。

「女であるお嬢様が騎士団に入れるはずがない」

「落ちたら慰めて差し上げましょう」

 そんな空気が漂っていたが、セラフィーナは気にしなかった。


――受かればよいのだ。


 そして、結果は合格。


 使用人たちは言葉を失った。


◇◇◇



 さすがに使用人達も黙っているわけにはいかなかった。エバーハルト伯爵家に報告が入り、父母は真っ青になった。


「女性は騎士団に入れないのです! 当たり前でしょう!」


 こっぴどく叱られ、入団は辞退させられた。


 そして事態は公爵閣下の耳にも入り――


「申し訳ありません、公爵閣下!」

 エバーハルト伯爵は頭を下げ、公爵閣下は公爵閣下で「いや、まさか受かるとは思わず」と頭を下げる羽目になった。


 おそらく、公爵閣下が格下の伯爵家に謝罪したのは、このときが人生で初めてであろう。


◇◇◇


 セラフィーナ本人はというと、けろりとしていた。

 悔しさはあったが、受かってしまったのだから満足でもあった。


 そして十七年後。


 緑の離宮の応接室に、騎士団入団試験の書類を手にした第二王子マクシミリアンが立っていた。


「保証人が必要でして。ご助力いただきたく」


 書類を受け取る夫オズワルドの横で、セラフィーナは口元に手を当て、笑みをこらえていた。


 ――ようやく、あのときの夢が誰かに受け継がれるのだ。


 彼女の胸には、あの日の悔しさと、誇らしさが、少しだけ温かく蘇っていた。

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