表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乳母は見届ける  作者: かも ねぎ
青年期
60/65

60 番外編 若き日のセラフィーナと真珠姫

 セラフィーナ・ドロテア・フォン・エバーハルトが初めて公爵家の門をくぐったのは、まだ四歳のことだった。

 剣を握らせれば恐ろしい速さで型を覚え、学問を与えれば貪るように知識を吸収する。エバーハルト伯爵家の神童と呼ばれていた彼女のもとに、公爵閣下から「娘アイラの友人として通わせよ」という、実質的な命令が下ったのである。


 めんどうだ、と思っていた。だが公爵家に断れる家などない。父も母も喜々として命を受け、セラフィーナは着飾られて馬車に乗せられた。


 そして――衝撃を受けた。


 八歳のアイラを目にした瞬間、セラフィーナは思った。


 人形が、そのまま歩いて喋っている。


 白磁の肌に、真っ直ぐなプラチナブロンドの髪。淡い空色の瞳は、見る者を一瞬で魅了した。  

 しかもその人形は、やさしく、あたたかい笑みでセラフィーナを迎え入れたのだ。


 あっという間に心を掴まれたセラフィーナは、それからは自主的にアイラの侍女のように仕えた。年齢差ゆえに対等な友人というには距離があったが、聡明なセラフィーナはアイラの負担にならぬよう、礼節をもって彼女に寄り添い続けた。


◇◇◇


 アイラ十五歳。セラフィーナ十一歳。


 「真珠姫」と呼ばれる美しき公爵令嬢の婚約が、ついに整った。相手はギルベルト・トフィーネ侯爵令息。


 当代随一の美丈夫。剣術の才、家柄、人格、そのどれを取っても完璧な青年である。アイラとギルベルト――この世にこれほど似合いの二人があるだろうか。


 アイラを敬愛するセラフィーナでさえ、彼にならば真珠姫を託せると心から思った。


 二人は相思相愛で、婚礼の日を指折り数えて待っていた。


◇◇◇


 だが運命は、時に無慈悲である。


 アイラ十八歳、セラフィーナ十四歳のとき。王家主催の舞踏会で、事件は起きた。


 ――王子が、アイラの腕を掴んだのだ。


 「私はこの者を正妃とする!」


 突如放たれた宣言に、会場は騒然となった。王家からの圧力。公爵家といえど逆らえぬ権力。


 婚約は破断となり、アイラと王子の結婚が決まった。


 王子は見目は悪くなかった。濃い金髪に茶の瞳、背も高く、顔立ちも整っていた。だが時代が悪い。血筋を除けば、彼はギルベルトに勝てるものを何一つ持っていなかった。


 セラフィーナの真珠姫は、日に日に気力を失っていった。二人きりのときには、美しい涙をはらはらと零すこともあった。


 さらに酷いことに、ギルベルトは近衛騎士団から第三騎士団へ左遷された。王家の決定は容赦がなかった。


 そして結婚式の日。絢爛な祝福の中、アイラの瞳は虚ろだった。

 セラフィーナは人知れず泣き続けた。


◇◇◇


 あれから二十年。


 王妃を降り、ただの「アイラ」となった真珠姫の隣には、ギルベルトがいた。


 二人は並んで歩き、視線を交わし合い、穏やかに微笑んでいた。


 その姿を見て、セラフィーナは胸がいっぱいになった。


 ――ようやく、あなたの物語が幸せに辿り着いたのですね。


 セラフィーナは誰にも見えぬところで、そっと目元をぬぐった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ