58 影を統べる者
――ルクレツィア追放から数か月。
新王コンスタンティンの治世は始まったばかり。宮廷も街も、まだ新たな秩序に馴染みきれてはいない。
その裏側で、影の戦いは淡々と続いていた。
王都の地下道、剣戟の音がこだまし、やがて呻き声とともに静寂が戻る。
カツン……カツン……
革靴の音が響いた。
「王弟殿下! アウレリウス様! 制圧いたしました!」
密偵部隊が男たちを取り押さえ、その中のリーダー格が報告する。
「ご苦労」
エドワードの声は鋭く冷え、取り押さえられた男たちは息を呑んだ。
彼は静かに屈み込み、震える者たちを見下ろす。
「――この国で、武器を密輸して戦を煽る? 愚かだね。君たち」
底冷えするような微笑を残し、立ち上がる。
「連れていけ。尋問部隊に引き渡せ」
アウレリウスが冷ややかに命じ、男たちはすぐさま引き立てられた。
残された二人は、互いに目を見合わせる。
「……うわぁ、アウル、ここ臭くて寒くない?」
「寒いな。早く戻ろ。猊下にも報告を入れないと」
少年の頃から変わらぬ囁き合い。
けれどその背にまとわる威圧感は、もはやかつての“冷遇された子どもたち”のものではなかった。
いずれこの二人が、兄王の治世を影から支える柱となる。
――その未来は、決して遠いものではない。




