56 決戦前夜
華の離宮 王女の執務室
プラチナブロンドの髪がさらりと落ち、光をはね返す。
書類から目を上げたオクタヴィアが微笑んだ。
「みぃつけた」
その笑みは宗教画の聖母のように美しく、荘厳ですらあった。
◇◇◇
王太子の執務室
「どうした、オクタヴィア」
コンスタンティンが手を止めて妹を見る。
「ねぇ、お兄様、エドちゃんを使ってもいいかしら?」
「エドちゃん……」
差し出された書類に目を通し、コンスタンティンは口元にゆっくり笑みを浮かべた。
「いいだろう。こちらに来るように知らせを出そう」
「わたくしが緑の離宮に行ってもいいのよ?」
「そんなことをしたら、エドワ……エドちゃん、今度こそ卒倒するだろう」
「その呼び名、気に入ったのね。使ってもいいわよ」
◇◇◇
数刻後・王太子の執務室
「兄上、エドワード馳せ参じました」
ぴらりと差し出された書類を受け取ったエドワードは、目を通した瞬間にさっと顔色を変えた。
「やれるか」
「……御意に」
「エドちゃん、よろしくね」
ふらりと入ってきたオクタヴィアの声に、エドワードは固まった。
「……エド……ちゃん?」
コンスタンティンがわざとらしく真顔で言う。
「よろしくな、エドちゃん」
エドワードの眉間に刻まれた深い皺を見て、兄妹はそろって爽やかに笑った。
◇◇◇
馬車の中
「ねぇ、アウル」
エドワードは頭を抱えた。
「僕たちの仕事について、兄上たちにはまだ話していないんだ。
ウルバヌス猊下の組織のことは、たとえ王太后お抱えの凄腕の影が探ったとしても、絶対に探らせない自信がある。
なのに、どうして兄上は僕にこの仕事を振ったんだと思う?」
アウレリウスは腕を組んで、淡々と答えた。
「宰相補佐である父上が……何かしたかもしれない。
だけど、第三者監察院についてはまだ知らないのではないかって、そんな気がしている。
多分、王太子殿下と王女殿下が僕たちの特性を見て、その上で、この仕事を振ろうと決められたんじゃないかな……」
エドワードは両手で頭を抱え込んだ。
「兄上と姉上は本当に……」
「恐ろしい方だ」
「ね……」
「こわっ……」
「うん。こわっ……」
「……早く離宮に帰りたい」




