54 王太子と王女
華の離宮、謁見の間には王太子コンスタンティンと王女オクタヴィアがいた。
豪奢な椅子に長い脚を組んで座る王太子。その横に立ち、扇を手にしたオクタヴィア。
窓から射し込む光が二人の威容を縁取る。
壁際には騎士たちと使用人たちが整然と並び、場の空気は息苦しいほどに重々しかった。
エドワードとアウレリウスは膝をつき、最敬礼をした。
「エドワード、馳せ参じました。コンスタンティン兄上、王国の未来を担う太陽のごとき御方に、謹んで敬意を表します」
「ふぅん」
コンスタンティンの隣で、オクタヴィアが興味深そうに二人を眺める。
「楽にせよ。さて、エドワード――初代国王の名は?」
そこから王太子による、まるで口頭試問のような質問が続いた。
大臣の名前、灌漑計画、関税の効率化、辺境防衛のあり方、さらには古典の一節や季節の果物の食べ方まで。
汗を流しながらも、エドワードはすべて答えた。
やがてオクタヴィアが吹き出した。
「もう、お兄様。遊ぶのはおやめなさいな」
「我が弟は生き字引のようだ。つい楽しくなってしまった」
兄妹が楽しげに笑うのを前に、エドワードとアウレリウスはただ呆然と跪いた姿勢のまま眺めるしかなかった。
◇◇◇
「エドワード、立ちなさい。こちらへ」
オクタヴィアが扇で彼を指す。
言われるままに近づいたエドワードを、彼女はいきなり抱きしめた。
驚愕するエドワード陣営の面々。だが壁に控えた護衛も使用人たちも、微動だにしない。
そしてコンスタンティンが歩み寄り、オクタヴィアごとエドワードを抱きしめた。
「――エドワード」
低く力強い声が響いた。
「我は王となる。ゆえに告げる。我が治世を支える柱の一つとして、我が手の下に汝を置く。
ここに誓おう。我が剣は汝を護り、我が影は汝を覆う。汝は、我が同胞なり」
エドワードの手を取ったコンスタンティンの瞳は、鋼のように冷たく、そして熱かった。
◇◇◇
どうやって離宮に戻ったのか、エドワードは覚えていなかった。
ただ隣でアウレリウスが真っ赤な目をして鼻をすすっていたので、あれは夢ではなかったのだと理解した。
「……本当に兄上の庇護を得たんだな」
自分の声がかすかに震えていた。




