53 ルクレツィアの苛立ち
かつてルクレツィアは王の寵愛を一身に受け、宮廷の華と呼ばれていた。
王の腕に抱かれて現れれば、婦人たちは香水の香りを漂わせて彼女に群がり、茶会には貴族たちがこぞって招かれようとした。
王太后でさえ、あの頃はまだ隠居した身であり、彼女の前に出ることは少なかった。
ルクレツィアは美貌を誇り、権勢を誇り、王宮の中心に立っていた。
だが今はどうだ。
王太子と第三王子への暗殺計画はことごとく失敗。送り込んだ暗殺者は消息を絶ち、仕込んだ毒は近づく前にすべて暴かれる。
王太后の息のかかった近衛騎士団が彼らを守り、影の網がすべてを阻んでいた。
「どうしてなのよ……!」
彼女は鏡台の前で宝石を握りしめ、苛立ちのまま床に投げつけた。
正妃も最近はなにやら調子づいている。
あの可哀想な顔をしていた女が、王太后の後ろ盾を得て、いまや宮廷の実務を動かしているという。
婦人たちも、以前はルクレツィアの茶会に呼ばれれば目を輝かせていたのに、最近は「都合が悪くて」とやんわり断るばかり。
◇◇◇
王とも最近は喧嘩ばかりだった。
「あなたがもっとしっかりしていれば、こんなことにはならないのよ!」
「うるさい! お前が好き勝手にやるからだ!」
互いに疲れ切り、声を荒らげるだけの口論にしかならなかった。
かつて甘やかしてくれた王の面影はもうなく、今の王はただ頑なで、薬のせいか気も荒い。
そして、最大の苛立ちは王太后だった。
「ばばぁが……好き勝手やって……!」
ルクレツィアは鏡に映る自分を睨みつけた。
緑の離宮を改築し、使用人を送り込み、第三王子専用近衛部隊を認定し、第三王子を守る陣営を作り上げた。
すべては王太后の名のもとに行われ、ルクレツィアには止める術がなかった。
「なんなのよ、いったい……!」
彼女の声だけが、広い部屋にむなしく響いた。




