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乳母は見届ける  作者: かも ねぎ
青年期
53/65

53 ルクレツィアの苛立ち

 かつてルクレツィアは王の寵愛を一身に受け、宮廷の華と呼ばれていた。

 王の腕に抱かれて現れれば、婦人たちは香水の香りを漂わせて彼女に群がり、茶会には貴族たちがこぞって招かれようとした。

 王太后でさえ、あの頃はまだ隠居した身であり、彼女の前に出ることは少なかった。


 ルクレツィアは美貌を誇り、権勢を誇り、王宮の中心に立っていた。


 だが今はどうだ。

王太子と第三王子への暗殺計画はことごとく失敗。送り込んだ暗殺者は消息を絶ち、仕込んだ毒は近づく前にすべて暴かれる。

 王太后の息のかかった近衛騎士団が彼らを守り、影の網がすべてを阻んでいた。


「どうしてなのよ……!」

 彼女は鏡台の前で宝石を握りしめ、苛立ちのまま床に投げつけた。


 正妃も最近はなにやら調子づいている。

あの可哀想な顔をしていた女が、王太后の後ろ盾を得て、いまや宮廷の実務を動かしているという。

 婦人たちも、以前はルクレツィアの茶会に呼ばれれば目を輝かせていたのに、最近は「都合が悪くて」とやんわり断るばかり。


◇◇◇


 王とも最近は喧嘩ばかりだった。


「あなたがもっとしっかりしていれば、こんなことにはならないのよ!」

「うるさい! お前が好き勝手にやるからだ!」


 互いに疲れ切り、声を荒らげるだけの口論にしかならなかった。

 かつて甘やかしてくれた王の面影はもうなく、今の王はただ頑なで、薬のせいか気も荒い。


 そして、最大の苛立ちは王太后だった。


「ばばぁが……好き勝手やって……!」

 ルクレツィアは鏡に映る自分を睨みつけた。


 緑の離宮を改築し、使用人を送り込み、第三王子専用近衛部隊を認定し、第三王子を守る陣営を作り上げた。

 すべては王太后の名のもとに行われ、ルクレツィアには止める術がなかった。


「なんなのよ、いったい……!」


 彼女の声だけが、広い部屋にむなしく響いた。

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