表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乳母は見届ける  作者: かも ねぎ
青年期
49/65

49 泣き虫の二人

 エドワードとアウレリウスは、緑の離宮のエドワードの私室にいた。

 ウルバヌスの言葉――「後継者として育てたい」――がエドワードの胸をずっと締めつけていた。


 アウレリウスが真剣な顔で切り出す。

「エド、受けるべきだ」


「……アウル」


「僕たちは力をつけなくちゃいけない。エドは知識の幅が広く、冷静に物事を見られる。得難い人間だ。絶対に、この仕事は向いてる。僕も観察力だけは自信がある。エドを支えることができる。だから……!」


 声が熱を帯びていく。


「だから、この道を選んで。エドを一人にはしない。僕が支える、絶対に!」


 エドワードは胸の奥が熱くなるのを感じながらも、言葉が出なかった。

 わかっている。わかっているけど――


「……怖いんだよ」


 かすれた声でようやく絞り出した。


「偉そうなことを言って!

アウルなんか、いつも僕の後ろにいるだけじゃないか!」


「――っ!」


 アウレリウスの顔が一瞬で真っ赤になる。


「僕だってエドを守りたくて必死だったんだ! それを……!」


 感情が爆発した。

 互いに胸ぐらを掴み、殴り合いになった。

 拳が頬を打ち、痛みと涙と怒鳴り声が交錯する。


「やめろってば!」

「エドこそ!」


 二人とも、気づけば涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。


◇◇◇


 ドアが勢いよく開いた。


「もう終わった?」

 セラフィーナがやれやれと入ってきた。

 後ろにはカールもいて、呆れたように笑っている。


 二人とも床にへたり込み、殴られた頬を押さえて息を切らしていた。

「若いって素晴らしいわね」

 セラフィーナは微笑みながら薬箱を開けた。


 カールはタオルを持ってきて、片方ずつの顔を拭いてやった。


「もう少し手加減しろよな」


 手当が終わったあと、エドワードはしばらく黙っていたが、やがて小さく呟いた。


「やってみるよ、僕……。アウルは僕を支えてくれ。君なしでは、僕は弱虫なんだ」


 アウレリウスの目にまた涙があふれた。

「要らないって言われても、ずっとついていくからな!」


 彼はわんわん泣きながら叫んだ。


 部屋の外でセラフィーナ、カール、遅れてきたオズワルドがにこにこと見守っていた。


「本当に、若いっていいわねえ」

 セラフィーナの言葉に、オズワルドも静かに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ