49 泣き虫の二人
エドワードとアウレリウスは、緑の離宮のエドワードの私室にいた。
ウルバヌスの言葉――「後継者として育てたい」――がエドワードの胸をずっと締めつけていた。
アウレリウスが真剣な顔で切り出す。
「エド、受けるべきだ」
「……アウル」
「僕たちは力をつけなくちゃいけない。エドは知識の幅が広く、冷静に物事を見られる。得難い人間だ。絶対に、この仕事は向いてる。僕も観察力だけは自信がある。エドを支えることができる。だから……!」
声が熱を帯びていく。
「だから、この道を選んで。エドを一人にはしない。僕が支える、絶対に!」
エドワードは胸の奥が熱くなるのを感じながらも、言葉が出なかった。
わかっている。わかっているけど――
「……怖いんだよ」
かすれた声でようやく絞り出した。
「偉そうなことを言って!
アウルなんか、いつも僕の後ろにいるだけじゃないか!」
「――っ!」
アウレリウスの顔が一瞬で真っ赤になる。
「僕だってエドを守りたくて必死だったんだ! それを……!」
感情が爆発した。
互いに胸ぐらを掴み、殴り合いになった。
拳が頬を打ち、痛みと涙と怒鳴り声が交錯する。
「やめろってば!」
「エドこそ!」
二人とも、気づけば涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。
◇◇◇
ドアが勢いよく開いた。
「もう終わった?」
セラフィーナがやれやれと入ってきた。
後ろにはカールもいて、呆れたように笑っている。
二人とも床にへたり込み、殴られた頬を押さえて息を切らしていた。
「若いって素晴らしいわね」
セラフィーナは微笑みながら薬箱を開けた。
カールはタオルを持ってきて、片方ずつの顔を拭いてやった。
「もう少し手加減しろよな」
手当が終わったあと、エドワードはしばらく黙っていたが、やがて小さく呟いた。
「やってみるよ、僕……。アウルは僕を支えてくれ。君なしでは、僕は弱虫なんだ」
アウレリウスの目にまた涙があふれた。
「要らないって言われても、ずっとついていくからな!」
彼はわんわん泣きながら叫んだ。
部屋の外でセラフィーナ、カール、遅れてきたオズワルドがにこにこと見守っていた。
「本当に、若いっていいわねえ」
セラフィーナの言葉に、オズワルドも静かに笑った。




