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乳母は見届ける  作者: かも ねぎ
青年期
45/65

45 新しい風

 騎士団の寮。

 訓練を終えたマクシミリアンのもとに、一人の少年が現れた。


「お久しぶりでございます、殿下」


 エルドリッジ子爵家の嫡男、クレメンス。

 家格は高くないが、外国との交易で財を成し、古いしきたりに囚われない気風を持つ家柄だった。


「俺に何の用だ」

 マクシミリアンは水で喉を潤しながら、視線を向ける。


 クレメンスは深々と一礼した。

「これまで第二王子派として殿下にお仕えしておりましたが、本日をもってその務めを終えたく存じます」


「……そうか」


 マクシミリアンの声には怒りも失望もなかった。

 むしろ、もう派閥などに縛られない自分にとって、この報せはどこか清々しくすらあった。


「その上で、第三王子殿下――エドワード殿下の御旗のもとに立ちたいと考えております」


 クレメンスの目は澄んでいた。義理を欠かすまいとする気配がにじむ。


 マクシミリアンは一瞬、息を吐いて笑った。

「わざわざ俺に言いに来るとはな。……義理堅いやつだ」


 彼は立ち上がり、クレメンスの肩に手を置いた。

「弟を支えてくれるのなら、ありがたい。――俺はもう派閥には興味はないが、俺についてきた者たちは必ず守る。離れる者を恨みはしない。好きにしろ」


 クレメンスは深々と頭を下げた。

「感謝いたします」


 マクシミリアンはこざっぱりとした笑みを見せ、踵を返した。

 彼にとってはもう、それで十分だった。



 翌日、少年は緑の離宮を訪れた。

 エドワードはアウレリウスと共に応接間に現れ、少し緊張した面持ちで彼を迎えた。


「初めまして、殿下。私はクレメンス・エルドリッジ。エルドリッジ子爵家の嫡男です」


 柔らかな物腰。丁寧な言葉。だがその奥には、しなやかな強さがあった。


「私はこれまで第二王子派に身を置いておりました。ですが今後は、殿下のお力となりたい。――新しい風を、殿下のもとに集めるために」


 エドワードは思わずアウレリウスと目を合わせた。


「なぜ、僕に?」


「殿下は謙虚と皆が申します。しかし、謙虚の裏にあるものを見抜ける者もおります。私は、殿下のもとに未来を見たいのです」


 エドワードの胸に、これまでにない確かな重みが広がった。


 クレメンス・エルドリッジが第三王子派についたことで、これまでルクレツィアと距離を置いていた新興貴族や、交易で財をなした商人たちが動き出した。


 彼らは古い権威よりも、新しい秩序を望んでいた。

 そして彼らにとって、エドワードの清廉さと謙虚な気質はむしろ安心感を与えたのだ。


 こうして第三王子派は、静かに、だが確実に膨らみ始めた。


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