43 入団
マクシミリアンは、本殿から訓練場を見下ろしていた。
夜の闇の中、月明かりに照らされた訓練場は静まり返っている。昼間は騎士見習いたちの掛け声が響くその場所も、今はただ冷たい風が吹き抜けるばかりだった。
彼は拳を握った。
――自分は何者なのか。
第二王子として生まれ、王位を望まぬまま、母ルクレツィアの期待に押し潰される日々。
「王になれ」「兄弟を踏みにじれ」と囁く母の声に、幼い頃は従うしかなかった。
だが第三王子エドワードの瞳に映ったあの日の真っ直ぐさが、彼の心を揺さぶった。
「兄上の謝罪を受け入れます」
弟の言葉がまだ耳の奥に残っている。
――このままでは終われない。
彼は剣を取ると決めた。王族でありながら、剣と矜持だけを携えて生きる道を。
騎士団の入団試験は年に一度。貴族や平民、地方の次男三男まで、多くの若者が挑む狭き門だ。
王族が受けるなど前代未聞だった。
宰相が保証人として署名したとき、騎士団の幹部たちは顔を見合わせた。
「……本気なのか、殿下は」
「逃げも隠れもなさらぬおつもりだろう」
試験の日、マクシミリアンは王族としての装飾を一切捨て、平服に剣一本だけを帯びて現れた。
走り、登り、剣を振るい、馬を操る。
すべての課題を黙々とこなしていくその姿に、試験官たちは次第に言葉を失った。
最後の模擬戦、彼は息を切らしながらも相手の剣をはじき飛ばし、地面に突き立てた。
その瞬間、試験官の一人が低く呟いた。
「……決して贔屓目などではない。ただ一人の騎士として合格を与える」




