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乳母は見届ける  作者: かも ねぎ
青年期
43/65

43 入団

 マクシミリアンは、本殿から訓練場を見下ろしていた。

 夜の闇の中、月明かりに照らされた訓練場は静まり返っている。昼間は騎士見習いたちの掛け声が響くその場所も、今はただ冷たい風が吹き抜けるばかりだった。


 彼は拳を握った。

――自分は何者なのか。


 第二王子として生まれ、王位を望まぬまま、母ルクレツィアの期待に押し潰される日々。

 「王になれ」「兄弟を踏みにじれ」と囁く母の声に、幼い頃は従うしかなかった。


 だが第三王子エドワードの瞳に映ったあの日の真っ直ぐさが、彼の心を揺さぶった。

「兄上の謝罪を受け入れます」


 弟の言葉がまだ耳の奥に残っている。


――このままでは終われない。


 彼は剣を取ると決めた。王族でありながら、剣と矜持だけを携えて生きる道を。


 騎士団の入団試験は年に一度。貴族や平民、地方の次男三男まで、多くの若者が挑む狭き門だ。

王族が受けるなど前代未聞だった。


 宰相が保証人として署名したとき、騎士団の幹部たちは顔を見合わせた。

「……本気なのか、殿下は」

「逃げも隠れもなさらぬおつもりだろう」


 試験の日、マクシミリアンは王族としての装飾を一切捨て、平服に剣一本だけを帯びて現れた。


 走り、登り、剣を振るい、馬を操る。

 すべての課題を黙々とこなしていくその姿に、試験官たちは次第に言葉を失った。


 最後の模擬戦、彼は息を切らしながらも相手の剣をはじき飛ばし、地面に突き立てた。

 その瞬間、試験官の一人が低く呟いた。


「……決して贔屓目などではない。ただ一人の騎士として合格を与える」

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